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ホット・ウォーター・ミュージック  『フュー・フォー・ザ・ヘイト・ゲーム』

Fuel for the Hate GameFuel for the Hate Game
Hot Water Music

No Idea Records 1998-10-19
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 97年に発表された2作目。基本的には前作と同じエモーショナル・ハードコアで、男くさいボーカルや野太く分厚いギターに、メロディーパートが絡むシンプルで武骨なサウンドに変わりはない。だが今作ではフガジなどの影響が強くなり、不規則なリズムを叩くドラムや、トリッキーなベースラインなどが加わり、よりヴァラエティー豊かな作品に仕上がった。

 基本的には重く荒い武骨なサウンドだが、緊迫感やひきしまったムードは漂っていない。激しい恐怖や怒りといった感情も見られない。むしろミドルテンポなため、一見、弛緩したムードが漂っているかのように思える。しかし終始がなり声で、ひとつひとつのリズムにな想いを叩きつけるように歌うボーカルからは、閉塞感と激しく闘っている熱い気持ちを感じる。サウンドにパワフルな力強さを注入しているのだ。

  『ヘイトゲームの燃料』と名づけられた本作は、やはり内面世界を追求している。だが前作と違い、憎しみの根源にあるもの、怒りに火を注ぐ原因など、心の深遠にある感情を追求し、見つめている。たとえば“ブラック・ジョウ”では、産業の奴隷と化した他人を自分に置き換え、暗い洞窟に閉じ込められている状態に比喩し、そこから脱出できずもがき苦しんでいる姿を歌い、“ザ・スリーピング・ファン”では、歯車を回すモータを自分自身に置き換え、制御を失い狂い壊れていく様子を語っている。“ブラック・ジョウ”では、たまっていくストレスを、“ザ・スリーピング・ファン”では人生の歯車が狂い内部が崩壊していく様子を比喩を交えながら語り、それこそこが憎しみを産む原因であると、結論付けている。

 この作品を彼らの最高傑作と言う人も多い。たしかに彼らのサウンドや独特な歌詞の世界は、この作品で確立した。だが個人的には、ボーカルの迫力とサウンドの豪快さがまとまりきっておらず、どこかぎこちなさを感じた。たとえば初期衝動が最高傑作と結びついているアーティストなら、そのぎこちなさや未熟さが彼らの最大の長所になる。だが、彼らの場合、どちらかといえば、円熟味で勝負しているアーティストのようにぼくは思える。でも個性を確立したという意味では、価値のある作品だ。

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ホット・ウォーター・ミュージック  『フィンディング・ザ・リズム』

Finding the RhythmsFinding the Rhythms
Hot Water Music

No Idea Records 1999-02-02
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 フロリダのエモーショナル・ハードコア・バンドの95年に発表したデビュー作。95年当時、アメリカ・ハードコア・シーンは、音楽的実験性を求めるポスト・ハードコア、マッチョイズムを排し内省的な方向に進んだエモーショナル・ハードコア、音の暴虐性を追求しメタルとより深く結びついたニュースクール・ハードコア、メロディーを取り入れたメロディック・ハードコアなどに枝分かれしていた。そのなかでもエモーショナル・ハードコアは、94年のウィーザーのブレイクも手伝って、とりえのないごく普通の冴えない男と結びつき、ポップにソフィスケートされ、エモへと進化していく。

 ホット・ウォーター・ミュージックは、エモがまだ地下音楽だったころに現れたバンドだ。そんな存在である彼らはエモーショナル・ハードコアのなかでも異色の存在へと変貌を遂げていく。そもそも彼らはポップ・ロックからの影響はない。サウンドのベースにあるのは、エンブレイスやダクナスティー、ハスカードゥなどに影響を受けたハードコア。野太く分厚いギターにメロディーパートが絡む展開。がなりごえを重視した男臭いのボーカル。シンプルで武骨なサウンドが彼らの特徴だ。

 初期の音源を集めたこの作品は、編集盤的な内容だが、デビュー作といえる。だがまだ先駆者たちの影響から抜けきれていない。歌詞は、<私は逃げることができるなら、その場所を見つけたい>とか、<私は気楽さと時間を必要としている>といったエモ特有の内面の葛藤を歌った内容が多い。彼らの本領が発揮されるのは、次の作品以降。彼らは初期衝動を売りにしているバンドではないが、この作品にはルーツが分かるし、目指している方向性も端的に分かる。そういった意味では、コアなファン向けの作品だろう。

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PUSSY RIOT (プッシー・ライオット)

