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オフ 『ファースト・フォー・EPS』

First Four EpsFirst Four Eps
Off!

Vice 2011-02-15
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 10年に発表された、元サークル・ジャグス/ブラッグ・フラッグのキース・モリスによる新バンド、offのデビュー作。メンバーもベースのスティーブン・マクドナルドは元レッド・クロス。マリオ・ルカバルカは元ホット・スネイク/ロケット・ザ・フロム・クリプトという、豪華な顔ぶれ。これがまたハードコアの原点というサウンドで、いかにも彼らしいプリミティブな衝動に満ちた作品に仕上がっている。

 ここに収録されている曲は、 4枚立て続けに発表されたEPをアルバム一枚にまとめた内容だ。そのサウンドは、野太いロックンロール・サウンドをベースにした、オールドスクールなハードコア。すべての曲が1分台とファウストな展開。まるでサークル・ジャグスの1枚目を髣髴とさせる。勢いよく始まりあっという間に終わっていく。激しく簡潔な内容だ。だが、そこにはタイトさやシリアスさといった緊迫感とは無縁。どこか弛んだ部分がある。それもそのはず。そもそもキース・モリス自体、ヘンリー・ロリンズと比べると、そんなにバイオレンスな人間ではなかった。ブラッグ・フラッグ自体、マッチョで暴力的に変わり、警察に対しても武力で対抗するようになったのも、ヘンリー・ロリンズが加入したからだ。キースが在籍していたころは、そんなに暴力的ではなかったという。だれ構わずに<ファック・ユー>という言葉を投げかけ、アメリカ国旗を燃やしていたそうだが、観客に暴力を振るうことはなかった。酒とドラッグに溺れていた退廃的なバンドだった。ヘロヘロな脱力感と退廃的な姿が、キース・モリス時代のブラッグ・フラッグの個性だったのだ。そしてその個性を踏襲し、シモネタなどの下品さに、スピーディーで簡潔なサウンドを加え、個性を確立したのはサークル・ジャグス時代なのだ。

 そのころと比べると、今作でもさほど変わっていない。シンプルなロックンロールをベースにしたサウンドや、人間の嫌悪な部分を描写したイラストでは、もろにサークル・ジャグス時代のキース・モリスの個性が出ている。マッチョと内省世界をただストイックに極めていったヘンリー・ロリンズと比べると、彼の場合、イノセントも失われていないし、いい意味で成長していない。 昔のイメージのままだ。しかしそこにハードコアに対する一途な思いを感じることが出来る。ハードコアの原点を変わらぬ想いで、忠実に表現した作品なのだ。

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ガスライト・アンセム 『ハンドリトゥン』

HandwrittenHandwritten
Gaslight Anthem

Island / Mercury 2012-07-24
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 12年に発表された4作目。前作はプレッシャーから開放され、開き直ったような爽快さがあり、前々作は労働者階級のような泥臭い男くささのなかに、繊細なナイーヴさがちりばめてあった。それらの作品と比べると、一番パンクをしている。ここでいうパンクとは、攻撃的でアグレッシヴなサウンドのことだ。

 彼らの歌詞の内容は、初期のころから一貫して物語風に描かれているが、今作ではデヴィット・リンチの映画『マルホランド・ドライブ』にインスピレーションを受け制作されている。この映画自体、抽象的で解釈は人それぞれに異なるが、彼らなりの見解は、細部の細かいディティールを追及した60年代の古きよきアメリカの情景と、不条理な愛の世界。たとえば“45”では、レコードを裏返すという行為から、60年代のオールディーズのような匂いを感じることが出来るし、“ハンドリトゥン”では、パソコンが携帯メールが主流になり、失われてしまった手書きの大切さを歌っている。そこでは手書きの文字でしか伝わらない想いや温かみ、その人ならではの字体が、すべての思い出を作っていくのだと訴えている。文明の進化によってすべてが便利になったが、その分、古きよきものが失われた。彼らには、60年代のサウンドやレコードといった音楽機器、手書きといった古きよき伝統を、廃れず守っていこうという姿勢があるし、そこには朴訥で不器用な人間の温かみを感じる。初期のころはサウンドだけにとどまっていたが、今作では手書きといった深い部分まで掘り下げ追及している。しかも歌詞にその時代の空気と細かいデティールを取り入れながら、60年代の郷愁への憧れを熱く衝動に満ちたサウンドに乗せ、その想いをぶつけている。

