プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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2018/03/26

TONNY RETTMAN(トニーレットマン著) 『STRAIGHT EDGE (ストレートエッジ)』

Straight Edge: A Clear-headed Hardcore Punk HistoryStraight Edge: A Clear-headed Hardcore Punk History
Tony Rettman

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ニューヨーク・ハードコアやデトロイト・ハードコア『Why Be Something That Youre Not』の著者として知られるトニーレットマンが、17年に発表したストレート・エッジ・シーン全般を紹介した本。

アメリカン・ハードコアの細分化されたジャンルのひとつとして知られるストレート・エッジ。この本では37年に渡るストレートエッジの歴史を、当事者の発言を引用する形式で執筆している。当時のシーンの裏側や、知られることのなかったエピソードや、実際の話とは異なる事実など、くまなく紹介している。

まずストレート・エッジとは、「喫煙をしない」「麻薬をやらない」「アルコールを飲まない」「快楽目的のセックスをしない」という基本理念を柱に掲げたパンク・ハードコアの思想だ。その始まりはティーンアイドル、マイナースレットのボーカルであったイアン・マッケイの発言から始まる。

この本でチャプター分けされ紹介されている内容を説明していくと、

WASTED YOUTH…ヒッピー・カルチャーやTHE BEATLES(ビートルズ)やTHE DOORS (ドアーズ)、THE ROLLING STONES (ローリング・ストーンズ)などの、60年代のロックバンドを象徴する「セックス、ドラッグ、ロックンロール」の価値観を否定するためのアンチ・テーゼとして、ストレート・エッジ思想が生まれた。

D.C.: SNEAKERS…当時10代であったIan MacKaye(イアン・マッケイ)が結成したバンド、THE TEEN IDLES(ザ・ティーン・アイドルズ)が、未成年でもライヴハウスに入る方法として未成年の手の甲にマジックでバツ印(×)印を付けることを提案。以来、手の甲のバツ印は、反アルコールと反ドラッグのシンボルとなった。

MINOR THREAT : STRAIGHT EDGE…MINOR THREAT(マイナー・スレット)が81年に発表したEP。『MINOR THREAT』のなかの“Straight Edge (ストレート・エッジ)”と、同年発表のEP『In My Eyes』のなかの“Out Of Step (アウト・オブ・ステップ)”との2曲から、ストレートエッジに対する思想やアティテュードが生まれた。歌詞の内容を説明すると、“ Straight Edge”ではと歌い、“ Out of step”ではと歌った。この歌詞によって、ストレート・エッジ思想が確立された。

BOSTON : THE KIDS WILL HAVE SAY…ボストン・ストレートエッジ・シーンについて。イアン・マッケイが単独で歌っていた内容を、ボストンでSSDやDYSなど複数のバンドが共鳴し、シーンとして確立した。ボストンではDCと違い、酒やクスリをやっているバンドを、暴力で強制的に排除するなど武闘派も多く、激しく体を動かす体育会系のようなシーンだった。

7 SECONDS : COMMITTED FOR LIFE…初期ストレートエッジからユースクルー・シーンへの橋渡しをした7 SECONDS(7セコンズ)。
OUTHERN CALIFORNIA : IN CONTROL…西海岸のストレートエッジの創始者として知られるUNIFORM CHOICE (ユニフォーム・チョイス)。

YOUTH OF TODAY : TAKE A STAND! …ストレートエッジをアメリカ全土に広めるきっかけとなったYOUTH OF TODAY(ユース・オブ・トゥディ)。7セコンズやユニフォームチョイスなど、各地で細々と活動していたストレートエッジ・バンドに連帯感を促し、ユース・クルーと呼ばれることになるシーンでまとめ上げた。ポジティヴで健全なストレートエッジとして、新しいライフスタイルを提示した。

SLAPSHOT : BACK ON THE MAP…メタル化したボストン・ハードコアに、もう一度昔のストレートエッジ・ハードコアの活気を取り戻すため、元NEGATIVE FX(ネガティヴFX)のメンバーによって結成されたSLAPSHOT(スラップショット)。

BOLD : JOIN THE FIGHT…JOGCORE(運動部コア)といわれたBOLD(ボールド)。友情、団結をテーマに、弱い自分をみつめ、勇気を振り絞り行動していくスタイルを提示。

YOUTH CREW STYLE : MORE THAN FASHION…ユース・クルーのファッションについて。

ORANGE COUNTY : WE’LL MAKE THE DIFFRENCE…オレンジカウンティ周辺の、ドギースタイルと呼ばれたストレートエッジのバンドたち。INSTEAD(インステッド)を筆頭に、ベジタリアンだったRAGE AGAINST THE MACHINE (レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)のZack de la Rocha (ザック・デ・ロチャ)が在籍していたバンドINSIDEOUT(インサイド・アウト)。なかでもCHAIN OF STRENGTH(チェイン・オブ・ストレングス)は、カリスマ性に富み、ストレートエッジ・アンセムのひとつとして数えられている“Ture Till Death(死ぬまで事実)”という曲を発表。

JUDGE : FED UP!…ドラッグによって崩壊した家庭に育ったJUDGE(ジャッジ)。心からドラッグを憎み、闘争的なアティテュードを持っていた。ポジティヴで健全だったストレートエッジ・シーンを暴力化し、全体主義化していった。

VEGETARIANISM : NO MORE…ユース・オブ・トゥディのRay Cappo (レイ・キャポ)がクリシュリナ教に改宗したことや、イアン・マッケイがベジタリアンであったこともあって、ストレート・エッジに菜食主義的な考えが加わった。ベジタリアンに辟易してストレート・エッジを辞めていく人もいた。

