プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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A

2017/11/17

Anti Flag(アンタイ・フラッグ)  『American Fall (アメリカン・フォール)』

AMERICAN FALL [CD]AMERICAN FALL [CD]
ANTI-FLAG

SPINEFARM RECORDS 2017-11-02
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まぎれもなく彼らが現在のポリティカル・パンク・ハードコアの代表だろう。ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のパンクバンドの新作は、初期のころから一貫してポリティカルな姿勢を貫き、反戦運動、反帝国主義、階級闘争、人権擁護など、労働者階級の立場に立ち、強者を優遇する政権批判をする活動を続けてきた。とくに02年発表の『Mobilize(モビライズ)』では、911の報復戦争をするブッシュ政権をやり玉に挙げ、戦争や死亡者を出さない平和的な解決を主張していた。争いごとの根源である宗教問題や人種差別、貧富の差という垣根を超え、団結を目指す。そんな理念を訴えてきたバンドなのだ。

いままで彼らは、メジャーでのリリースやEP、コンピレーション・アルバムなどを含め、過去に39もの作品を発表している。だが全作品を通してポリティカルな姿勢が貫かれている。彼らのサウンドは、典型的なメロディック・パンクだ。だが細部ではいろいろなものを取り入れている。ポップでメロディックな曲から、熱くヘヴィーでタイトなハードコアな曲など、感情のふり幅も広く、パンクだけに限っては、狭く深くいろいろなものを取り入れている。今作でもランシドのようなご機嫌なスカナンバーなど、新しいタイプの曲がある。だが持ち前のポップでさわやかなメロディック・パンク・サウンドは健在だし、メロディーフレーズを強調した部分は変わっていない。

オリジナルアルバムとしては10作目となる今作では、トランプ大統領を生んだ保守的で自己中心的なアメリカ国民への批判と、トランプが掲げる人種差別や偏見への抗議、新自由主義が生んだ貧富の格差への非難など、アメリカの社会問題がテーマになっている。だがそのわりには、シリアスさや怒りといった感情は感じられない。総じてポップでさわやかだ。その理由は、おそらく怒りよりも、虐げられた者が団結して悪い状況を変えていこうとする集団の力を重視しているからではないか。聴いて鼓舞される感情は、団結心を喚起し、体制に立ち向かっていくような勇気。あくまでも一人での戦いでなく集団での戦いなのだ。アメリカにはトランプに代表される自己中心的な集団もあれば、オバマ前大統領のように世界平和や環境保全、人種平等など世界秩序を理想とする集団も同じ数だけいる。光と影のような両面性がある。それがアメリカという国の特徴なのだ。だから反対側が劣勢に立たされている現在、なんとか盛り上げ数を増やしていく必要があるのだ。そういう意図があって、人々が親しみやすいようにポップに作られている印象を感じる。月並みな表現になってしまうが、アメリカでも表現の弾圧や規制が始まった昨今、彼らはブレることなく一貫して信念を貫いている。その姿勢には頭が下がる思いだ。ものすごく価値のある作品なのだ。

2017/08/17

Armstrongs (アームストロングス)       『 If There Was Ever a Time(イフ・ゼア・ワズ・エヴァー・ア・タイム)』

GREEN DAY(グリーン・デイ)のボーカル、Billie Joe Armstrong (ビリー・ジョー・アームストロング)と、RANCID(ランシド)のボーカル、Tim Armstrong (ティム・アームストロング)によって結成されたバンドのデビューシングル。このシングルが発表された経緯は、アメリカ西海岸のイースト・ベイ・パンクシーンのドキュメンタリー映画『Turn It Around: The Story of East Bay Punk』が上映されることがきっかけ作曲された。映画用に作られた曲を、iTunes限定で発売された。売り上げはすべてカリフォルニア州バークレーのイースト・ベイエリアにあるライヴハウスVenue、924 Gilmanに100%寄付されるそうだ。

