プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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2018/07/14

THE GET UP KIDS(ザ・ゲット・アップ・キッズ)  『Kicker(キッカー)』

キッカーキッカー
ゲット・アップ・キッズ

Tugboat Records 2018-06-06
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じつに7年ぶりとなるEP。THE GET UP KIDS(ゲット・アップ・キッズ)といえば、JIMMY EAT WORLD(ジミー・イート・ワールド)とならび、ポップエモの代表的なバンドとして知られている。だがそのサウンドは実験的で、アルバムを発表するたび、ローファイなギターロックなど、色々なジャンルの音楽を取り入れていた。

とくに再結成後の11年に発表されたアルバム『There Are Rules(ゼア・アー・ルール)』では、Bauhaus (バグハウス)などのゴズにガレージを合わせたようなサウンドで、アグレッシヴで暗くノイジーで憂鬱な世界観を追求していた。実験的に次々と新しいことに挑むチャレンジ精神こそ感じられたが、そこには本来ゲット・アップ・キッズの魅力であった、失恋や次のステップに踏み出すことのできない未練や尻込みした感情を歌っていた姿はなかった。ダークでどす黒いアルバムを発表することによって、ゲット・アップ・キッズ像を過度に求めるファンへのイメージを打ち壊す、辟易とした態度がうかがわれた。

そして今作ではJAWBREAKER (ジョーブレイカー)などの初期エモを彷彿とさせる作品に仕上がっている。感極まったボーカル、パワフルで中部の放牧とした広大で乾燥した大地をイメージさせるノイズギター、キャッチ―なキーボードのメロディー、そこにはエモーショナル・ハードコアと呼ばれていたころの古い世代のエモを感じさせる。90年代のレコーディング機材がまだ発達していなかったころの、クリアーでないノイズまみれの音の悪さのなかに、パワフルな熱意が詰まった、人間味にあふれた味わい深さが魅力だったサウンドだ。

エモ全体の原理までさかのぼったサウンドには、現在では失われてしまった、むかしの古きよきものを取り戻そうとする姿勢がうかがえる。とくに彼らが否定していたエモと呼ばれることへの辟易とした感情が、誇りへと心境が変わってきている。NMEのインタビューで『エモという言葉にはプッシー(弱虫)な意味が強く、エモと呼ばれることに侮辱を感じていた。だが現在では、Modern Baseball(モダン・ベースボール)やThe Front Bottoms(ザ・フロント・ボトムズ)などの第四の波と呼ばれるエモ・バンドが出てきて、ゲット・アップ・キッズから影響を受け進化してきたと公言している。ゲット・アップ・キッズがエモのレガシーとして語られていることに誇りを感じる。』と語っていた。

さすがに歌詞は20代の恋愛経験ような、感傷的でデリケートな心情は歌っていない。“Sorry”ではジムの奥さんと子供についてなど、中年男性のごく平凡な日常を歌っている。そこには小さな幸せやささいな至福感が漂っている。

格別ファンの期待を応えようとする姿勢もなければ、裏切るよな仕草もない。あるのはエモの歴史を体系的に知ってもらおうとする姿勢と、中年の男性がただ純粋に自分の好きな音楽を楽しんでいる姿なのだ。楽しさや至福感が伝わっているいい作品だ。

2018/07/07

Krimewatch (クライムウォッチ)

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ニューヨーク出身のハードコアバンドのデビュー作。ニューヨークのハードコアバンドといえば、MADBALL(マッドボール)やEARTH CRISIS(アース・クライシス)など、バンダナにジーパンなどのアメリカ的なファッションで、ギャング的アティテュードか、もしくはストイックなバンドたちが思い浮かぶ。だがこれらのバンドたちと比べると、彼らは一線を画したアティテュードを持っている。

日本人の女性、Ogiura Rhylliがボーカルのバンドで、そのアティテュードは、フェミニズム思想が強い攻撃的なハードコア。歌詞には、“腰抜け”、“ゴキブリ男”、“小便たれ”、“マチズモ(男性優位主義)”など、挑発的で汚い言葉が並ぶ。Lil Kim(リム・キム)、Big L(ビッグ・エル)、Nas(ナス)、Mobb Deep(モブ・ディープ)、Jay-Z(ジェイZ)、Missy Elliot(ミッシー・エリオット)などのヒップホップから影響を受けていると発言しているが、そのアティテュードは、BIKINI KILL (ビキニ・キル)などのRiot grrrl(ライオットガール・シーン)に近く、80年代の日本のハードコアバンド、THE COMES(カムズ)からの影響も多大に感じる。

