« 2012年4月 | トップページ | 2012年6月 »

マリタイム 『グラス・フロアー』

Glass FloorGlass Floor
Maritime

Grand Hotel 2004-08-30
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 03年に発表されたデビューアルバム。前EPでネオアコースティックというマリタイムのサウンドを提示したが、今作ではその延長上にある作品だ。EPはスミスに影響を受けたイギリスのネオアコースティックが中心だった。今作ではバーズやREMなどのアコースティックロックや、バラード、アメリカのフォークソングなどの要素が加わった。

 スミスの影響を感じるといっても、メンタル面では受け継いでいない。そこにはアメリカ人特有のストレートな表現と、手作りの素朴さがある。まるで焚き火をしながら夜空を見上げているようなロマンチックに浸るような心洗われる気持ちや、マシュマロのように柔らかくシュールで素朴な雰囲気が漂っている。総じて牧歌的で、のどかで、ソフトで優しい。いうなら自分を励ますような癒し系の音楽を展開している。そこが屈折した表現で惨めな自分を輝かせていたスミスとの違いだろう。アメリカ中部特有の広大で土臭い匂いがとても好感の持てるいい作品だ。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

マリタイム 『アディオス』

Adiosmaritime_

 03年に発表されたデビューEP。エモの代表格だったバンド、プロミス・リングのフロントマンであるボーカル&ギターのデイヴィーとドラムのダン、ディスバメント・プランのベース、エリックによって、結成されたバンドがマリタイムだ。

 プロミス・リングを解散させ、マリ・タイムを結成した理由は、単純に異なるサウンドのバンドをやりたかったからだろう。インタビューでデイヴィーは、「バッド・レリジョンのように同じサウンドで何十年もバンドを続けたいと思わなかった」と、発言していた。いうならプロミス・リングをみずからの青春の一ページとして捉え、終わったこととして完結し、また新たな一歩を踏み出したということだろう。

 そのサウンドはオレンジ・ジュースやスミスに影響を受けたネオ・アコースティック。エモーショナルでローファイギターサウンドが魅力だったプロミスリングと比べると、エモーショナルは稀薄で、ギターは軽く透明でなよなよしている印象さえある。

 だけどアメリカのバンドであるせいなのか、そこにはイギリスのバンドのような洒落た洗練さはない。どこか土臭さを感じる。アメリカ人特有のストレートな表現が目立ち、スミスのような屈折もない。でもそこがいいし、このバンドの魅力だろう。現在、このEPは廃盤となっているが、次に発表される日本盤のデビューアルバムに全5曲が収録されている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

MY CHEMICAL ROMANCE 『DANGER DAYS』

デンジャー・デイズデンジャー・デイズ
マイ・ケミカル・ロマンス

ワーナーミュージック・ジャパン 2010-11-24
売り上げランキング : 37521

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 10年に発表された4作目。過去の面影がなくなるほど、劇的に変わった作品。もはや彼らの個性であるゾンビメイクやダークスーツなどのヴィジュアル的な魅力はない。荒々しいサウンドや、初期から彼のコンセプトである<死>についての隠喩や屈折を交えた歌詞もなくなった。すべて捨て再出発をはかった。

 彼らの変化の兆しは今作の前に発売された『ザ・ブラック・パレード・イズ・デッド』と名付けられたDVD付きのライヴアルバムからあった。そこに収められているMCで「ブラック・パレードはラスト・パフォーマンスになると宣言している。ここで死というコンセプトと黒い衣装を纏ったヴィジュアルに、終わりを告げたかったのだろう。そこまでして彼らがいままで築いてきたすべてを捨てたかった理由は、黒い衣装でゾンビメイクをすることに辟易したのと、 死を表現し続けることに対して疑問と限界を感じたからだ。このまま同じことを繰り返していれば、ミュージシャンとしてモチベーションを保つことは難しかっただろうし、生まれ変わる必要があったのだ。それと、いくらファンに評価されてもとどまることをよしとしない、彼らの元来の皮肉さが変化を求めたのだ。

 そして今作では死とは対極にある生きている実感と衝動をテーマにしている。ヴィジュアルはバイカーのように男らしくなり、歌詞は変わらず恋愛をテーマにした内容が多い。だが、“プラネテリー”では<全部台無しにしゃえ>、とか、<一緒にパーティーを抜け出そう>や、<加速していくしかない>などの、ゼロからやり直して再出発をはかりたいといった内容が目立つ。そこには新しく始めることへの情熱も感じられる。

 その気持ちが反映されているためか、サウンドもエネルギッシュで明るい。今作では初期パンクのような扇情的なサウンドに、ディスコ・エモなどのエレクトロの要素を合わせた。そこにはギターが水しぶきのようにキラキラと光って美しく、気持ちを高ぶらせてくれる。ビューティフルなメロディーと、生への躍動感を表現するようにエレクトロニクスがピコピコとなっている。まるで生きている実感を味わっているかのようなアドレナリン全快の衝動と、開放感に満ちている。やや内向きでダークで息苦しくも甘美な前作までとは、真逆の位置にある。

 個人的には前2作のほうが好きだが、このアルバムにもいい部分がある。それは築き上げたすべてを捨て、前向きに新しいことにチャレンジしていく姿勢。これだけ売れると保守的になり、確立したイメージに固執するものだが、彼らはあえて変化した。それだけでも価値のある作品だ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