 今作もクラッシュやソーシャル・ディストーションに、ブルース・スプリングティーンやファンクやブルースの要素を加えたサウンドがベースになっている。そこに『愛しのレイラ』のようなブルースのイントロが加わった。曲の構成も低音から高音へと音域が変わり、サビに向かって感情が高ぶっていく。いままでの作品の中で一番練られているのではないか。ただあえて欠点を挙げるなら、全体的にスローテンポな曲が多く、シリアスさも希薄で、やや緩慢に感じた。個人的には1,2曲目のようなスピーディーで衝動に満ちたパンクの曲を増やしてくれれば、最高傑作となりえる作品になったと思う。

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ハードコア4シリア

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 12年に発表された全世界のパンク/ハード・コアバンドによるコンピレーション・アルバム。ハードコア4シリアとは、内戦でシリア軍によって、砲撃を受け家や家族を失った庶民の人道的をサポートするために設立された、非政治的オンラインメディア啓発プロジェクトだ。このアルバムを発売した理由は、現在も虐殺が続くシリアの現状を知ってもらうことを目的に、そしてアルバムによって得られた収益を、シリアの人道援助プロジェクト、Karam Foundationに、寄付をするために発表されたアルバムなのだ。

 参加しているバンドは、――1曲目から順に挙げていくと――元ブラッグ・フラッグのキース・モリス率いるハードコア・バンドoff。タクヮ・コアバンドで有名なコミナス。ファット・レックコーズにも所属し、反戦、反核のメッセージを掲げているバンドで有名なアンチ・フラッグ。ドイツのポジティブ・メロディック・ハードコアバンドZSK。サタニック・サファーズなどでボーカルを務めたRodrigoが加入したスウェーデンのメロディック・ハードコア・バンド、アトラス・ ルゼィング・グリップ。こちらもスウェーデンのハードコア・パンクバンド、エージェント・アティテュード。またスウェーデンからニュースクール・ハードコア・バンド、レイズド・フィスト。スイスのニュースクール・ハードコア・バンドUNHOLD。フランスのヒップホップ、メタル、ハードコアのオネスタ。スイスのハードコアバンド、アニマル・インスティンクト。オランダからはヘルシーの流れを受け継ぐメタル系ハードコアバンド、ディス・イズ・ヒストリー。オーストラリアのハードコアバンド、ワード・アップ!。日本でも有名なドイツのハードコアバンド、ウォータダウン。 オーストラリアからガレージ系ハードコアのCrank。またオーストラリアからニューウェーヴ系パンクバンドのザ・ゴー・セット。スイスからメロディック・デスにニュースクールハードコアをブレンドしたバンド、パーティズ・ブレーク・ハーツ。スウェーデンからダムドのような高速パンクバンドのチッキング・ボムズ。スイスからブラッグ・フラッグ系ハードコアバンドのザ・ストラポンズ。スウェーデンからバーニング・ハートに所属していたことでも有名な59タイムス・ザ・ペイン。オーストラリアからランシド系パンクバンドのTopnovil。スウェーデンからアメリカン・オールドスクール系ハードコアのKvoteringen。シリアからアラブっぽいメロディーを取り入れたパンクバンド、Zinc。スイスから初期パンクバンドのEntwaffnung。トリニダード・トバゴからシンガロング・スタイルのパンクバンド、アンチ・エヴリシング。スイスからGBHスタイルのハードコアバンド、プレイ・トゥ・デストロイ。アメリカからカオティック・ハードコアのビアフット。スイスからメタルコアのUnveil。スウェーデンからオルタナ+デスコアのスォーム。またスウェーデンからノイズコアのデスパレード。そしてアメリカからドゥーム系タクヮ・コアバンドのAl-Thawra。

 国ごとに挙げていくと、アメリカからは5バンド、ドイツは2バンド、スウェーデン8バンド、スイスから7バンド、オーストラリアから4バンド、フランス、オランダ、シリア、トリニダード・トバゴから1バンドづつ。計9カ国のバンドが、主催者の理念に賛同して楽曲を提供したのだ。シリア問題が世界中のハードコアバンドたちに、大きな影響をあたえたのか理解できる。それだけでも、このアルバムは成功といえるだろう。個人的には日本やイギリス、ブラジルのバンドが参加していないのは非常に残念だったが。

 それにしても面白いサウンドを提供しているバンドばかりだ。最先端のハードコアを追求しているバンドから、頑なに昔ながらのオールドスクール・ハードコアの伝統を守っているバンド、古きよきハードコアに、その国ならではの地域性の音を取り入れたバンド、ハードコアの譜系の流れを無視して、違う体系からいいところだけを取り入れ独自の進化を遂げたハードコアバンドなどじつに多彩。まるでハードコアの万国記念博覧会のようだ。シリアの現状を知ることも重大な要素だが、世界的なハードコアを知りたい人にもお勧めの作品だ。

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