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 前にもここで取り上げたロシアのパンクバンド『プッシー・ライオット』のメンバー3人が、今年の2月にモスクワ市内のロシア正教会、救世主キリスト大聖堂で大統領復帰が確実視されていたプーチン首相(当時)を批判する歌を歌っため、捕まり、裁判で暴徒罪で禁錮2年の実刑判決 (求刑・禁錮3年)の判決が下された。判決は3人の行為を「ロシア正教徒に対する宗教的憎悪と敵意に基づき、社会秩序を乱し、正教徒を侮辱した」と認定したと裁判官から言い渡された。

 裁判は、プーチン政権による反体制派への締め付けの象徴としてロシア内外の注目を集めた。なお実刑判決には、「表現の自由」への弾圧として批判の声が上がっており、アメリカのアンチ・フラッグなどパンクバンドが積極的にこの問題を取り上げ、Amnesty Internationalでは、彼らの不法逮捕に対する非難の署名活動を行っている。

 なおfacebookを通じて、世界的なデモをやるそうだ。(日本ではやらない) パンクバンドのなかでは、世界中を巻き込んだ騒ぎになっている。

 こちらも参考にしてほしい。

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ザ・ガスライト・アンセム 『45』

45/You Got Lucky [Analog]45/You Got Lucky [Analog]
Gaslight Anthem

Island / Mercury 2012-05-22
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 12年に発表された2曲入りの7インチシングル。7月に発売された4枚目のアルバム『ハンドリトゥン』からの先行シングル。A面の“45”は、クラッシュ系のパンクナンバー。B面の“ユー・ガット・ラッキー”はトムペティーのカヴァーで、ひしゃげたギターが魅力のサウンドを展開している。両曲とものデラックスエディション収録されているが、どちらかといえば『THE'59SOUND0』に近いサウンドだ。自分の感情を真摯に歌にぶつけるその歌声からは、不器用で朴訥な男臭さが漂っていて、相変わらず変わっていない。ヴァイナルという形で発売された作品だが、その理由も古きよき伝統を守る彼らの姿勢があるから。レコードでしか味わえないノイズと若干こもった音が魅力のシングルだ。

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フランク・ターナー 『セカンド・スリー・イヤーズ』

Second Three YearsSecond Three Years
Frank Turner

Xtramile 2012-01-24
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 12年に発表された2枚目のアウトトラック集。収録内容は10年の『ロック&ロールEP』から4曲。『イングランド・キープ・マイ・ボーンズ』のデラックス・エディションのボーナストラックから3曲と、iTunes専用のボーナストラック1曲。シングル『ザ・ロード』から1曲。09年のBBC・ラジオ・セッションからボブ・ディランの“ソング・トゥ・ボブ”をカヴァー。コンピレーションアルバム『アンダー・ザ・インフルエンスVol.8』からブルース・スプリングティーンの“サンダー・ロード”をカヴァー。アイルランドのオルタナバンドのトリビュート『プレッジ:ア・トリビュート・トゥ・カーブドッグ』から“サリー”をカヴァー。ライヴアルバム『テイク・トゥ・ザ・ロード』からスコットランド民謡“バーバラ・アレン”をカヴァー。ミラクル・リージョンのフロントマン、マーク・マルケイの妻、メリッサが急死し、双子の娘たちを育てながら音楽活動を続けるマークを支援するため企画されたチャリティーアルバム『チャオ・マイ・シャイニング・スター』からマーク・マルケイの“ザ・クワエット・ワン”をカヴァー。1969年に活躍したミュージシャンを集めたオムニバス『1969:キー・トゥ・チェンジ』から、ザ・ファンデーションズの“ビルド・ミー・アップ・ベターカップ”をカヴァー。未発表曲から、NOFXの“リノリウム”と、1940年から1970年代にかけて活躍したイギリスのお笑い俳優フランダース&スワンの“ザ・スロウ・トレイン”の2曲カヴァー。BBCセッションからイギリスのポップ・アイドル、テイク・ザットの“ザ・グレイテスト・ディ”をカヴァー。バッド・レリジョンのトリビュート『トリビュート・トゥ・バッド・レリジョン』から、“マイ・プア・フレンド・ミー”をカヴァー。イギリスのオルタナ系音楽雑誌、Kerrang magazineから発表されたニルヴァーナのトリビュート『フォーエバー』から“オン・ア・プレイン”をカヴァー。自身のライヴアルバム『テイク・トゥ・ザ・ロード』から、既存曲とワムの“ラスト・クリスマス”をカヴァーの2曲収録。計22曲が収録されている。