NO ONE CAN BE THAT DUMB : THE U.K.&EUROPE…オランダ出身でヨーロッパ初のストレート・エッジ・バンド、Larmについて。

HARDLINE : THE WAY IT IS…HARDLINE(ハードライン)というコミュニティーを作り、ストレートエッジをヴィーガン・ストレート・エッジにストイックに推し進めたVEGAN REICH(ヴィーガン・リッチ)とRAID(レイド)。

DESPERATE STATE : UMEA STRAIGHT EDGE…REFUSED(リフューズド)を中心としたスウェーデンのストレート・エッジ・シーン。

EARTH CRISIS : A FIRESTORM TO PURIFY…ヴィーガン・ストレートエッジ思想を全世界に普及させたEARTH CRISIS(アースクライシス)。メタルエッジのサウンドに、ヴィーガン・ストレートエッジ思想を載せたサウンドは画期的だった。アニマルライツ(動物権利)の歌詞と、コンピレーションの売り上げをシーシェパードなどに支援するなど、具体的に行動に出るバンドでも有名だった。

SALT LAKE CITY:IDENTITY CRISIS…97年にユタ州ソルトレークシティーでストレート・エッジを名乗る集団が酒屋やドラッグストアなどを襲撃した事件。日本で例えるならチーマーのような暴力行為を行う存在として、ストレートエッジがアメリカ全土に認識された。

YOUTH CREW REVIVAL : DO YOU REMEMBER HARDCORE ? …IN MY EYES(イン・マイ・アイズ)やBANE(ベイン)、TEN YARD FIGHT(テン・ヤード・ファイト)などのボストンのバンドたちによるユースクルー・リバイバル。80年代のユースクルー・サウンドをベースに90年代風にブラッシュアップさせたサウンドを提示。

EAST COAST 2000 : THE UNBREAKABLE… THE FIRST STEP(ザ・ファースト・ステップ)やDOWN TO NOTHING(ダウン・トゥ・ナッシング)、HAVE HEART(ハヴ・ハード)など、新世代のバンドたちによるユース・クルー・リバイバル。前者とは違い、メロディックな要素を加え、家族のきずなや友情を歌った健やかで健全なストレートエッジ。メジャーリーガーのピッチャーであるChristopher John Wilson(CJウィルソン)が、ストレートエッジであることを表明。プロレスラーのCMパンクもストレートエッジ・ソサエティーを作った。アンダーグランドなものであったストレートエッジが、一躍メインストリーム化した。

THE VALUE’S HERE : ASIA AND THE WORLD’S EDGE…日本と韓国のストレートエッジ・バンドについて。

BACK TO DC : BUILDING TOMORROW…約30年ぶりにワシントンDCで誕生したストレートエッジ・バンド、MINDSET(マインドセット)について。D.I.Yでベジタリアン。自分たちでツアーをブッキングし、Tシャツを作り、フェアトレードを無視し、庶民から搾取する大企業の靴は履かないという姿勢を貫いている。

と、以上のようにストレート・エッジ史の重大な出来事は、ほとんどすべて網羅している。イアン・マッケイの何気ない一言で始まったストレートエッジも、ベジタリアンから、アニマルライツ、天然由来の穀物しか食べないヴィーガンまでと、30年という時間を経るなかで、時には過激に、拡大解釈が進んだ。とくにソルトレークシティーでの事件は、正しいと信じて行動したものが、社会的な悪へと転換する格好の事例だったし、シーシェパードのような拳銃で発砲し船を沈没させる行為は、もはやテロとかわらないだろう。何にしても行き過ぎはよくないのだ。

いままで個人的にストレートエッジを遵守するひとは、長生きをするための健康志向なのか、それとも不良のすることを嫌う真面目な人間という捉えかたをしていた。だがこの本で酒やドラッグのせいで家族が崩壊し、心の底から酒とドラッグを憎んでいるストレート・エッジバンドもいる事実を知り、あらためて日本とは違うアメリカ社会の闇を考えさせられた。ユースクルーという一過性のムーブメントが過ぎ去り、ストレートエッジを辞めていくバンドが意外にも多いことや、酒やクスリまで手を出すニセ・エッジ・バンドもいることにびっくりさせられた。定義がはっきりしている思想だけに、その考えを10年、20年のその遵守するのは困難だといえるだろう。それほど人は弱い生き物なのだ。

個人的にこの本で一番面白かった部分は、日本であまり知られていないバンドでも、それぞれに異なるバックボーンや物語を持っているということ。その背景やバンドでなにを伝えたいのか、どんなサウンドを表現したいのかなどの細かいディティールを知ることによって、いままでとは違った音楽のように聴こえる。そのへんが○○に影響を受けてバンドを始め、二番煎じ、フォロアー的な意味合いが多かったメロディック・パンクやエモなどのシーンとの違いなのだ。

ストレート・エッジとは精神性を主とする考えなので、サウンド的な特徴が捉えづらいシーンでもある。だが映画『ザ・コープ』やシーシェパード、ベジタリアンなど、日本人に対して間接的ではあるが、広く知られている思想も珍しいといえるだろう。個人的にはEbullition Records(エボリューション・レコーズ)について、もっと紹介して欲しかったことが不満だが、ストレートエッジのいろいろな部分が知れ、個人的に楽しめた。ものすごく価値のある本なのだ。

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