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Brett Anderson 『Black Rainbows』

ブラック・レインボウズブラック・レインボウズ
ブレット・アンダーソン

インペリアルレコード 2011-10-19
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 スウェードのボーカル、ブレッド・アンダーソンの4作目となるソロアルバム。7年ぶりに復活したスウェードのあとに発表された作品だが、これがすごくよくできている。おそらくソロ最高傑作ではないか。

 いままでブレッドのソロは、スウェードとは一線を画した活動だった。前々作の『スロー・アタック』、前作の『ウィルダネス』では、奇妙でソフトなフォークで、ロックとは異なった音楽性を追求していた。いうならブレッド自身、ロックサウンドに飽きしまっていたかのように思えた。

 それがこの作品にて、ロック・サウンドへ回帰。ブレッド自身、スウェードを復活させたことによって、ロックへの渇望が生まれたようだ。おそらく過去を振り返った理由は、結婚した男性が母親の味を懐かしむように、自分が好きで始めたロックが恋しくなったからだろう。

 とはいっても明らかにスウェード時代とは違う。確かにサウンド的にはスウェードの延長上にあるブリットポップだ。ゆったりとリズムでバラードで、ビューティフルなサウンドを追求している。そのあたりはスウェード時代と変わらない。だが決定的に違う点は、ギターに重点が置いていない部分と、感情の方向性にある。スウェード時代はエモーショナルで直情的だった。いかにも英国人らしいブラックジョークと皮肉に満ちた歌詞で、若さゆえの無軌道な暴力衝動や、未来への絶望、やるせない思いを歌っていた。いうならそのときの衝動を歌詞にしていたし、いい意味で屈折していた。

 その時期と比べると心境の変化が窺える。たとえばすべてに立ち向かい壁をこじあけようと歌っている“ブリトゥルハート”では、苦労を経験してきたうえでの固い決意を感じる。スウェードでは、輝かしい栄光から挫折、批判など、酸いも甘いもすべて経験してきた。そんな苦難を乗り越えた先の音が、この作品で鳴らされている。感情の抑制が効いたアダルティックなボーカル。ささくれ立った空気をなだめるように響くギターの音。そして朝露のようにキラキラと美しく輝くキーボードの音粒。まるで暗い雲から日射しが立ち込める朝の光のように、希望とどっしりとした落ち着きと固い決意がある。

 そこには制御の利いた大人の落ち着きがある。挫折や苦労を経験したことによって、ブレッド自身、アダルティックな新しい表現を獲得することができたのだ。その表現方法を、原点であるロックサウンドに還元することによって、新しくもう一度、ロックサウンドを蘇らすことに成功したのだ。まちがいなくスウェード全盛期に次ぐ傑作だ。

 なお日本盤のボーナストラックには、“サビッジ・ダンス”という、アルバムに収録されていても遜色がない名曲が収録されている。

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ジミー・イート・ワールド(Fueled By Ramen)

Jimmy Eat World [Analog]Jimmy Eat World [Analog]
Jimmy Eat World

Fueled By Ramen 1998-12-14
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98年に発表された5曲入りのミニアルバム。ここではこのあと発表される『クラリティー』に収められた曲と、選考からもれた曲が収められている。

この作品はジミー・イート・ワールドの第二期にあたり、ミュージシャンとして絶頂期にあたる。『クラリティー』にも収められている”ラッキー・デンバー・ミント”や”フォー・ミー・ディス・イズ・ヘヴン”は、アメリカンポップにエモの静の部分を合わせた曲だ。またアルバム未収録の”ソフター”と”ローラー・クィーン”では、キュアーをポップにして、暗やみで淡い光を放つようなメロディーを加えたようなサウンドで、こちらも独特なことをやっている。彼らならではの世界観を構築し、この作品で初めて、彼らしかありえないインディー・ポップ・サウンドを確立したのだ。

内容的には『クラリティー』の先行シングル的な意味合いが強い。だが最高傑作と言われる『クラリティー』のアウトテイクばかりだから、いい曲がそろっている。実験的だし、清らかな気持ちにさせてくれるいい曲がそろっている。



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ジミー・イート・ワールド 『スタティック・プリヴェイルズ』

Static Prevails (Exp)Static Prevails (Exp)
Jimmy Eat World

Capitol 2007-06-11
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 96年に発表された2枚目のアルバム。廃盤となっているデビュー作の『ジミー・イート・ワールドでは現ギターのトムがメインボーカルを務めていたが、ここでもメインボーカルはトムが担当。だがジムも数曲歌っている。