MY CHEMICAL ROMANCE 『THE BLACK PARADE』

ザ・ブラック・パレードザ・ブラック・パレード
マイ・ケミカル・ロマンス

ワーナーミュージック・ジャパン 2006-12-06
売り上げランキング : 56633

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 06年発表の3作目。前作が220万枚売れたことが影響してか、今作ではポップに変化した。ここにはアイアン・メイデンに影響を受けたNWOBHMメタルや、荒々しいギターの曲はない。メロディック・パンクを中心に、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のようなホーンを使った曲、クイーンの『オペラ座の夜』のようなドラマチックで装飾美的なサウンドなどを取り入れている。ほかにもバラードからロカビリーなどの曲もありモダンなロックに変化を遂げた。

 大衆受けをするポップサウンドに変わったからといって、けっして悪い作品ではない。むしろリリック面では格段の成長を遂げている。今作では死がテーマだそうだ。そこには救いようのない絶望から発せられた自殺願望や、最愛のひとに先立たれて一人で生きていくことの苦痛など、いろいろな角度から死について語られている。そして作品の中心にあるのが“ブラック・パレード”。歌詞の内容は死を祝うパレードで、お葬式が結婚式のような華やかさとにぎわいをもっている。悲しみを明るく振る舞い、最後の審判を待つ長い列が、まるで自分を祝福してくれているような歓喜だ。でもそこには、たとえ自分が死んでもこの世に産まれて存在していた証は残る。―-人びとに自分がこの世に生きてたいう存在証明をし、忘れられないためのパレードだという意味がこめられている。シニカルな内容だが、意外と意味が深い。サウンドのピークが前作なら、リリックや表現者の部分では間違いなく今作がピークだろう。死について深く考えることによって、現在自分が生きている価値や意味を導き出そうとしているのだ。これぐらいの年齢だと死にたいして漠然とした恐怖を抱くものだが、彼らは独特の死生観を持っている。それを屈折した表現で表現するところが、このアルバムの凄さなのだ。

 明るくポップなサウンドを屈折した歌詞でくるみ、独特なシニカルな表現をしているが、根底には孤独や切なさを感じる。そこがこのアルバムが、大多数から受け入れられ、評価された理由であり、彼らがまともな人間だと感じられる部分だろう。前作に続き、この作品もすばらしい。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

MY CHEMICAL ROMANCE 『LIFE ON THE MURDER SCENE』

ライフ・オン・ザ・マーダー・シーン(DVD付)ライフ・オン・ザ・マーダー・シーン(DVD付)
マイ・ケミカル・ロマンス

ワーナーミュージック・ジャパン 2006-04-26
売り上げランキング : 77902

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


 06年に発表された2枚組DVDとライヴ・アルバムが収録された作品。CDは各都市で行われたライヴと、未発表曲を収録。DVDはライヴ映像にメイキング映像とプロモーションビデオを加えた内容。もう一枚のDVDには結成から現在までのヒストリーと、エピソードが本人たちの口から語られている。このDVDを見れば、彼らがエモでもスクリーモ・バンドではないことが理解できるし、ヴィジュアル的な魅力も理解できる。それに加え、この時点での彼らの活動を総決算した内容だ。

 この3枚のなかで注目すべきは、いままでの活動を振り返ったDVDだろう。そこには結成秘話から自らのサウンドのルーツ、メンバーの絆などが語られている。とくに印象深かったのは、ライヴ・パフォーマンスについて赤裸々に語ったシーン。本来、彼らの魅力とは、毎回ハイ・テンションで行われるライヴにあった。とくにボーカル、ジェラルドの全身全霊をふり絞った壮絶なパフォーマンスには、このライヴでジェラルドのすべてが終わってしまうのではないかと感じるほど、刹那的な美しさを解き放っていた。しかしその裏側では、精神を高揚させるための、抗うつ薬とアルコールが欠かせなかったという。ジェラルドは、テンションをハイに持っていくため、薬とアルコールに頼っていたのだ。しかし薬とアルコールに頼るあまり、次第に依存症になり、徐々に肉体と精神が破綻していた。04年の7月には精神と体力が破綻をきたし、ライヴをまともに行いない状態になり、ライヴをキャンセルする事態へと発展した。

そして8月には、大好きなバンドを続けるため、薬とアルコールを断ち切った。メンバーの信頼がジェラルドの命を救ったとDVDでは語られている。薬とアルコールに頼らないライヴは、はじめのうちは怖かったというが 、次第に慣れて結果が現れてきた。たしかに8月以降のライヴ音源を聴くと、陽炎のように刹那的で病的なハイ・テンションさは失われた。代わりに熱く芯の強いライヴを展開している。しかもそこにはゆるぎない自信と爽やかな充実感を感じることができる。彼らは弱い自分を断ち切り、強さと自信を手に入れ、生まれ変わったのだ。

この作品では、絶頂期に起きたトラブルや、新しく生まれ変わった彼らについて語られている。彼らの見えない裏側を暴露することによって、さらに魅力が増している。彼らの苦悩がうかがい知れて、個人的には楽しかった。彼らのことを深く知りたい人にはおすすめの作品だ。



| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2012年4月 | トップページ | 2012年6月 »