そもそもこの2人の出会いは、87年までにさかのぼる。同じカルフォルニア州のイーストベイ出身で、当時ビリージョーはSweet Children(スウィート・チルドレン)というバンドで活躍し、ティムはOperation Ivy(オぺレーション・アイヴィ)で活動していた。お互いに貧しい地区の出身で、前身のバンド時代からの友人関係だという。先にブレイクを果たしたビリージョーが、ティムに売れてほしいと願い、93年に“Radio Radio Radio”を提供。のちにランシドの名曲と呼ばれ、現在でもライヴの終盤に必ず演奏されている。かたやグリーンディのほうは、初期のころから現在にいたるまでオぺレーション・アイヴィのカヴァーである“Knowledge”を必ずライヴで歌い続けている。そこにはお互いのバンドがどれだけ大きくなろうが、変わることのない絆の深さある。お互いの挫折と復活、成功など、苦楽をともにしてきた仲間だからこその結束の強い友人関係があるのだ。

そして結成されたバンド名は、ティムとビリージョーのラストネイムであるアームストロングが採られ「The Armstrongs(ザ・アームストロング)」と名付けられた。メンバーは、ビリージョーとティムのほかに、ビリー・ジョーの息子ジョーイと、ティムの甥っ子レイ・アームストロングも参加。お互いの親族のみで結成。

肝心の曲だが、アコースティックギターのイントロが印象的なカラッと明るい西海岸特有のパンクロック。ランシドの3作目である“...And Out Come The Wolves(アンド・アウト・カム・ジ・ウルヴス)”に収めされている曲に雰囲気が近いさわやかなパンクロック。ティムのしゃがれたボーカルスタイルに合わせた曲が採用されており、ビリージョーは終始わき役に徹している。

ここで歌われている内容は、映画にふさわしく、自分が生まれ育ったシーンについての楽しかった思い出。もう一度昔に戻ることができるのなら、また過去と同じステージに立ち歌いたいという、痛切な郷愁願望。いささかノスタルジーに浸っている傾向にあるが、けっして後ろ向きな感情ではない。そこにはイーストベイ・シーンへの深い愛情がある。バンドを始めたことによって出会えた同じ気持ちの仲間たち。そしてその仲間たちと巡り会えたことによって生まれた深い絆と、ルーツであるイーストベイ・シーンへの誇り。そのプライドを胸にバンドを続けていく前向きな感情。そして息子たち次世代へと受け継がれていく。その未来へと受け継がれていく希望が、すがすがしいまでのさわやかさとカラッとした心地よい風のような気持ちであふれているのだ。変わらぬ友情が放つ愛情のあふれた1曲なのだ。

2017/03/22

xxx ALL AGES xxx The Boston Hardcore Film (オール・エイジズ―ボストン・ハードコア・フィルム)

xxx ALL AGES xxx The Boston Hardcore Film
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Gallery East Productions
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2012年に発売されたボストン・ハードコア・シーンを記録したドキュメンタリーDVD。ボストン・ハードコアの第一期と言われる81年から84年までの4年間に起こった出来事を収録した内容で、社会的背景と、コニュニティーに関わった当事者たちのインタビューを交えながら、シーンを紹介している。この作品もまた、07年に上映されたドキュメンタリー映画、『アメリカン・ハードコア』で紹介しきれなかったボストン・ハードコアの深い内容を取り上げている。

個人的に印象に残ったのは、観戦した人が怪我をする生傷のたえない暴力的なライヴと、ノードラッグ、ノースモーキング、ノードランクを掲げたストレートエッヂ、そしてスケートボードとハードコアのリンク、ボストンのバンドはカルフォルニアのバンドからの影響を受けていないと宣言した4つの出来事だ。

同じボストンのシーンでもドラッグやアルコールと深く結びついていたギャング・グリーンやジェリーキッズといったバンドは、このDVDではあまり語られていない。あくまでもSS Decontrol(ソサエティー・システム・デコントロール)を中心に、DYS(青年奉仕局)やNegative FX(ネガティヴFX)などのストレート・エッヂ・バンドと、暴力が深く結びついた理由について語られている。

ボストン・ハードコアが暴力的になった理由は、当時のボストン・パンク・シーンにドラッグが蔓延していたからだ。薬漬けのバンドたちを排除するため、ストレート・エッヂ思想を掲げたボストン・ハードコアが生まれたのだという。そして薬漬けのパンク・バンドたちには、ストレート・エッヂを掲げる屈強なハードコア・バンドたちが暴力をふるい、ライヴハウスから追い出した。83年にはFU‘Sが『マイ・アメリカ』という愛国心あふれる内容のアルバムを発表し、マキシマム・ロックンロール誌からファシストとして非難される出来事もあった。

