プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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2012/02/28

映画 『タクワコアズ』

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 11年に発売されたマイケル・ムハンマド・ナイトの小説『タクワ・コア』を映画化したDVD。まず、映画『タクワ・コア』を説明するまえに、マイケル・ムハンマド・ナイトの生い立ちから説明したい。マイケル・ムハンマド・ナイトは77年にウエストバージニア州バークレースプリングスにて、ペンテコステ派の宣教師、ウェズリー・アンガーのもと産まれる。父アンガーは、日本でいう暴走族のような不良グループで、バイカーに属し、家庭では暴力が絶えなかった。ナイトが2歳のころ、家庭内暴力が激しくなり、母に連れられ家を出たという。ジュネーブ、ニューヨークと渡ったナイトは、アイルランド系のカトリックの家庭で育てられた。ナイトがイスラム教に目覚めたのは13歳のころ。パブリック・エネミーの歌詞を通じてマルコムXの存在を知ったのがきっかけだという。マルコムXの自叙伝に感銘したナイトはイスラム教に改宗する。15歳のとき、自らを虐待し白人至上主義者だった父と再会した。じつに13年ぶりの再会だという。白人至上主義者の父に対して、自分がイスラム教へ改宗したことを告げた。それがナイトの初めての反抗だった。17歳の時、パキスタンのマドラサでイスラムを勉強するため、ロチェスターの母の家を出た。その後イスラマバードを旅し、イスラム教への理解を深め、ロシアのチェチェン紛争についても学んだ。しかしナイトはイスラム教を知れば知るほど、イスラム正統派に幻滅をした。それが小説『タクワ・コア』を発表するきっかけになった。発売当初の小説は自主出版という形で製本られたが、ジェロ・ビアフラが設立したオルタナティヴ・テンダクルズによって、複製され配布されたという。

 03年に発表された小説『タクワ・コア』とは、イスラム社会からはみ出した若者たちが、カルフォルニアのムスリムのバンドたちを、ニューヨークに呼ぶ、架空の物語だ。話はニューヨーク州バッファローにあるムスリムのコミュニティ集合住宅に、パキスタン人の学生、ユセフが移住するところから始まる。そこには赤いモヒカンのヤービー、ゲイでニューヨーク・ドールズのようなメイクのスムージー、パティー・スミスの詩の一節を部屋の壁に刻みパンクワッペンが貼り付けられたブルカを纏ったラビア、ユース・オブ・トゥディのTシャツを着こなし敬虔なイスラム教徒でストレート・エッヂのウマルなど、とてもムスリムとは思えない人びとが住んでいた。あるとき主人公のユセフはヤービーらとスケボードで遊んでいたとき、タクワ・コアの存在を知る。タクワ・コアとは、タクワ(アラビア語で「神の意識」)のハードコア。つまりムスリムによるパンク・カルチャーだった。

 ヤービーらは週末の夜に集合住宅でパンク・パーティーを開催していた。そこでは飲酒やドラッグ、フリーセックスなど、教義で禁止されている行為が繰り広げられていた。彼らはアラーの教えを自らの人生訓として心に刻み、重要なアイデンティティと捉えている。しかしシャハーダ(信仰告白)でヤービーが「アラーは寛大にして偉大だ。それに比べてイスラム社会は小さく閉ざされている。俺たちはムスリム(神に帰依する者―アラビア語でイスラム教を信じる人)だが、イスラム(アラーが唯一の神であると信じ、神が最後の預言者と指名したムハンマドを通じて、コーランの教えを信じ従う人々)ではない」と発言する。教義によって禁止された事項の多いイスラム教に対して、不満を爆発させている。彼らは自由と感情の開放と快楽を求めて、ライヴでフラストレーションを発散させ、フリーセックスや飲酒、喫煙などを楽しんでいるのだ。まるで80年代の世間からはみ出したアメリカの若者のように、抑圧された感情を爆発させている。

 ストイックで健全な道徳観を持ったウマルとの確執を挟みながらも、ヤーヒーの尽力によって、カルフォルニアからタクワ・コアバンドを呼ぶことに成功する。ニューヨークで初めてのムリスム・パンクのライヴが開催された。しかし80年代のパンクシーンさながらの暴力事件(死亡事故?)が起き、一夜限りでライヴは終わり伝説と化した。まるで一夜の夢から覚めたようにユセフが鋲ジャンをゴミ箱に棄て、物語は終わる。

 この物語は、アメリカに住むイスラム教徒の若者の複雑な感情を描いたDVDだ。ぼくは小説を読んでいないので、映画と小説の違いは分からない。この映画に関してだけいえば、女性の権利を主張したパティー・スミス、フェミニストを支持したニューヨーク・ドールズ、ドラッグ、酒、カジュアルなセックスを否定したユース・オブ・トゥディ、猥雑なワーキングクラスのエクスプロイデッドなど、それぞれに違ったライフスタイルを信仰している。アメリカン・パンク・カルチャーに多大な影響を受けながらも、ムスリムの誇りを棄てていない。そこには差別する白人への嫌悪とパンクを創った白人へのリスペクト、自らのアイデンティティーであるイスラム教への誇りと抑圧されていることへの苛立ち。そんな相克する感情の狭間で気持ちが揺れ動いている。世間からはみ出した少数派のイスラム教徒の複雑な心境を、描写した物語なのだ。この小説はアメリカの若いイスラム教徒にとって、イスラム教徒版の『ライ麦畑をつかまえて』と評価されているそうだ。

 この映画がアメリカのイスラム教徒の心境を正確に捉えているのか、ぼくにはわからない。しかもどのような影響をあたえたのか定かでないので、個人的な感想を控える。ひとついえるのは、この小説に感銘を受けたムスリムの若者たちによって、現在、『タクワ・コア』のシーンが立ち上げられたという事実。パンクによって、人生観が180度変わる衝撃を受けたぼくとしては、独創的な思想とサウンドを持ったバンドたちが、新たなパンクシーンを立ち上げてくれるほど、喜ばしいことはない。そういった意味では、価値のある作品だ。


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