そのサウンドはカムズのヒステリックで甲高いボーカルに、ユースクルーやマイナースレットなどの野太くノイジーなギターを合わせた、シンプルなハードコアパンク。ボーカルスタイルや汚い言葉を吐き捨てるリリックからはカムズの影響を多大に感じる。女性を軽んじる男性への嫌悪と怒りにあふれている。差別や見下されることに対する怒りがヒステリックで悲痛な叫びとともに巨大な塊となって襲い掛かってくる。まさにやさぐれたハードコアなのだ。

ニューヨーク・ハードコアのなかでも80年代の日本やイギリスの匂いを感じさせるクライムウォッチは異質で孤立した存在なのだ。

               こちらから販売

2018/06/16

Illusion (イリュージョン) Demo (デモ)

Cover

ニューヨークはブルックリン出身のハードコア・バンドのデモ。ピップホップな歌いまわしからは、MADBALL(マッドボール)からの影響を色濃く感じる。だがメタルからの影響は一切ない。独特なリズムで刻むギターのリフからユースクルーからの影響を感じるし、スピーディーでスラッシュメタルを取り入れたハードコア・サウンドからはCROMGS(クロマグス)の影響を感じる。金属質なリフを取り入れる前の、古き良きニューヨーク・ハードコアを集約したサウンドだ。

歌詞は、友情や怒りや憎しみなど、日常的なことについて。<愛だった感情が憎しみに変わる>とか、<友人の死の瞬間>といった内容からは、息詰まるような緊迫した空気を感じることができる。まるでニューヨークのスラム街にたむろするギャングのようなアティテュード。マッドボールと同くギャングや不良の匂いがするハードコアなのだ。

こちらからダウンロード可能

2018/06/07

NO FUN AT ALL (ノー・ファン・アット・オール)  『GRIT (グリット)』

GRITGRIT
NO FUN AT ALL

BIRDA 2018-04-12
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じつに10年ぶりとなる6作目。スウェーデン出身のNO FUN AT ALL(ノー・ファン・アット・オール)いえばメロディック・ハードコアの先駆者バンドのひとつとして知られている。メロディック・ハードコアの創始者といえばBAD RELIGION(バッド・レリジョン)。だがバッド・レリジョンとは異なるアプローチのメロディック・ハードコア・サウンドを展開している。

その異なるアプローチとは、8ビートのパンクロックをめちゃくちゃ速くした曲と、弾丸のような勢いの2ビートサウンドに壁のようなノイズギターが印象的な曲。BLACK FLAG (ブラッグ・フラッグ)などのアメリカン・ハードコアから進化し、カントリーなどを加え、アメリカ的で帰結したバッド・レリジョンと比べると、Misfits(ミスフィッツ)やGANG GREEN (ギャング・グリーン)などのアメリカン・ハードコアをよりスピーディーに、イギリスのニューウェーヴなどの独特なメロディーを取り入れた。じつにヨーロッパ的なサウンドといえるだろう。

そして今作でもメロディック・ハードコアなサウンドに変わりはない。スピーディーでノイジーな2ビートの曲が多かった前作と比べると、今作では8ビートのメロディックパンクが中心。メロディーフレーズが印象的だった2作目の『Out of Bounds (アウト・オブ・バウンス)』の路線を、よりポップに、より爽やかに、よりメロディックに突き詰めている。

とはいってもけっして能天気なポップさではない。『アウト・オブ・バウンス』にあった憂鬱さや切なさが全面に出したメロディーも、ここにはない。あるのは苦難のときを覚悟し、乗り越え、開き直ったような爽やかさ。渇いた心をポップな風が吹き抜け、傷口を癒すような爽やかさなのだ。

