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THE KOMINAS/ザ・コミナス

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 11年のクリスマスに配信された10曲入りの3枚目。個人的にはもっとアラブっぽいメロディーのサウンドを期待していたが、ほとんどの曲がラモーンズ直系の初期パンク。しかもかなり丁寧に演奏されている。だが彼らにとっては、新境地を開いた作品といえるだろう。地鳴りをあげるようなギターコード、深い地の底から湧き出るようなゆったりとしたリズム、まるで彼らが生息しているアンダーグランドシーンを体現しているような扇情的なパンク・サウンドだ。またところどころに、アラブの要素を取り入れている。たとえば3曲目の“ディスコ・アンクル”や10曲目の“Bhung Ho”など、アラブ特有の神秘的で弛緩した気だるいメロディーがある。個人的にはもっとラディカルなパンクサウンドに、アラブのメロディーを取り入れて、彼らにしかありえないサウンドを展開して欲しかった。そうすればもっと、面白い作品に仕上がったのでは。

 でもこれだけクオリティーの高い作品を無料で配信するところに、彼らの音楽に対する意気込みを感じるし、パンクを貫く姿勢は評価できる。個人的には、もっと有名になって欲しい。

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DVD 『Taqwacore/タクワコア』

Taqwacore: The Birth of Punk Islam [DVD] [Import]
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Lorber Films (Kino) 2011-08-09
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 09年に発売されたタクワ・コアを紹介したドキュメントDVD。物語はノンフィクション小説『タクワ・コア』の著者であるマイケル・マハンマドが、タクワ・コアを紹介し、アメリカとパキスタンで活動するタクワ・コア・バンド、ザ・コミナスと一緒にアメリカツアーを周るという展開。最後はザ・コミナスのルーツであるパキスタンに渡り、イスラム社会にパンクを紹介するという内容で締めくくられている。タクワ・コアのバンドを通して、非イスラム側にはイスラム社会を紹介し、イスラム側にはパンク音楽を伝えている。

 ここではザ・コミナスを合わせて3バンドの出演している。とくに印象深いバンドは、女性ボーカルようするセレクト・トライアル・ファイブ(本人たちによれば自分たちはタクワ・コアではないとのこと。シーンとの連動を拒否している)。政治的な不満を激しく叫ぶボーカルスタイルが特徴のバンドだ。イスラム社会では女性はヒジャブと呼ばれるスカーフのような布で頭を隠すのが一般的だ。それが短髪のソフトモヒカンという出で立ちで、イスラム女性社会を真っ向から否定するような、イスラムの伝統主義と女性差別を痛烈に批判している。イスラム教徒であることに誇りを持ちながらも、イスラムの悪いところは変えようとする姿勢。その姿がなんともパンクらしくとても好感が持てる。

 そして本DVDのハイライトはザ・コミナスのシカゴとパキスタンでのライヴ。そこでは、イスラム社会ならではの問題が見えてくる。シカゴのライヴでは会場がイスラム集会で、演奏の途中に警察に弾圧されライヴが中止になるというハプニングに見舞われる。そしてパキスタンでは、演奏の最中に近所でアメリカ軍の空爆があり、ライヴが中止になる場面もある。9,11以降、ムスリムの人たちは虐げられ、検閲をうける過酷な生活を余儀なくされているのだ。

 そのシーンを見ていると80年代のアメリカのハードコアを思い起こさせる。警察の取締りを受けるシーンや、パキスタン人に対して<ジョージ・ブッシュ、マザーファッカー>と怒りに満ちた声で叫ぶ姿は、暴力と破壊的衝動に満ちた80年代のライヴと同じだ。片やアメリカの中間層の白人、もう一方はイスラム教徒というマイノリティー。両者は肌の色も、信じる宗教も、貧富の差も、守られている法律さえ違う。だが両者ともに激しく扇動し、反社会的な考え方で、衝動に満ちたライヴを展開しているという意味では、共通している。現在、白人の若者で、これほどのエナジーを持って、世の中の不満をぶちまけているバンドがいるであろうか?答えはノーである。豊かさに毒され、ハングリーさが失われ、骨抜きになったバンドがなんと多いことか。いまやパワーのある音楽を奏でられる人たちは、こういったマイノリティーなのかもしれない。

