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dredg 『ザ・プライアン、ザ・パロット、ザ・ドゥルージョン』

Pariah the Parrot the Delusion (Dig)Pariah the Parrot the Delusion (Dig)
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Dredg 2009-06-09
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 05年に発表された4作目。前作『キャッチー・ウィザウト・アームス』は、エモ、プログレ、オルタナが混ざったビューティフルなロックなサウンドで、彼らの最高傑作だった。ロックバンドとして彼らの目指していたサウンドが完成したためか、今作では前々作の混沌としたサウンドを、さらに突き詰めている。もはやロックギターのサウンドではない。ビーチボーイズの『ペット・サウンズ』のような混沌とした曲から、ユートピアやピンク・フロイドが混ざったプログレ、 ファンク、アメリカンポップの曲などがあり、かなり雑然としている印象を受ける。

 今作では、イギリスとインドで活躍する小説家で、『悪魔の詩』の作家でも知られるサルマン・ラシュディのエッセ、『イマジン・ノー・ヘヴン』からインスピレーションを受け、制作されたそうだ。その本の内容は、「6億人が現在でも宗教紛争に巻き込まれている、その宗教は信仰深い人が多い。個人的が慰めるという意見では、その宗教は名前で行われた悪を補うより以上のことをしている。また、人間の知識が成長するのに従って、私たちがどうここに到着したかに関して、いままで話されたあらゆる宗教話が、全く間違っていることが明瞭になった」。と、書かれている。ぼくの英語力が乏しくこの作品が宗教批判をしているのかどうかはわからない。個人的には宗教批判に影響を受けた作品ではないと信じたい。ならこのエッセのどこに影響を受けたのかといえば、宗教を超越した超常現象や、宇宙や大自然など人間の領域を超えた形而上的な神秘主義に影響を受けたのだろうと思う。実際ムスリム社会に対して悪い印象のあるサルマン・ラシュディの小説だが、彼が書く物語の手法は、魔術的リアリズム(日常にあるものと日常にないものが融合した作品)と呼ばれ、不可知論がテーマになっている。

 日本語で『社会ののけ者、オウム(他人の言葉を繰り返す人)、妄想』と名付けられた今作は、奇妙さがテーマになっている。サウンドのベースになっているのは、ビーチボーイズの『ペット・サウンズ』。複雑なアレンジが万華鏡のようにくるくるとめまぐるしく変わる展開。たとえば1曲目の“プライアン”では、おとぎの国のようなメルヘンなサウンドがエピローグに進むにつれ爆撃音のような破壊的なギターサウンドに替わる展開で、“ライト・スウィッチ”では、帝政末期を彷彿させる絶望的に暗いオルガンの音から、ギターとボーカルのみミニマムな展開に。そして後半に進むにつれ、アメリカン・ポップスの要素が強くなってくる。上品なピアノの切ない曲やクリスマスのような神秘な曲もある。まるで、おもちゃ箱のように、不安や切なさメランコリー、憂鬱、喪失といった感情が乱雑に詰め込まれている。メルヘンで幻想的な傾向にあるが、総じてもの哀しく美しいサウンドだ。前作のロックギターのサウンドを1,2曲残しながらも、ポップスやアンビエントなどを貪欲に取り入れ、厚みの増した成長を遂げている。ロック的なカタルシスを求めている人には物足りなさを感じるかもしれないが、いい意味で成長している。これはすばらしい作品だ。



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dredg 『ライヴ・アット・ザ・フィルモア』

Live at the FillmoreLive at the Fillmore
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Interscope Records 2006-11-07
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 06年に発表されたライヴ・アルバム。この作品を発表した理由は、ひとつの区切りとなる時期を迎えていたからだろう。前年に発表した『キャッチー・ウィザウト・アームス』は、抽象的でビューティフルなサウンドという、彼らの個性を確立した作品だった。だからいい状態のライヴを、作品として残したかったのだろう。会場はサンフランシスコにあるフィルモアというライヴ・ハウスで行われた。

 フィルモアといえば、フラワー・ムーブメントを育て、モンタレーやウッドストックなどのロック・イベントを裏で支え、ライブ・エイドやアムネスティー・ツアーなどのチャリティー・イベントを実践したロック界を代表するプロモーター、ビル・グレアムによって創設されたライヴ・ハウス。その会場を選んだ理由は、おそらく彼らもイノベイターとしての意識が強かったからではないか。そこには新宿ロフトの伝統に敬意を払っている日本の有名バンドのような、演奏できることへの誇りを感じる。適度な緊張感を感じるし、自然と力の入ったいいライヴを展開している。