90年代からけっして変わることのないメロディックで、ノイジーで、スピーディーなサウンド。彼らの魅力は健在。

2018/05/30

The Lion's Cage(ザ・ライオンズ・ケージ)  『Raw 2017(ロウ2017)』

Thelionscageraw2017cover


ニューヨークはブルックリン出身のハードコア・バンドのデビュー作。日本語でライオンの監獄と名付けられたバンド名からは、実際のところは分からないが、なにやらスラム街の閉ざされた監獄という隠語のように感じる。

彼らのアティテュードとは、MADBALL(マッド・ボール)やSheer terror(シアー・テイラー)やMERAUDER (メラウダー)などの流れをくむギャングの要素が強いハードコア。歌詞には“綱渡り”や、“運の悪さ”、“プレッシャー”など、ギャングの世界を彷彿とさせる死と隣り合わせな緊迫感に満ちた言葉が並ぶ。

緊迫感に満ちた静けさから濁流のような激しさに変わる展開からはマッドボールの影響を色濃く感じ、そこに狂ったような激しスピードと、躁病的なテンションのボーカルを加えた。

レコーディング状態が悪いためか、若干音の悪さを感じる部分が残念ではあるが、だがメタルからの影響を感じない攻撃的なハードコア・スピリットだけで突き抜けていく初期衝動には、アグレッシヴさがあるし、不良の匂いがする。まさにやさぐれたハードコアなのだ。今後が期待できる作品だ。

 こちらからダウンロード可能

2018/05/19

The Fight (ザ・ファイト) 『U.H.T.R.N.H.T.B! Promo』

Cover

ニューヨークはロングアイランド出身のハードコア・バンドの2作目となるEP。最近のニューヨークでは珍しいスタイルのバンドで、ギャングのような不良性が多いニューヨーク・ハードコアのなか、知的でユニークで異端な存在感を放っている。

そのサウンド、80年代のUKハードコアから影響に、SHEER TERROR(シアー・テラー)のニューヨークの伝統を合わせたサウンドを展開。ノイジーなギターからは、Chaos UK (カオスUK)やDischarge (ディスチャージ)からの影響を感じ、2コードでハイスピードにゴリゴリ押していくサウンドと地獄の怨霊のようなボーカルからはシアー・テラーの影響を色濃く感じる。

ぼくがユニークに感じる理由は、そのアティテュードにある。前作ではトランプ政権への批判や反キリスト、反体制的な内容が占められていた。まさにREAGAN YOUTH(レーガン・ユース)以来の皮肉と怒りに満ちたアナーコパンクだった。

今作では環境汚染と健康被害にスポットを当てている。スモッグなどの大気汚染が病を侵し、入院すれば高額医療費を取る。まさにジョージ・オーウェルの小説のような、金持ちや支配者層のためだけに、庶民が飼いならされ、搾取されことへの怒りがそこにはある。UK初期ハードコアのようにシンプルでなつかしさが際立つ作品だ。

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2018/05/11

Trail of Lies(トレイル・オブ・ライズ) 『WAR(ウォー)』

W.A.RW.A.R
TRAIL OF LIES

RETRIBUTE RECORDS 2018-03-22
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ニューヨークはシラキューズ出身のニュースクール・ハードコアの1stアルバム。シラキューズといえばEarth Crisis(アース・クライシス)やAnother Victim (アナザー・ヴィクティム)などのニュースクール系ヴィーガン・ハードコア・バンドを輩出した土地として有名だ。彼らもその伝統を受け継ぎ、ストレートエッジにして、巨大なハンマーを振り下ろすような金属質で重厚なギターのリフを中心としたスローでグルーヴィーなサウンドを踏襲している。サウンド的にもアティテュードもシラキューズの伝統を受け継ぎ、自分たち流にアレンジしたバンドなのだ。

とくにストレートエッジ思想をさらにストイックな求道者のように突き詰めている。この作品で語られているのは、力不足の克服や、欲望に打ち勝つ自分との闘い、困難を乗り越えた勝利のための戦いなどについて。

心の奥底からにじみ出る気合の入ったボーカルの怒声からは、精神統一し、戦いに挑む空手家のような、落ち着きと闘争心を感じ取ることができる。変化の力を促す自己啓発や、高い目標設定をしあえて困難な状況を作り乗り越えようとする高い意識。アルバムタイトルの『WAR』とは自分の権利を獲得する戦いだけでなく、弱い自分の内面との闘いでもあるのだ。