 余談だがヴィーガン思想を打ち立てたアース・クライシス以降、アメリカのハードコアシーンは、メタル化が進み、思想的な進化がなく、どこか停滞している印象があった。それがここにきてまた新しい思想のバンドが生まれ、活気付いている印象を受ける。黒人のハードコアのトラッシュ・トークやセレバル・バリーなどがいい例だろう。近年、アメリカのハードコアシーンは、虐げられた少数民族がやる音楽に変わってきている感じがする。


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カディスフライ『...セット・セイル・ザ・プラリィー』

Set Sail the PrairieSet Sail the Prairie
Kaddisfly

Sub City Records 2007-03-06
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 よりプログレッシヴな方向に進化した07年発表の3枚目。前作よりもさらに実験的になった。今作ではポスト・コアに、プログレやジャズ、メタル・コアなどの要素を加え、さらにマニアックで複雑な作品に仕上がっている。とくにヘヴィーなサウンドと繊細なボーカルとメロディーとの絡みがすごい。

 今作は世界中を旅した旅行記で、その季節にその場所で感じた大自然と雰囲気がコンセプトになっている。何月何日にその土地で感じたことを歌詞にし、その雰囲気をサウンドに置き換えている。

 くわしく書くと、1曲目の"夏至"は、6月22日の出来事。2曲目の"キャンプ・ファイア"は、6月23日、メキシコのヌエボ・ラレドにて。3曲目の"波"は、7月12日、ジャマイカのキングストン。4曲目の"ハーバー"は、8月8日、トリニダード・トバゴのポート・オブ・スペインで。5曲目の"鳥"は、9月8日、ガボンのリヴールヴィル。6曲目の"雲"は、10月18日、イスラエルのエルサレム。7曲目の"帝国"は、11月5日、ロシアのモスクワ。8曲目の"冬至" は、12月21日、ノルウェイのトロムセー。9曲目の"雪"は、12月22日、アイスランドのレイキャピーク。10曲目の"レール"は、1月19日、カナダのケベック。11曲目の"シルクロード"は、2月27日、インドのデリ。12曲目の"マーキュリー"は、3月6日、中国の西安。13曲目の"時計じかけ"は、4月13日、中国の大同。14曲目の"森"は、5月1日、ロシアのクラスノヤルスク。

 これが本当にあった出来事なのか、空想の話なのか、 資料がないので正確なことは分からない。ただかなりの臨場感を持ったサウンドであることは確かだ。

 たとえば、“波”では、夏の青い海を眺めて切ない気持ちになるような軽やかで憂鬱さを含んだピアノが印象的。“鳥”は、シタールのようなトランシーなギターが、自分の存在がちっぽけに感じるような壮大な音を奏でている。8,9曲目は雪国ならではの幻想的なメロディーが魅力。“森”は、激しいギターのなかに中国的なメロディーが絡み、ささくれだった空気を急速に洗い流すような、やすらぎに満ちた世界を演出している。

 ときには陶酔するほど美しい光景を想像させるメロディーもあれば、争いが絶えない過酷な環境の土地で殺伐とした重厚なリフを奏でている曲もある。その土地の季節と雰囲気を、メロディーに置き換え表現している。そこには、過酷さ、切なさ、やすらぎ、か弱さ、冷たさなど、異国で感じる違和感や混乱がある。情緒不安定なほどの感情のゆれを表現したメロディーが、この作品の最大の魅力なのだ。

 ギターアレンジやメロディーが多彩な大自然をフィーチャーしたハード・コアだ。そういった意味では、中期レンチに近い。トランシーでラウドなエクスペリメンタル・ハードコアというべき、新しい形のハードコアをこの作品で提示した。ただ残念なのは日本での評価が低い点だ。個人的には07年のベスト3に入る作品だ。