 前作で激しいタイプの曲を作った反動なのだろうか、ここでは渋く円熟味のある制御の効いた歌声の、大人のアコースティック・ナンバーが多数収録されている。ここでは実験的な要素は少なく、どちらかといえば、『スリープ・イズ・フォー・ザ・ウィーク』に収録されているシンプルなアコースティックな曲が多い。ほかにも、パンクナンバーの“トゥ・アブセント・フレンドズ”など、いい曲も存在する。今回のカヴァー収録曲は、イギリスの伝統を意識した内容が目立つ。とくにスコットランド民謡“バーバラ・アレン”は、イギリス人の原点まで遡っている。音楽を通してイギリス人とは、何者なのかを、見つめなおしている。全体の印象として、サウンドのコンセプトのない曲を集めた作品だから、シンプルに楽しんでいる。そこにはアレンジでの苦労など感じられない。コンセプトに縛られ幾分、窮屈に感じられたアルバムと違い、いい意味で肩の力の抜いている。深く考えないで作った曲たちといえる。フランク・ターナーのまた違った部分を楽しめる作品だ。


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フランク・ターナー 『イングランド・キープ・マイ・ボーンズ』

England Keep My BonesEngland Keep My Bones
Frank Turner

Epitaph / Ada 2011-06-07
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 11年に発表された4作目。彼らの最高傑作。最新作であるこの作品を最高傑作と決めつけるのは、気が早い気もするが、UKチャートで12位を記録するなど、このアルバムの評価もいままでなく高い。

 基本的にはボブ・ディランのフォークロックに、現代的なロックや、イギリスの伝統的な音楽を取り入れさらに発展させたサウンド。前作と同じく、アコースティックギターをベースにしている。今作では前作以上に、テンポの速い曲が増え、フォーキーな曲が増えた。エモの静と動のアップダウンのある曲や、ブルース・スプリングティーのようなジャズやピアノを取り入れた熱い歌声のロックな曲、ボーカルのみのアカペラで歌った曲など、前作とは異なるタイプの曲が増えた。全体的に丁寧で上品に聴こえる傾向にあり、パンクのようにスカっとする曲がないが、音楽に対する熱い想いが伝わってくる作品だ。

 そしてなによりこのアルバムの評価を高いものとしているのが、歌詞にある。今作の制作に入る前、前作の商業的な成功によって、もはや初期衝動という子供の気持の視点で歌詞が書けなくなったという。その視点で歌詞を書けば、真実ではないし、自分を欺くことになるから、書くことができなかったと述べている。今作では意識的にイングランド人として聴こえる音作りをし、イングランドの国際的なアイデンティティーがテーマになっている。たとえば前作だと、アメリカのビートジェネレーションの作家、ジャック・ケルアックからの影響があった。それが今作では、シェイクスピアの戯曲『ジョン王の生と死』から、インスピレーションを受けている。その内容は、イングランド史上最も悪評の高い、ジョン王を主人公にした物語。シェイクスピアの作品には、悲劇『リア王』や史劇『ヘンリー6世』など、イギリス王を題材にした作品を多く残している。だが、あえて人気のない悪名高き王をタイトルに持ってくるあたり、彼のに皮肉に満ちた性格がうかがえる。

 シェイクスピアを題材にした理由は2つある。ひとつは歌詞への引用。“アイ・スティル・ビリーブ”では、冒頭文のFriends, Romans, and countrymen(友、ローマ人、そして同胞諸君)は、シェイクスピアの『ジュリアス・シーザ』で、アントニウスが市民へ向けて演説した内容からの引用。歌詞の内容は、ロックンロールで怒れるパンクスや労働者の団結を煽り、富を搾取する資本家たちを断罪している。そして2つ目はイングランドの国際的なイメージを歌詞のテーマにしている。たとえば、“イングリッシュ・カース”では、ノルマンディーから英国へ侵略した、のちのイギリス王、ウイリアムズの血なまぐさい戦争について歌い、“ウェセックス(サクソン人の別称)・ボーイ”では、酔っ払いや大道芸人などが溢れる賑やかな街について歌い、“リバー”では、何万年も流れるテムズ川下流で住んできた人々のことを思い巡らしている。そこではイングランドの歴史を振り返り、その場所で暮らしてきた労働者階級の人々のことを思い巡らせている。イングランドの歴史を紐解きながら、自らの出自である労働者階級の多いサクソン人であることへの誇りを強いものとし、そして支配者階級への怒りをさらに強いものとしている。フランク・ターナーのアイデンティティーであるイングランド人であることと、そして反権力に満ちた性格の根源をなしている部分を、この作品でより明確にしたのだ。自らの出自や自国の歴史を紐解いて反社会的な考えを明確にした。安易な言葉かもしれないが、まさしくパンクといえる作品だ。前作と比べると若干、皮肉っぽさが失われて気がするが、それも怒りの矛先がより明確になったためだろう。彼の弱者をいたわるやさしさは失われていないし、なにより反社会性も失われていない。理由の分からない苛立ちを抱えていた子供の感情から、怒りの矛先が明確になった。それが音楽へのモチベーションとなり、最高傑作を生んだのだ。


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