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シャイ・ハルード 『ア・プロファウンド・ヘイトレッド・オブ・マン』

Profound Hatred of Man (Reis)Profound Hatred of Man (Reis)
Shai Hulud

Revelation 2006-08-29
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 06年に発表されたアウト・トラック盤。アルバム・タイトルはもとは97年に発表された3曲入りのデビューEP『ア・プロファウンド・ヘイトレッド・オブ・マン』に、10曲追加収録し、06年に再発されたアウト・トラック集だ。アルバムを1枚しか発表していないのになぜアウト・トラック盤なのかといえば、97年から00年にかけて、彼らは、オムニバスやスプリットにたくさん曲を提供してきたからだ。この間の彼らの活動を振り返ると、99年の半ばには、ボーカルのチャドがニュー・ファウンド・グローリーのギタリストに専念するために脱退。Geert Van Der Veldeにボーカルが代わった。ドラムもスティーヴがファーザ・シームス・フォーエバーに専念するために脱退した。主要メンバーの脱退が重なり、まともに活動をすることが出来なかった。メンバーが安定していないからアルバムを制作するのが無理で、サウンドも、ハードコアよりなのか、それともメロディック路線で行くのか、いろいろと試行錯誤を繰り返している時期だった。

 収録されている曲は、97年に発表された3曲入りのデビューEP『ア・プロファウンド・ヘイトレッド・オブ・マン』から、3曲、98年に発表されたニューヨークのハードコア・バンド、インデシションとのスプリット『ザ・フォール・オブ・エブリー・マン』から3曲、00年に発表されたニュースクール・ハードコア、アナザー・ヴィクティムとのスプリット『ア・ ホール・ニュー・レベル・オブ・シックネス』から3曲、00年に発表されたボーイ・セット・ファイアとのスプリット『Crush 'Em All Vol. 1』から1曲、レベリューションのコンピレーション・アルバム『from Revelation 100 compilation』から1曲、未発表曲2曲の計13曲が収録されている。

 シンガロング・スタイルを取り入れた“フェイレス・イズ・ヒー・フー・セイズ・フェアウェル・ホエン・ザ・ロード・ダークンス”など、実験的な様相も多々ある。そのなかでも個人的に気になったのがカヴァー曲。ここでカヴァーをしているバンドは、初期ハードコアのバッド・ブレインズ、バッド・レリジョンやNOFX勢のメロディック・ハードコア、スラッシュメタルのメタリカ、デトロイトの極悪オールド・スクール・ハードコア・バンドのネガティヴ・アプローチの5バンド。しかもどのカヴァー曲もそのバンドを代表する有名な曲ばかり。とくに印象に残ったのが、バッド・レリジョンの“アナスィーザ”とネガティヴ・アプローチの“ロスト・ケース”。“アナスィーザ”では、断片的なメロディー以外、原曲の面影がない。ボーカルを含めたメロディーが魅力な曲だが、デス声が全面に出てヘヴィーに仕上がっている。逆にまったくメロディーのない“ロスト・ケース”は、メロディーが加えられ滅茶苦茶な展開のカオティック・ハードコアな曲に変貌を遂げている。両者とも滅茶苦茶なカヴァーになっている。

 メロディックなバンドのカヴァーにはヘヴィーな要素を加え、逆にヘヴィーなサウンドのバンドには、メロディックな要素を加える。間逆な要素を加える事によって、自分たちのサウンドの個性を模索している姿勢がうかがえる。彼らの個性が確立する作品を発表するのは次作以降からだが、その個性を探るための試行錯誤がうかがえ、彼らのルーツが理解できる作品だ。


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シャイ・ハルード 『ハーツ・ワンス・ノーリッシュド・ウィズ・ホープ・コンパッション』

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Shai Hulud

Revelation 2006-08-29
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 日本では叙情コアと呼ばれているフロリダ出身のシャイ・ハルードの97年に発表されたデビュー作。ファーザー・シームス・フォーエバーのときにも触れたが、フロリダのパンクシーンとは、独特だ。ニューヨークやカルフォルニアでは、ジャンルごとにバンドが分かれ、メンバー同士の交流があまり見られない。だがフロリダでは、クリスチャン・ハードコアからエモやメロディック・パンク、スクリーモなど、異なるジャンルのバンドが交流を深め、独特のシーンを形成している。そんな環境で結成されたシャイ・ハルードは、エモからメロディック・パンク、クリスチャン・ハードコア、ニュースクール・ハードコア、メタルなど、ほかのシーンでは対立しているようなジャンルのサウンドが平気で融合している。ある意味ジャンルレスな稀有なバンドなのだ。

 ギターのマット・フォックスとベースのデイヴ・シルバを中心に結成され、ボーカルはのちにニュー・ファンウド・グローリーのギターとして活躍するチャド・ギルバードが務め、ドラムはストロングアームと、のちのファーザー・シームス・フォーエバーで活躍するスティーヴが担当。フロリダ・パンク・シーンでは、有名なバンドのメンバーがそろった。