ボストン・ハードコア・シーンは、ほかの地域と比べると、極端なほど閉鎖的だったという。飲酒者に暴力をふるうことによってストレート・エッヂ思想を無理やり押し付ける。しかもファシズムと右翼的なバンドが多いイメージがあり、ほかバンドたちから、敬遠されていた。(ネガティヴFXを否定したバンド名を付けたNOFXや、ストレート・エッヂの創始者であるイアン・マッケイもボストンのシーンを嫌っていた話が有名だ)

当時のボストンのバンドたちは、経験の浅い人たちが演奏し、下手糞ながらも、勢いや衝動を重視したライヴを展開していた。尋常でないエナジーと熱量がボストンの魅力であったのだ。それが84年頃になると、どのバンドも経験を積み、演奏力を身に着けていった。ハードコアのハード・ロック化が、最先端と捉えられる風潮があり、みんながみんな競うようにAD/DCのようなハードロック・スタイルに傾倒していった。

当時のアメリカ全体のハードコアシーンには、メタルとハードコアとの境界線がはっきりと存在し、クロスオーバーなどという概念はなかった。そのラインを超えたバンドたちは、カッコ悪い存在というレッテルを張られ、売れるためにセルアウトしたのだと、裏切り者扱いされるようになった。とくにボストンでは他者を受け入れない閉鎖的なシーンであったため、ほかのシーンの動向が、いまいちよく把握的ない環境にあった。その環境が災いした。閉鎖性が生んだガラパゴス的な進化が、シーンの終焉へと向かわせた。そしてここでDVDは終わる。

このDVDを観たぼくの正直な感想をいえば、ボストンのシーンに共感することができなかった。その理由は観客が暴れ狂うライヴと、ストレートエッヂと暴力が結びついた排他的な環境に、少なからず違和感を覚えたから。だがボストンハードコアを取り巻く熱気のすごさには感心させられた。ほかのシーンでは見たことのない尋常でない熱量だったからだ。

いま過去の録音物からボストン・ハードコア・バンドたちの作品を聴いていると、カッコいいサウンドであふれている。そこには駄作がひとつもない。どのバンドにもカルフォルニア・バンドのような後ろ向きな退廃性はみじんも感じられない。どんな障害物が前方に立ちはだかろうが、高速でグイグイ直進していく、ブルドーザーのような熱気とパワーにあふれている。これほど聞いて熱くなるバンドたちもそうない。シーンやバンドたちの思想性には全く共感できないが、これほどサウンド的に優れたバンドたちが集まったシーンもそうはない。なんとも不思議なシーンだ。

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2016/11/14

ABNEGATION (アベネゲーション) 『Verses Of The Bleeding(ヴァーサス・オブ・ザ・ブリーディング)』

Verses Of The Bleeding by Abnegation (2011-11-01) 【並行輸入品】Verses Of The Bleeding by Abnegation (2011-11-01) 【並行輸入品】
Abnegation

Good Life Recordings 2011-11-01
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ペンシルバニア州出身のヴィーガン思想を掲げるストレート・エッヂ・バンドの、97年に発表された最初にして最後となる1枚目のフルアルバム。93年ごろから活動を始め、過去にデモとEP、スプリットを合わせた作品を、4年間の間に計6枚発表している。

彼らの活動といえば、95年に動物愛護運動家でシーシェパードの活動にも参加しているRod Coronado(ロッド・コロナド)の活動資金提供のために制作された、アースクライシスも参加したことで知られているコンピレーションアルバム『Stones To Mark A Fire (ストーンズ・トゥ・マーク・ア・ファイヤ)』に参加したことで有名だ。

改めのこの作品を聴いてみると、サウンドはニュースクール・ハードコアというより、パワーヴァイオレンスや、デスメタルに近い。しかも音質がペラペラで音に迫力がない。オリジナルティーもあまり感じられない。

歌詞は反キリストや悪魔崇拝や絶望に満ちた内容が多い。ヴィーガンやストレートエッヂ・バンドにある外の世界に向かっての闘争的な内容や怒りの内容は、この作品にはない。イギリスのメタルバンド、ヴェノムのカヴァー曲も収録されているし、実際にはヴィーガン思想よりも悪魔崇拝のほうが上回っているのだ。