 サウンドはフガジなどのエモーショナル・ハードコアやラスト・リアル・エステイトなど先駆者エモからの影響が強く、静と動のアップダウンや叫び声は、典型的なエモサウンド。だがほかのバンドと比べると弱々しさはなく、メロディーに個性がある。とくに静の使い方がうまい。穏やかな清流の川の流れのようにキラキラと光っているようなメロディー。それが彼らのオリジナルティーなのだ。そのメロディーには優しさがあり、純粋で透き通った想いがある。

 全体的に暗く内省的な作品だが、そこにはエモというサウンドフォーマットにいろいろな要素を加え、オリジナルティーを確立しようとしている実験性窺える。まるで考えに考えぬいているような思慮深い暗さ。それがいいし、そこから紡ぎだされるメロディーからは、純粋性を感じる。

 まだフガジから抜け切れていない印象を受けるが、これはこれでいい作品。


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センス・フィールド/ミネラル/ジミー・イート・ワールド 『スプリット』

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97年に発表された3バンドによるスプリット。ミネラルは、フォークダンス調のムーディー曲に、ノイジーギターと音程の外れたボーカルをのせている。まるでハイソサエティーが集まる優雅なパーティーに、一般人が紛れ込んだような違和感。場違いな会場で真剣歌う姿は、いい意味で屈折している。周囲に下手でカッコ悪いと嘲笑されても、自分を貫いているカッコよさがある。

たいするジミー・イート・ワールドは、野太いギターのロックナンバーで、熱くエモーショナルに歌い上げ、センス・フィールドは、メロディーギターと野太いギターコードで、こちらも熱く歌い上げている。

ミネラルはオリジナルティーがあり完成されている印象を受けるが、ジミー・イート・ワールドとセンス・フィールドは、まだ自分たちのオリジナルティーが確立されておらず、情熱だけで先走っている印象を受ける。

この作品に関していえば、ぼくは後追いで聴いた。だが現在となっては、ありえない面子が集まり作った、貴重なスプリットといえるだろう。そこには、今までのバンドたちとは違った、エモーショナルでカッコ悪くてもいいといった雰囲気が漂っているし、新しい音楽シーンが生まれる兆しを感じる。エモの始まりを告げる1枚でもあったのだ。

このあとミネラルは解散し、センス・フィールドはメジャーデビューをきっかけに失墜し、ジミー・イート・ワールドだけが成功するといった、数奇な運命を辿ることになる。

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ザ・コミナス『エスケープ・トゥ・ブラックアウト・ビーチ』/THE KOMINAS『Escape To Blackout Beach』

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10年発表の7曲入りEP。録音状態がよくなったためか、前作と比べると、妙に落ち着いた印象を受ける。軽快なメロディーと、リズムに重点を置き、スローテンポになった。

今作ではヴァラエティーに富んだ作品に仕上がっている。ファンクギターを強調した1曲目のシルヴァーから、レゲェー調のTunnn、Armoはハードコアと、いろんなジャンルに手を出している。

特筆すべきは、パンジャブ語で歌われているMaanji。アラブ特有の歌い回しとメロディーで、妖しげなムードと、アラブ特有の勇ましさと誇りを放っている。迫力こそなくなってしまったが、けだるさの入り混じったアラブ独特の攻撃性は健在。メロディーは独特で、いい作品。

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ザ・コミナス 『ワイルド・ナイツ・イン・グアンタナモ・バイ』

Wild Nights in Guantanamo BayWild Nights in Guantanamo Bay
Kominas

2008-08-19
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 これはすごい。ひさびさにパンクと思えるアーティストに出会った。ストレートエッヂ、ヴィーガン以降、思想的にパンクは頭打ちかと思っていた。だがまた新しい思想が出てきた。その名もタクヮ・コア(Taqwacore)。敬虔なイスラム教徒によるパンクなのだ。

 タクヮとは信仰深さを意味するアラビア語で、コアはハードコアのコア。彼らは敬虔なイスラム教徒だが、けっして原理主義者ではない。ここで歌われている内容は、イスラム原理主義や同性愛への批判と、ムスリムを差別するアメリカ社会への抗議。アメリカもイスラムをも批判するといった、けっして右寄りに考え方に偏らない中庸的な思想を持ったバンドなのだ。

