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セレブラル・ボールジー

CEREBRAL BALLZY (初回限定盤)CEREBRAL BALLZY (初回限定盤)
CEREBRAL BALLZY

VINYL JUNKIE RECORDINGS 2011-07-23
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 ニューヨークはブルックリン出身のオールド・ハードコア・バンドによる11年発表のデビュー作。このアルバムを発表する前に、シングル4枚とEP2枚を発表しているが、さほど変化があるわけでもない。全作品を通してスピーディーな激しい。ブレていない。強いて前EPとの違いをあげるなら、ギターソロを若干取り入れ、ヴァリエーションが増えたこと。扇情的なギターが諦観に彩られた弛緩した空気を切り裂き、ドラムの疾走感が怒りをドライブさせていく。音の悪さが魅力で、あいからわずライヴの勢いをそのまま音源に焼き付けている。まさにハードコアの原点というべき作品だ。

 そこに目新しさはない。だが彼らの新しさは、黒人が主体の白人以外の人種による、新しいハードコア思想にある。現在ハードコアは、音の激しさや重さが重視され、メタルと化した。ロックンロールをベースにしたバンドが多く、録音環境が悪かった20年前のハードコア・バンドと比べると、現在では飛躍的にレコーディング環境が向上した。その結果、サウンド面では、過激な音を展開しているバンドが増えた。だがその豊かな状況が反映しているせいなのか、精神面では新しい思想を持ったバンドがアース・クライシス以降、出現しなくなった。

 あれから15年弱。ようやく新しい思想を持ったハード・コアが誕生したのだ。たしかに黒人ではバッド・ブレインズという例外があるが、彼らには虐げられたリアルな黒人の感情や怒りがなかった。黒人で貧民という立場から、差別や貧しさによって虐げられた環境というリアルな怒りをもって、もう一度精神面からハードコアを問いただした。それが彼らの存在意義なのだ。本来ハードコアとは、サウンドよりも精神を重んじる音楽なのだ。近年、ムスリム教徒によるハードコアや、プーチン批判をして、不当に刑務所に送られたロシアのプッシー・ライオットなど、ポーズではなく、本物の怒りを持ったアーティストが出現している。世界的に格差が広がる現在、ハードコア界も変わり始めているのだ。


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CEREBRAL BALLZY『Return Of The Slice』

リターン・オブ・ザ・スライスリターン・オブ・ザ・スライス
セレブラル・ボールジー

VINYL JUNKIE RECORDINGS 2011-03-09
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 11年3月に発表された9曲入りのEP。日本限定の作品。典型的な貧民層出身のバンドで、メンバーはアングロサクソン系の白人から、黒人、ヒスパニックまで在籍する多民族なる。アメリカでは「バッド・ブレインズがマイナー・スレットのカバーをしているようだ!」と称されているが、まさにそのようなサウンド。骨太のロックンロールギターをベースにした典型的なオールドスクール・ハードコアで、すべての曲が1分台。激しい怒りをサウンドに叩きつけ、瞬く間に終わっていく。ボーカルの歌い方やスピード感はバッド・ブレインズの影響が強く、硬質で引き締まったリズムからはマイナー・スレットからの影響を感じる。だがバッド・ブレインズのようなホジティヴ・メンタル・アティテュードもなければ、ストレート・エッヂというマイナー・スレットのようなストイックな思想もない。そこにあるのは、貧民層が抱えている富裕層への怒り。たとえば“インサフィシェント・フェア”では<改札を飛び越えろ!料金が足りない~それじゃどこにも行けない>と歌い、“コージング・ハボック”では、<都会で生きると腐っちまう。ドラッグ、酒、女。政治家はなにもしてくれない。どんどん信用を失っていく>と歌っている。彼らが歌っているのは、貧困層のごくありふれた日常なのだ。

 だが彼らの悲惨な境遇と怒りは、日本も他人ごとは思えない。2400万円という世界で一番高い議員報酬を貰い(イギリスは970万円)、わずか在籍30年で月48万円もらえる議員年金(厚生年金は40年支払って月17万円)、922人という世界で一番多い議員数を抱える日本の衆・参議院が、自分たちの給料や人員をカットせず(たいていの政治家は資産家やほかに事業を営んでいる人が多く、別収入を獲ている)、年間わずか130万円しかもらっていない生活保護を打ち切り、医療や年金をカットを指示する。(富裕層を擁護する片山さつきがいい例だ)格差を是正する所得税や固定資産税を増税せず、貧民層に負担のかかる消費税を増税。議員による富裕層優遇政策のおかげで、格差がアメリカ以上に進んでいるのだ。