 アルバムでは物語性とコンセプトにこだわっている彼らだが、このライヴでは、ビューティフルなサウンドへの徹底的なこだわりを見せている。3枚のアルバムからバランスよく選曲され、綺麗にひとつにまとめられている。ここでは1stや2ndのころのゴツゴツとした歪さや店舗を無視した強引な部分は、大幅にアレンジの変更がなされている。たとえば“Whoa is me”では、ホーンを使い、上品なジャズナンバーに変更され、“catch without arms”のラストを飾る“マショトーリカ”のアウトロ(the ornament)が、ボーカル付きにアレンジされている。“90アワ・スリープ”では、スピードが増していく終わり方。またここでしか聴けない新曲"The Warbler"や、『キャッチ・ウィザウト・アームス』のB-side、 "ストーン・バイ・ストーン"なども収録されている。サイケ調の不穏な空気からは始まり、同じ夢を繰り返し見ているような奇妙な中盤、そして夜明けのようなトランシーな曲で幕が閉じていく展開で終わっていく流れもいい。

 そうこの作品は、未発表曲を収録したレアな作品でもあると同時に、手直しされ磨かれた曲たちや、適度に漂っているいい意味での緊張感から、メンバー、一人ひとりが同じ方向で情熱が交わっている奇跡の瞬間を収録したライヴ盤といえるだろう。彼らの一番言い状態を収録したベスト盤といえる重要な作品だ。

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dredg 『キャッチ・ウィザウト・アームス』

Catch Without ArmsCatch Without Arms
Dredg

Interscope Records 2005-06-21
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 05年に発表した3作目。今作ではゴツゴツした聞きづらさがなくなり、ポップに聴きやすく変化した。大衆受けするサウンドに変化したため、ビルボードで124位を獲得した。結果、彼らの出世作となり、最も売れた作品だ。

 今作では、ソニックユースのようなノイジーなギターに、ヴァーヴのようなブリットポップが加わった。まるで蜃気楼のようなまぼろしを見ているかのようなスライドギター。音のない空間の隙間が寂寥感に満ちているピアノの音。神経質なまでに繊細でナイーブなギターメロディー。流れる川のようになめらかで憂いを含んだ美しい声のボーカル。心を癒してくれるようなアンビエントなサウンド。そのサウンドは寂しさや悲しみに満ちている。だがその悲しみが叙情的なまでに美しい。まるで海に沈んだ海底都市を見ているような手付かずの無垢と、一時の楽園の幻想を思い描いているような美しさだ。ビューティフル・エモの先駆けといえるような美しいサウンドだ。

 今作では、サウンドも歌詞もコントラスト(対照)がコンセプトになっている。ここでいう対照とは、天使と悪魔、欲望と犠牲と奉仕、愛と憎しみなど。しかも二部構成になっていて、1曲目の“オード・トゥ・ザ・サン”から7曲目までの“サング・リアル”が第一部で、8曲目の“プランティング・シードルズ”から12曲目の“マトリショーカ”までが第二部となっている。第一部は上記した内容の対照。第二部は、麻薬常習者や別れた彼女についてなど、他者を通した俯瞰的な内容が目立つ。相克する内面を歌詞にした第ー部と、三人称で外の世界を俯瞰した第二部。第一部の2面性ある内面の対照。一部と二部を通じた外と内との対照。2重の意味で、正反対の合わせ鏡のようなコントラストになっているのだ。アートワークにも意味があるようだが、その絵は抽象的で真の意味が分かりづらい。この抽象的な絵は、直接的および間接的に、歌詞やサウンドに関係しているようだ。アルバムが発表される数週間の間、公式ウェブサイトで、いろいろな手がかりが提示された。いろいろなヒントをサイトで提示する手法は、まさにデヴィット・リンチの映画のようだ。

 個人的な感想を言えば、前作と比べると、この作品ではサウンドの難解さが取り払われている印象を受けた。サウンド的には抽象性と、精神の混乱のようなカオスがなくなり、一方向ですっきりとまとめられている。ビューティフルなサウンドで統一されて、感情のベクトルも曲によって悲しみや寂寥などの一方向に定められているため、聴きやすい。個人的には、わけの分からない混沌としたカオスが彼らならではの個性だと思っているし、好きだった。だが今作は圧倒的に聴きやすいし、ビューティフルな芸術性がある。それも悪くないし、いい作品だと思う。

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