 なお08年にkileの脱退を期に、現在は活動を休止している。残りのメンバーで結成されたウォーター&ボディーズが活動の中心なようだ。いま復帰が期待されるバンドなのだ。

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カディスフライ『バイ・アワ・インテンション;ウィル・バイ・ユー・ア・ユニコーン』

Buy Our Intention We'll Buy You a UnicornBuy Our Intention We'll Buy You a Unicorn
Kaddisfly

Hopeless Records 2005-03-08
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 ポートランド出身、ポスト・ハードコアバンドの05年に発表された2作目。彼らはフォール・オブ・トロイやチオドスなどの代表される、スライス以降のポスト・ハードコアシーンを代表するバンドだ。世間的にもあまり注目されていないマニアックなシーンだが、プログレッシヴでカオティックで、独自のサウンドを持ったバンドたちばかりだ。

 サウンド的には彼らは、グラスジョーから発展した。だが彼らはスクリーモではない。ベースとなるグラスジョーのような激しさと軽やかさが複雑に入れ替わる展開のなかに、パンクやジャズを取り入れ、軽やかなを部分を、さらに突き詰めている。なによりまず彼らにはスクリーム(叫び)はない。そこにホット・ウォーター・ミュージックのようなシュルレアリスムのアート性を加え、特異な美意識と独特の世界観を構築している。

 その世界観とは、シャボン玉のように軽やかで浮遊感と、赤ちゃんのガラガラのようなやすらぎを、奇怪なロボットの絵を用いて表現している。ハリケーンのような轟音のなかで渦巻く破壊衝動と透明で切なく儚い美しさ。まるで子どもがオモチャをガラスに向かって投げ、たたき割るような、純粋な破壊衝動。その浮遊感とある種の混乱が魅力のバンドだ。

 歌詞は、プリメーラの自然災害や環境破壊などについて歌い、社会問題にも言及している。この時点ではまだサウンドが固まっていない印象をうけるが、彼らにしかないオリジナルティーを提示した。ポスト・ハードコアシーンでは新しい価値観を提示したバンドだ。

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CASH CASH『ラヴ・オア・ルースト』

Love or LustLove or Lust
キャッシュ・キャッシュ ADG

TWILIGHT RECORDS 2011-05-11
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近年、コブラスターシップやメトロステーションなどのバンドがギターレスのディスコサウンドを展開しているが、彼らの同等のディスコ・エモに属しているキャッシュ・キャッシュの11年に発表された2作目。前作のファン路線から、一転、今作ではジャミロクワイぽい曲を中心に、ユーロビートなどを取り入れたサウンドに変化した。エレクトロポップからダンスミュージック主体に。雰囲気も昼間の明るさから夜の幻想にへと変わった。強烈なオリジナルティーを感じるサウンドではないが、ライヴの熱狂とディスコの踊って楽しむ要素を合わせたのが、彼らの特徴のひとつだ。今作は愛と憎しみ、欲望や執念について歌っているそうだが、あまり深く考えて聴くサウンドではない。スポットライトが交錯するディスコに似立てたライヴハウスで、頭を空っぽにして楽しく踊るというのがこのアルバムの楽しみ方だろう。快楽を求めている人にお薦めの作品だ。

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フレンザル・ロム『スモコ・アット・ザ・ペット・フード・ファクトリー』

Smoko at the Pet Food FactorySmoko at the Pet Food Factory
Frenzal Rhomb

Fat Wreck Chords 2011-09-06
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 このバンドも息が長い。メロディックパンクをやり続けてはや17年。相変わらずコンスタントにモチベーションの高い作品を発表し続けている。そのサウンドは、スカからメロディックパンク、メロディック・ハードコアと幅が広い。そして前作では、KID・DYNAMITEやLIFETIMEに影響を受けたメロディック・ハードコアで、パワフルで弾丸のような勢い見せつけた。ハードコアとメロディックな曲が交互に演奏する展開で、早口で捲くし立てるメロディックなボーカルの個性が光った。パンク、メロディックハードコアという制約のなかでバラエティーが多彩。激しいギターコードに、メロディックなフレーズが絡むサウンドは、とことんキャッチーで、親しみやすかった。