 彼らのサウンドを聴いているとこれこそまさしくハードコアであり、日本も彼らのような悲惨な境遇を歌うバンドが出てきて欲しいと思った。


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MARITIME『HUMAN HEARTS』

ヒューマン・ハーツヒューマン・ハーツ
マリタイム

contrarede 2011-05-25
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11年発表の4作目。前作からじつに4年ぶりとなる。これだけ歳月がかかった理由は、おそらく音楽への情熱がうせていたからだろう。やりたいサウンドのインスピレーションが湧かなかったせいなのかもしれない。だからなのか、前作までの明るさは消え、目の前にふさがる霧のようにふかい悩みや内省のように暗くなった。

 今作ではブリット・ポップやメロディック・パンクを中心に、ギャング・オブ・フォーのカッテング・ギターや、透明なメロディーなどの要素を加えている。感触としてはプロミス・リング時代の4作目に似ている。だが決定的に違うのは、ボーカルの歌い方。そのオアシスやヴァーヴのような、ビブラートを使い、伸びのある高音を重視したアダルティックな歌声だ。そこには、いままでのチープでなまみの感情が伝わってくるような素朴な温かさはない。叙情的でクールな感情だけを切り取った世界観がある。

 個人的には彼らの素朴さやくよくよ悩んでいないで、とりあえず行動しようよ、といった姿勢が好きだった。だが新しいサウンドにチャレンジをし、同じ方向の感情を表現しないという意味では、評価できる作品ではないか。



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MARITIME『Heresy And The Hotel Cboir』

ヘレシー・アンド・ホテル・クワイアーヘレシー・アンド・ホテル・クワイアー
マリタイム

Bad News (Victor)(V)(M) 2007-09-21
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 ベーシストである元ディスバメント・プランのエリック・アクセルソンが脱退し、代わりにジャスティン・クラッグが加入。サポートメンバーとしてライヴに参加していたもう一人のギタリスト、ダン・ヒンズを正式メンバーとして迎えて作成された07年発表の3作目。個人的にはこの作品が最高傑作。

 前作までのアコースティック・ギターを中心としたサウンドからうって変わり、今作ではリプレイメンツやレモンヘッズ、ダイナソーjrなどに影響を受けたオルタナティブロックに変化。全体的にロックギターが中心のサウンドだが、ノイジーで歪んだギターコードの曲と、綺麗なメロディーの曲の2タイプの曲がある。メロディーを中心とした曲は若葉が萌える初夏の心地よい風を思い浮かばせ、ノイズが主体の曲は夜の帳のように精神の落ち着きを感じる。ノイズとメロディーとは、ある意味両極端の位置のあるように思えるが、両曲に共通しているのは、ポップで明るくラフなこと。すべてがカラッとしていて爽やか。ローファイでゆるい。全体を通してアメリカ中部のような広大な台地を思い起こさせる雰囲気が漂っている。

 彼ら自身、いままでなかった強烈なオリジナルティーを確立しようと躍起になっているタイプのミュージシャンではなく、もっとラフな気持ちで、自分たちのやりたい音楽をただ純粋に楽しんでいるタイプのアーティスト。その結果、3作通じて音楽性はバラバラだが、この作品が一番オリジナルティーを感じる。なにより今作も、作為的な感情は見られないし、彼らの人柄が反映されている。このゆるさがたまらなくいい。



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マリタイム 『ウィー・ザ・ヴィエクルズ』

We, the VehiclesWe, the Vehicles
Maritime

Grand Hotel Van 2005-11-03
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 06年に発表された2作目。ネオアコ、フォーク路線だった前作から、REMやトラヴィス、スミスなどに影響を受けたオルタナティブロック路線に変更された。

 今作ではドラムとベースのリズムを中心に、美しいメロディーが絡む展開。彼らはけっして、これまでになかった新しいスタイルサウンドという、オリジナルティーで勝負するアーティストではない。だが彼らの魅力はその人柄がにじみ出た音楽と、一貫してぶれない世界観にある。そのメロディーは、若葉のように明るく穏やかでまろやか。シャボン玉のように幻想的で浮遊感のあるキーボードからは、ふあふあとしたやすらぎに満ちた穏やかさを感じる。そこには悲しみや怒り、コンプレックスなどのネガティブな感情はまったくない。慰めと励ましに満ちたポジティブなエナジーにあふれている。それが彼らの世界観であり、人柄のよさが如実にサウンドに反映されている。

 これを聴けばやさしい気持ちになれるし、明日への活力になる。なにより懸念や憂鬱を吹き飛ばしてくれる姿勢がいい。人生とは行動こそがすべて。頭のなかだけで悩む必要はない。その理由は不安を考えなくても全部うまくいくから。彼らの音楽は、ぼくにそう訴えかける。



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