 その立派な思想もさることながら、彼らの音楽性も面白い。08年に発表されたデビュー作では、ジャームスやランシドなどのアメリカン・ハードコアをベースに、スカやアラブやインドなどのオリエンタルティックなメロディーを合わせたサウンド。いままでオリエンティックなメロディーを取り入れたバンドは数多くいたが、彼らとはあきらかに違う。その違いはメロディーを強調していない点にある。たいていのバンドが聴きやすいオリエンティックなメロディーを、神秘的な装いを持って取り入れているが、彼らの場合、神秘的なメロディーの陰にあたる部分を際立たせ、不穏な空気感を演出している。意図的に他所からメロディーを持ってくるのではなく、元来彼らのなかに染み付いているものが反映されている感じだ。オリエンティックなメロディーを知り尽くしているから、隠された部分も違和感なく表現できる。

 そのサウンドから感じる雰囲気は、昼間は40℃を越え、夜は零下を越える砂漠の夜のような気だるさと過酷さ。アラブ特有の単旋律的で中立音階のみで作られるメロディーからは、うだる真夏の太陽のような気だるさと、暗殺を指示するシグナルのような不気味さを感じる。

 とくに印象的なのが、12曲目の”スイサイド・ボム・ザ・ギャップ”。そこでは無垢な青年に自爆テロを強要するタリバンを痛烈に批判している。イスラム教徒であることに誇りやアンデンティティーを持ちながらも、痛烈にタリバンを批判している。イスラム教徒でありながらタリバンを批判する彼らは、まぎれもなく反社会的で、パンクだ。

 総合的にアメリカ、イギリスが代表するロックシーンが停滞期に突入し、新たな価値観や音楽を創出できないでいる。そんななか、彼らは異文化から新しい思想をもたらした。これは10年以降のパンク・ハードコアシーンを代表する名盤だ。

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ミネラル 『ザ・コンプリート・コレクション』

The Complete CollectionThe Complete Collection
MINERAL

FABTONE RECORDS 2010-01-20
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 エモ創成期バンドのひとつであり、97年と98年に2枚のアルバムを発表して解散してしまったミネラルのコンプリートベスト。10年に最新のデジタルリマスタリングで、2枚のアルバムはもとより、ジミー・イート・ワールドとセンス・フィールドとのスプリット、シングルを含めた内容で発売された。

 96年当時、アメリカのアンダーグランドでは、エモと呼ばれる新しい音楽シーンができつつあり、サニーディ・リアル・エステイトやセンス・フィールド、アップルシード・キャストなどのバンドが、にわかに注目されていた。

 そのなかでもジミー・イート・ワールドやゲット・アップ・キッズといったバンドたちが、エモーショナル・ハードコアをよりソフィスケートにした大衆受けするサウンドを打ち出し、注目されるきっかけを作った。ミネラルはエモーショナル・ハードコアが、ポップ化する以前に現れたバンドなのだ。エモのジャンルの半分くらいを作ったバンドであると同時に、その功績は大きい。

 とくにデビュー作の『ザ・パワー・オブ・フォーリング』は、フガジやエンブレイスから発展したサウンドで、突風のようなうねりをあげるノイズギターと、心の傷を舐めるなだめるようやあやす癒す繊細なメロディーとのアップダウンで、エモというサウンドを確立した。そして、いまにも泣きそうなか弱い声のボーカルと、内省的な内容の歌詞が、それまでの喧嘩が絶えなく暴力的だったハードコアとは違い、内向的で暴力衝動を抱えた華奢な人たちにも窓口を開いた。新しい価値観を提示したのだ。サウンド形態もアティテュードもこの作品でエモの雛型を作ったといっても過言ではない。

 そしてこのベストでは2枚目にあたる2ndの『エンドセレーナディング』で、彼らは叙情的な部分を突き詰め、ポストロック的な方向に向かった。このあとメジャーデビューが約束されていたが、ポストロックを突き詰めたいメンバーとロックよりなサウンドをやりたかったメンバーとの間で軋轢が生じ、解散を余儀なくされた。そしてメジャーデビューすることなく伝説となった。

 いま改めて聴き直すと、中部ならではの広大な台地をイメージさせる奔放なギターと、センシブなメロディーとのアップダウンは、いまなお古びていない。心の傷をあやすような叙情的なメロディーが、自分のデリケートな感情を呼び起こす。泣きそうなほどか弱い繊細さは、まるでダメな自分をあやすような慰めだ。クリアーでより聴きやすくなったこともさることながら、いまなお色あせていない名盤だ。


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