 そんな彼らの魅力とは、医学書や量子物理学などの学術的な教養をねじ曲げ、バカにしているアイロニーにある。医学書の人体の絵を馬に代えるパロディーセンスが最高だし、痛快で面白い。笑える。

 そして8作目となる今作では、明るさからヘヴィーな重さに変わり、デスの要素が加わった。ほかにも西海岸のカラッとしたメロディックパンクな曲もあり、過去とは違った作品に仕上がっている。ここに歌詞カードがないので正確な事実は分からないが、ものすごく変化した印象を受ける。悪ふざけがすぎた前作と比べると、まじめでシリアス。大人の枯れた円熟味を聴かせ、やんちゃな要素は薄れた。

 持ち前の悪ふざけこそなくなったが、これは、いい作品。性急で間段のないスピード、カラッと乾いたメロディーは、心地よいし、癒される。なにより明るさのなかにある暗い陰りが最高だ。


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フレンザル・ロム『フォーエバー・マルコム・ヤング』

Forever Malcolm YoungForever Malcolm Young
Frenzal Rhomb

Shock 2006-10-31
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20曲34分35秒。メロディーやスピードの高揚感を凝縮したこの短さはだてじゃない。FATからのリリースでお馴染みのRENZAL RHOMBの通産7作目となる新作は、医学書や量子物理学を別の角度から捉え、人を小ばかにしたようなアイロニーこそ顕在だが、歳を増すごとに過激でアグレッシヴな音になっている。スカ、メロディックパンク、メロコアとマイナーチェンジをしてきたが、今回は7SECONDSばりのファストコアに焦点をあててきた。激しい音ではあるが、メロディックなギターフレーズや、早口で捲くし立てる甘いボーカルの声が、とことんキャッチーで、親しみやすい作品に仕上がっている。このアホらしさが最高。

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JIMMY EAT WORLD 『INVENTED』

インヴェンテッドインヴェンテッド
ジミー・イート・ワールド

ユニバーサル インターナショナル 2010-10-06
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 10年発表の7作目。ここでは前作よりもさらに実験的なサウンドを展開している。フラメンコ調のフォークで始まったときは正直戸惑ったが、じっくり聞き込むと、そんなに悪い作品ではない。過去の彼らのイメージに囚われなければ、楽しめる。

 今作ではデジタルを全面に出したサウンドを展開。ディスコ・エモから、デュラン・デュランぽい曲、後期ソニックユース系のポストロック、牧歌的なフォーク、ピーター・マーフィのような薄暗い曲、ヴァーヴのような至福感あふれた曲など、いろいろなジャンルを取り入れている。穿った見方をすれば、ジミー・イート・ワールドらしくない曲がつづき、何に影響をうけたのかわかりやすい。これだけだと正直オリジナルティーが希薄だと思った。だがじっくり聞き込むとそれらの要素に『クラリティー』を融合させた作品だと気付く。とくに5曲目の“ムービー・ライク”以降の後半の流れ。朝日のような清々しいビューティフル・サウンドで、聴くものを安堵なやすらぎに導いてくれる。

 今回はシンディ・シャーマンやハナ・スターキーと写真家の写真を見て、そこから想起するイメージをサウンドに置き換え表現したそうだ。だから自分たちの経験や体験から感じた、切なさや哀しみ、楽しさやといった感情は表現していない。彼らが写真や人物を通じて感じたことを曲にしている。その写真からイメージされるな世界観とは、ヨーロッパのカフェテラスでな話しているような洒脱でクールな世界観。ドラマチックなラブシーンのように囁くように歌う“インヴェンテッド”や、遠い未来について二人で語り合っているような“エヴィデンス”など、まるで映画のワンシーンのような情景が浮かんでくる。

 このアルバムで表現されているのは三人称の世界観だ。わたしとあなたという二人の世界を、カメラのレンズを通して見るように、俯瞰してとらえている。だからどんな愛の囁きを歌ったも、静かで淡々と聴こえる。エモーショナルさはないし、ダイレクトな感情が伝わってこない。だがその分、気だるく薄暗くムーディーで洒脱な大人の世界観を獲得している。

