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Al-Thawra  『Who Benefits From War?』

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 シリア系アメリカ人、マルワン・カメル率いるAl-Thawraの08年に発表されたデビュー作。彼らもまた小説『タクワコアズ』に感銘を受け始めたバンドだ。バンド結成は06年。彼らはタクワコアシーンのなかでも、特異な存在である。ほとんどのバンドが初期パンクやオールドスクール・ハードコアをベースにしたサウンドを展開しているが、彼らだけがドゥームやクラストコアなど、違った要素から影響を受けている。ほかのバンドと比べると、緊迫感に満ち、シリアスなのだ。

 その理由はボーカルでありフロントマンのマルワン・カメルの複雑な生い立ちが原因にある。父はシリア人で、母はポーランド人という家庭に生まれた。そのためにマルワン・カメルはシリアに行けばアメリカ人とみなされ、アメリカではシリア人とみなされている。国際的に敵対する両国では、どちらかの国に行けば、迫害や差別を受ける。彼はアラブとアメリカの両国の影響を受けて育ちながらも、宗教的にも政治的にも受け入れることができず、アイデンティティーを確立することができない。民族の輪に加われない疎外感を抱えているのだ。

 そんな彼らのデビュー作は、ドゥーム・メタルにクラスト・コアと中近東のメロディーを合わせたサウンド。精神的に暗く重くヘヴィーだ。そこには心の煩悶が確実に反映されている。すべてを焼き尽くす地獄の業火のような重くノイジーなリフ。スローテンポのリズムの隙間を縫うように静かに不気味に響く中近東のメロディー。やるせない怒りをぶつけるというよりも、<なぜ?>と絶望に疑問を投げかけているような断末魔の叫びに近いデス声。そこには心の深い部分から湧き上がってくるドロドロした怨念、諦観、悲しみといった感情が支配している。イスラムの戒律が厳しく政治的にタブーが多く(08年当時)人権的自由のないシリア。世界の警察という欺瞞のもと弱者を挫き秩序の乱れた自由を振りかざす傲慢なアメリカ。そんな両国への愛憎を嘔吐したサウンドなのだ。

 例えるならワーキングクラスでアイリッシュの誇りと団結でパンクと民族音楽を融合させたドロップ・キック・マーフィーズとは、対極のアティテュードだ。

 出自から来る疎外感。政治的や宗教的に問題のある両国への怒り。アイデンティティーの喪失。緊迫化するアラブ諸国とアメリカとの政治情勢。アラブの民族音楽とロックというアメリカ発祥の音楽への愛着。そんな敵対する両国の狭間で、敵対心と緊迫感を保ちながら、音楽で奇妙な立ち居地を見つけたマルワン・カメル。アラブのメロディーを取り入れたハードコアという彼らの個性は孤高の輝きを放っている。


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