 そんなシャイ・ハルードの個性とは、アース・クライシスから発展したニュースクール・ハードコアに、クリスチャン・ハードコアのメロディーを合わせたサウンドだ。クリスチャンとストレート・エッヂが混在したハードコアなのだ。この時点ではまだ叙情的なメロディーよりも、金属質の重いリフ(初期ニューファウンドグローリーの代名詞となる)を重視している。

 今作は、06年に新しくリミックスされ、新たなアートワークのジャケットが加えられ、再発されたリマスター盤だ。収録曲はオリジナル盤と変わらない。リマスターされているため、音はクリアだ。ハンマーで金属を叩きペシャンコにするような重いリフ。その隙間を這うように神経質に響く冷たいギターのメロディー。息苦しさとやるせない感情を怒声に乗せ、咆哮するチャドのボーカル。発狂したような狂ったスピード感のドラム。そこにはささくれだった心の痛みを歌っている。

 今作では、人間不信や裏切り、絶望、憎しみなどが歌詞のテーマだそうだ。毒々しいまでの苦しみと怒りと悲しみに満ちている。たとえば“ア・プロファウンド・ヘイトレッド・オブ・マン”では、<私の失望を言葉で表現することはできない。私の不満も言葉で表現することもできない。人間の深い憎しみ>と歌い、“フォー・ザ・ワールド”では、<自分自身を注ぎ出す~私のカップは空~私の希望はすぐに死んでしまった~私は一人で別の朝を過ごす~私を拒否した世界で。~私はあなたを憎む>と歌っている。

 そこでは、自分の気持ちと感情を1人称で述べ、ひたすら内省を突き詰めている。そこには血が吹き出て、のた打ち回るような痛みがある。人間不信に陥った原因や出来事については一切語られていない。どうやらギターのマット・フォックスが彼女に振られた経験を歌にしたそうだ。それにしても大げさに感じてしまうほど、傷口が深い。このあとメロディーを重視していくが、この時期が精神的にもサウンド的にヘヴィーなハードコアを展開しているのは、この作品のみ。

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プレッシャー・レスティストス  『エレファント・マン』

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 13年に発表された2曲入りのシングル。相変わらずジョイ・ディヴィジョンからの影響を受けたポスト・パンクに変わりはない。変わったところといえば、テープの早送りのようなチープなムーヴシンセが加わったところか。“エレファント・マン”は、暗闇で炎がゆらめくようなサイケデリックなメロディーの曲で、サウンド自体が前作の延長にある。息が詰まるような切迫したスピード感とボーカルの暗い情念が魅力な曲だ。たいする“ノット・オーヴァー”は、これもチープなキーボードと、初期キュアーのようなメロディーが魅力。ところどころにこったギターソロを取り入れ、しかもボーカルもいままでにない歌いまわしで、実験的な要素がうかがえる。レコーディング機材が発達した昨今で、むかしのインディーのようなあえてチープなサウンドを取り入れているところに、拘りがうかがえるし、着実に進歩を感じる。ぼくはこのチープなサウンドに、むかしのインディーのような古きよきものを感じるし、自分たちで全部やっていこうとする彼らの姿勢も好きだ。まさにDIYを感じる作品だ。

                      こちらからダウンロードできます。

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プレッシャー・レスティストス

Pleasure LeftistsPleasure Leftists
Pleasure Leftists

Fan Death Records 2011-06-07
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 アメリカは中部オハイオ州クリーブランド出身のポストパンクバンドの11年に発表されたデビューEP。暗闇で炎がゆらめくようなサイケデリックなメロディーや、静かに感情を煽っていくベース、切迫感に満ちたギターからは、ジョイ・ディヴィジョンの影響を色濃く感じる。だがジョイ・ディヴィジョンとの決定的な違いは、女性ボーカル、ヘイリー・モーリスの歌声と世界観にある。ジョイ・ディヴィジョンといえば、死への切望が悲しいまでの透明な美しさがあった。それに比べるとダークで透明な美しさはない。あるのはエロティックで耽美な美しさ。ヘイリー・モーリスが歌う歌声は、感情が抑制され、まるで毒リンゴを作る魔女のように呪術的。心の奥底で湧き出た小さな感情が、煮えたぎるアワのように次第に大きくなっていくように、静かに激しく変化していく感情を歌っている。彼女が影響を受けたボーカルスタイルは、1950年代のフランスのバラード歌手のエディット・ピアフだという。だからなのか、70年代のサイケディック・カルチャーのようなノスタルジックがある。まるで30年近く文明の遅れている国に足を踏み入れたときのような、世間から取り残された感覚に陥る。古臭い空気が漂っている。その感覚がこのバンドの魅力といえるだろう。アメリカではこの手のサウンドを展開しているバンドはあまりいない。ニューウェーヴ好きにお勧めのEPだ。


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