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Shai Hulud 『Reach Beyond The Sun』

リーチ・ビヨンド・ザ・サンリーチ・ビヨンド・ザ・サン
シャイ・ハルード

ハウリング・ブル・エンター 2013-02-13
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 ニュー・ファウンド・グローリーのチャドがボーカルに戻り、13年に発表された4作目。この作品もまた、じつに5年ぶりの作品。まずチャドがボーカルに復帰した経緯から述べたい。きっかけは08年にニュー・ファウンド・グローリと一緒にアメリカ中を周ったツアーにある。ツアー中のサウンドチェックのときマット・フォックスがチャドに新曲のデモを聴かせたのがきっかけだった。その時マットに頼んだのは、新作のプロデュースだったという。それから2年の月日が経ち、曲が完成し、チャドにプロデュースを依頼するため音源を送った。そうしたら曲に対して新しいアイデアもあるし、シャイ・ハルードのサウンドにも興味もあって、ぜひ一緒にやりたいと返事が返ってきたそうだ。ちょうどその時期、ボーカルのマット・マザリーが脱退してしまい、急遽代わりのボーカルを探す事になり、チャドにボーカルを頼む事にしたそうだ。最初はチャドに興味がなく、新作のリリースが危ぶまれたが、徐々にやる気が出てきたようだ。そういった経緯でチャドがボーカルを担当する事になった。しかも今作限定で参加したようだ。

 そんな曲折を経て発表された今作は、デビュー作のような原点回帰のサウンド。演奏よりも初期衝動や勢いを重視している。そのサウンドは、マイナー・スレットのようなスピーディーなハードコアをベースに、アースクライシスのような分厚く荒々しいギターと、プログレの芸術的で切迫感に満ちたメロディーが、断片的に絡む展開。そのサウンドに乗るボーカルは、熱さと団結を#するシンガロングスタイルのボーカルとOiコーラス。そして体力のすべてを振り絞り叫ぶチャドの絶叫ボーカルだ。前任のマット・マザリーや前々任のGeert・Van・Der・Veldeなどのデス声は、地の底から低音のうねり声を上げる迫力があったが、あくまでも作られた歌声だった。チャドのボーカルはその2人とは違い、1曲のために全身全霊を傾け、声がなくなるまで歌う姿勢がある。そのこの熱い気持ちを伝えようとする尋常でない。それが初期衝動の一因を担っている。まるで壊れかけの車がバンパーなどの部品を落としながら、ハースピードで飛ばしていくような狂ったスピード感だ。小難しいテクニックを排除し勢いを重視したギターサウンド。まさにハードコアなサウンドだ。

 今作のテーマは、タイトルの『リーチ・ビヨンド・ザ・サン』(太陽の向こう側)にある。その意味は、旧約聖書の言葉にある<太陽の下に新しきものはない>を逆説で捉えた言葉だそうだ。この世の中に新しいものははいという言葉から出発して、現状の向こうに見えるものや感じる事のできるもの、体験でき、手に入れられるものを求めて行動する、という意味があるそうだ。単純に太陽の下から向こう側に行ったどうなるのだろうという疑問から出発したそうだ。

 歌詞は前作同様、3人称で教条的で隠喩に満ちた口調で書かれている。だが今作では物語仕立てになっているようだ。たとえば“アイ, サルナイン”では、主人公は物凄く落ち込んでいて疎外感を持っている。彼が見るもの全てが怒りと惨めさと暴力に満ちている。彼自身はそれが自分に 与えられた現状だってことに気づいて絶望している。そして次の“リーチ・ビヨンド・ザ・サン”で、どん底の絶望から希望の光を見つけ出し、最終的に自分の生き方を改めようとしている。

 この作品で訴えかけているのは、どんなに絶望の淵に立たされても、良心と希望を失うなということ。自分の望む何かを得るためにいまいる場所の向こう側に行く。この作品を聴いた人に、夢や目標となるものを見つけ、ゴールを目指して欲しいことがテーマだそうだ。

 個人的にはこの作品を彼らの最高傑作に挙げたい。その理由は、切迫したスピード感と尋常でない衝動が、魂を滾らせるような熱い気持ちにさせてくれるからだ。前作までは凝ったサウンドに拘りすぎた。でも今作では勢いと衝動を重視している。怒りを叩きつけるようなシンガロングスタイルのボーカルと、団結を促すOiコーラスには、尋常でない熱さと切迫が漲っている。その熱さを倍化させる勢いがすばらしい。そして声を枯らして叫ぶボーカルからは、その思いを伝えなければいけないという、使命感さえ感じる事ができる。どんな絶望に立たされようが立ち向かっていく熱さがカッコいい。結局、諦めてはダメなのだ。淡水域から肺という新たな臓器を作り陸に上がった両生類や、高いところから飛び降り翼を獲得した鳥類のように、あきらめずチャレンジし続ければ、最終的に新しい進化(太陽の向こう側)に繋がるのだ。挑み続ける事によって新たな進化へと繋がる。彼らもまたチャレンジによって新たな個性を獲得した。最先端のハードコアの形を提示した作品だ。

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