2018/04/29

T.O.S 『DEMO』

Cover


ニューヨークはロングアイランド出身のハードコアバンドの4曲入りのデビューデモ作品。近年ハードコア界では、FORCEDORDER(フォースオーダー)やPOWERTRIP(パワートリップ)などのバンドに代表されるように、スラッシュメタルとオールドスクールなハードコアをクロスオーバーさせたサウンドが、一部トレンドになっている。

彼らもそのシーンの一翼を担うバンドだが、ほかのクロスオーバーバンドとの決定的な違いは、S.O.Bなどの日本のハードコアに色濃い影響と、ロングアイランド特有の雰囲気を保有した部分にある。骨太でメタルのようなメロディーラインのあるギターサウンド。叫びとハイトーンの中間にある咆哮ボーカル。

そのロングアイランド特有の雰囲気とは、“自分に屈する”や“殺すために行く”、“あなたは何も感じない”“魂を取る”など、シンプルな単語で簡潔な歌詞に代表される、パラノイアックな世界のことだろう。偏執的でムンクのような芸術性。それがこのバンドの個性といえるだろう。ちなみにバンド名であるT.O.SとはTaking Of Soul(魂を取る)という意味だ。

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2018/04/21

World of Difference (ワールド・オブ・ディファレンス)  『DEMO』

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ワシントンDC出身のストレート・エッジ・バンドで、元MINDSET(マインドセット)のメンバーによる新バンド。18年に発表されたでも音源。マインドセットはCHAIN OF STRENGTH(チェイン・オブ・ストレングス)やYOUTH OF TODAY(ユース・オブ・トゥディ)の影響が強いユースクルー系ハードコアだった。

新バンドでは、MINOR THREAT (マイナースレット)直系のスピーディーでタイトなハードコアを中心に、ユース・オブ・トゥディから影響を感じるストップ&ゴーや、力強く熱いOiコーラスを合わせたサウンド。

バンドが変わっても、彼らの根幹となしているアティテュードに変わりはない。今作でもストレートエッジ思想は健在。歌詞の内容は、ドラッグや酒のせいで命や友達を失う自己破滅の怖さなど。欲望を捨て自己制御し、自制や節制の大切さと説いている。人を破滅させるドラッグや酒などへの怒りと、修道士のように、欲望を捨て、真理を追究していくストイックな姿勢がこのアルバムにはある。決して目新しさのないサウンドだが、熱い気持ちにさせる作品だ。

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2018/04/12

Twitching Tongues (トゥィッチング・タングス) 『Gaining Purpose Through Passionate Hatred (ゲイニング・パーパス・スルー・パッショネイト・ヘイトレッド)』

Gaining Purpose Through Passionate HatredGaining Purpose Through Passionate Hatred
Twitching Tongues

Metal Blade 2018-03-08
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18年に発表された4作目。大手インディーレーベルであるメタルブレイドに移籍した前作は、土臭いサザンロックやストーナーロックをベースに、ハスキーなボーカルと、キリスト教の葬式音楽のような不吉で神秘的なオルガンの音を合わせた死の匂いが漂うサウンドを展開していた。

今作でもそのサウンド路線に変わりはない。前作との違いを挙げるのなら、厳かで緊迫した静謐な空気がなくなり、ストーナー度が増した作品に仕上がっている。

ヘヴィーで荒々しいギターを中心としながらも、静寂のためやハスキーで厳かな甘美のコーラスを加えたドラマティックな展開。そこには天国へと召されるような甘美な雰囲気を作り出している。

彼らの一貫してテーマである“死”のあり方や、死生観は今作でも掲げられている。前作まではキリスト教世界の死神や悪魔崇拝など、西洋独特の死生観がテーマであった。今作では日本の切腹など、多文化の独特な死生観を取り上げている。

そこにあるのは責任を取るための死。恐怖のない積極的な自殺。死をも恐れない勇敢な姿勢。死ぬための場所を探している武士道。西洋人から見れば奇異に映る死の形を、今作では取り上げているのだ。

ストーナー(酩酊状態)を死への陶酔と恍惚に導きだしたメタルサウンドは、相変わらず彼しかない独特な個性がある。今作もいい作品だ。

«Combust(コンバスト) 『Demo(デモ)』

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