 サウンドやエモーショナルといった部分すべてで、過去とは異なる作品だ。だが、彼らは1stのころから、サウンドも感情も同じ作品は一枚も作っていないし、つねに変化してきた。それに変化の兆しは大人になった前作からあった。不惑の40代に突入し、彼らはもう迷うことはないのだろう。彼らの年齢からくる表現方法としては、それが正直なやりかたではないか。身の丈にあった変化なのだ。少し淋しい気もするが、これはこれで納得のいく作品だ。


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ジミー・イート・ワールド 『クラリティーライヴ』

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 『クラリティー』発売から10周年を記念して発表されたライヴ盤。09年に自身のウェブサイトから配信発売。09年7月に地元アリゾナのタンパペイで行われたライヴで、1曲を除いて全曲『クラリティー』から選曲。全曲、99年に発表された曲で、アルバムの曲順通りの演奏。99年当時を、忠実に再現している。

  『クラリティー』とは、オリジナルティーを確立したアルバムであり、特別な想いのある彼らの原点なのだ。実際『クラリティー』とそれ以降では、ライヴパフォーマンスがあまりにも違う。『ブリート・アメリカン』以降の彼らは、激しく楽しい爽快感あふれるパンクなライヴを展開している。『クラリティー』では、静謐で穏やかな世界観を追求していた。モッシュなんて起こることもなかったし、ジムがピアノにゆっくりと座り演奏する場面も見受けられた。スポットライトの薄明かりのなか、トライアルアングルの音だけが静かにこだまし、静寂に満ち、観るもの内面世界に引き付ける――じっくり聴かせるライブだったのだ。

 それが人気が出たことによって、ライヴパフォーマンスが180度変わった。その理由はおそらく、『ブリート・アメリカン』での成功と、グリーン・ディやブリンク182らと一緒にツアーをまわった経験が関係しているのだろう。パンクの楽しいライヴを展開している彼らと一緒にツアーすることによって、ライヴとはどうあるべきものなのか考えさせられたのかもしれない。もしくは彼らのファンが求めているものは、『ブリート・アメリカン』のスカっとするほど爽快で、楽しく激しいライヴだという事実に気づかされたのかもしれない。自分たちの理想とするライブの型が見つかったのか、それともファンの期待に応えようとする気持ちが強かったのか、理由は解らないが、当時いまのままではいけないと思い、変更を余儀なくされたのだろう。

 肝心のライヴだが、音源作品なので正確なことはわからないが、おそらく97年ごろと同じ雰囲気を再現したライヴだ。終始、神聖で透明感があふれる穏やかなライヴを展開している。彼らの代表曲である“ラッキー・デンヴァー・ミント”では、歌詞を変え、新たな感情が息吹きこまれている。“ア・サンディ”や“12 23 95”などいったバラードも、丁寧にやさしく穏やかに演奏され、アレンジの変更はなく、『クラリティー』の世界観を壊すことなく再現している。まるで過去のサウンドに閉じ込めた痛みや濁りのない気持ちを、ゆっくりと解凍し、深い内省に潜りながら過去の気持ちを呼び覚ましているような演奏だ。当時の記憶を蘇らせながら、穏やかでやさしく透明で濁りのない気持ちを思い起こし、失われた純粋さを取り戻しているように思えた。

 このライヴは典型的な過去の振り返りだ。だが何もかもが変わりすぎてしまった現在、過去の気持ちを取り戻す必要が彼らにあったのだろう。エモに影響を受けたインディーサウンドから、力強いアメリカンロック、フォークロック的なサウンドと変遷を重ねてきた彼らにとって、核にあったものはなんなのか、見失ってしまったいたのかもしれない。現在自分たちを個性からも離れすぎてしまっているサウンドを展開している。だから過去を振り返る必要に迫られたのだ。そうこの作品は、未来へ向けての原点回帰なのだ。

     オフィシャルサイト


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JIMMY EAT WORLD 『CHASE THE LIGHT』

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ジミー・イート・ワールド

ユニバーサル インターナショナル 2007-11-07
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 07年発表の6作目。かなり実験的な作品。彼らの特徴であった純粋な透明性もなくなり大人な仕上がりに。前々作、前作と、ポップで野太いギターロックな作品が続いたが、今作では軽やかなサウンドに劇的に変化した。

 『チェス・ザ・ライト』(明かりを追いかける)と名付けられた今作は、新しい発見やチャレンジしていくことが、テーマになっている。とくに変わったのはギター。野太く力強いギターコードが、冷たく細やかなメロディーギターとアコースティックに代わり、多彩になった。それだけでなく、光の粒のようなデジタル音、指をならした音、バイオリンなど、いろいろな音を取り入れている。曲調も変わり、カントリーロックやポップスなどの要素を取り入れ、ヴァラエティーが豊富になった。とくに顕著なのは、80年代のファンクのような“ヒア・イット・ゴーズ”と、アコースティックギターとバイオリンと不吉な効果音の絡みが耽美でミステリアスな雰囲気を醸しだしている“ガッタ・ビー・サムバディズ・ブルーズ”。そこには前作までのよさを捨て、自分たちがやりたかった新しいことにチャレンジしていこうとする姿が窺える。

 いろいろな楽器を使い、作りこまれ、劇的に変化した。ここまで多彩になると彼らの特徴であった純粋性は感じられないし、保守的なファンからは戸惑いを受けるかもしれない。だがぼくはこの作品が好きだ。なぜなら、そこに込められた感情が前向きだから。とくに好きなのは、“オール・ウェズ・ビー”から“キャリー・ユー”への流れ。そこには期待にそむいているのを理解しながらも、自分たちを信じて前へ進んでいく力強い衝動がある。ジミー・イート・ワールドはいままで人を励ますようなファイトソングは歌っていなかったし、エモと呼ばれている割にはエモーショナルな衝動が希薄だった。それがここにきて初めてエモーショナルな熱さを見せている。これだけ力強く変化した理由には、ジムに子供が産まれたからだ。自分の子供がいるということは、育てていく責任感も生じるだろうし、家庭を守っていく以上、悩みクヨクヨしているわけにはいかない。一家の大黒柱として、力強く生きていかなくてはいけないのだ。

 もはや若かりしころのような透明なメロディーや、純粋さや繊細さ、ナイーブさはここにはない。だがその代償に、雑草のように踏み潰されてもはい上がっていく力強さを手に入れた。この作品は、聴くひとに勇気とエネルギッシュな活力をあたえてくれるファイトソングだ。ウジウジしているひ弱なぼくの心を励まし癒してくれる。それが魅力だ。


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ジミー・イート・ワールド 『ステイ・オン・マイ・サイド・トゥナイト』

Stay on My Side Tonight (Dig)Stay on My Side Tonight (Dig)
Jimmy Eat World

Interscope Records 2005-10-04
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05年に発表された5曲入りのEP。前作『フューチャーズ』のレコーディングのとき完成した曲で、アルバムの雰囲気に合わなかったため、今回シングルで発表された曲だという。

総じていえば、『スタティック・プリヴェイルズ』のように、かなり実験的な曲が目立つ。とくにギター。ここでは力強いギターロックな曲はない。あるのはアコースティックギターを中心としたスローな曲。バーズを現代版に進化させたカントリーロックに、オルタナロックを加えたような曲が並ぶ。

終始、気だるい歌声で、郷愁の念や、古き良き過去を懐かしむといった感情を歌う。取り巻く雰囲気も、過去を静かに振り返っているような、枯れや円熟味がある。

ここにはポップでエモーショナルな曲が一曲もなく、『ブリート・アメリカン』で好きになった人からすれば、敬遠される作品かもしれない。だが、彼らはこのEPで、あえて実験的なことやった。その理由はミュージシャンとしてのモチベーションを保つためだろう。新境地を開いた作品だ。そういった意味では、評価できる。

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