おそらく彼らが強い信念を持ったストレートエッヂ・ハードコア・バンドとして認知されてしまった理由は、『ストーンズ・トゥ・マーク・ア・ファイヤ』に参加したからだろう。このコンピレーションの販売目的自体がラディカルな理由だったので、強烈なヴィーガン思想をもったバンドたちしか参加できないと、捉えられてしまったのだろう。

あくまでも僕の想像だが、彼らが『ストーンズ・トゥ・マーク・ア・ファイヤ』に参加した理由は、自身がストレートエッヂではなく、社会に対する憎悪、とりわけ人が嫌がる、反社会的な行動をとりたかったからではないか。彼らアルバムからは不快なものへのフェティシズムを感じることができる。彼らは屈折しているのだ。

個人的には穿った見方をしてしまったが、ストレート・エッヂ・バンドの作品のなかでは、100選に選ばれるほど、重要な作品なのだ。

2016/10/20

A Day To Remember(ア・デイ・トゥ・リメンバー)  『Bad Vibrations(バッド・バイブレーション)』

バッド・バイブレーションバッド・バイブレーション
ア・デイ・トゥ・リメンバー

ワーナーミュージック・ジャパン 2016-09-01
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16年発表の6作目。彼らについて散々書いてきた。くどいようだがもう一度説明しておく。彼らの個性とは、メタルコアのポップ・パンク化にある。05年当時、メタルコアをポップ化するというアイデアのバンドは、誰もいなかった。激しくヘヴィーで不快なデスメタルに、感情のひだを震わせるメロディックな要素を加えることによって、スカッと爽快に、憎悪から発散に変化させ、彼らならではの個性を確立することに成功した。それが『ホームシック』いうアルバムが50万枚売れた理由なのだ。

6作目となる今作だが、カラッと明るいサウンドだった前作と比べると、ダークで内省的な仕上がっている。エモっぽい曲など、新しいことにチャレンジしている曲もあるが、総じていうなら前々作、『ホームシック』の世界観を、さらに掘り下げた作品といえるだろう。彼らの作品のテーマの一つといえる疎外感や内省、心の闇を描いたアルバムジャケットも復活している。

アメリカでは『ホームシック』以来の快作と評価されている。その理由は暗く陰りのあるメロディーが復活したらだ。その憂いと切なさを含んだロディーからは、湖畔で黄昏ているような美しさがある。そしてメタルコアナンバーのデス声ボーカルからは、内面の憤りの叫びのように感じる。すべてが外向けの発散ではなく、シリアスで内向きなのだ。まるで人間の陰の部分にスポットを当てているかのようだ。ひさびさに彼ららしさが戻ってきた作品だ。


2014/12/30

Against Me! (アゲインスト・ミー!)   『Transgender Dysphoria Blues (トランスジェンダー・ディスフォリア・ブルース)』


Transgender Dysphoria BluesTransgender Dysphoria Blues
Against Me!

Total Treble Music 2014-01-20
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 14年発表の6作目。この作品が発表されたとき、ぼくは大いに戸惑った。正直、いまでもどう受け止めればいいのか分からない。それほどのぼくを混乱に陥れた作品なのだ。

 ボーカルにしてフロントマンであるトム・ガベルが、トランスジェンダー(自分の性別に違和感のある人-―ゲイとは違い女性と結婚もしているし子供もいる)であることを告白したのが2012年。そして自らの名前をローラ・ジェーン・グレースに改名。今後はホルモン注射を受け、生きていくことを発表した。

 そんなプロセスを経て発表された今作は、『トランスジェンダー・身体的違和感・ブルース』というタイトルが示すとおり、トランスジェンダー/セクシャルマイノリティをテーマに歌われている。 サウンド的には、前作同様メロディーとリズム&ブルースに重点を置いたメロディック・パンク・サウンドを展開している。とくに進化をしている部分を上げるのなら、エモのようなキラキラメロディーを取り入れてたところか。前作よりもメロディーは美しくなっている箇所もあるが、とくに女性っぽく軟弱になった変化は見られない。総じて前作のように男っぽいサウンドを展開している。英語の分からない日本人からすれば、見た目や歌詞、アティテュードの変化を知らなければ、彼らが大幅に変わったことが理解できないだろう。それほどサウンド的には変わっていないのだ。

 だがやはり歌詞は考えさせられるものがある。“トランスジェンダー・ディスフォリア・ブルース”では、<あなたが可愛い女の子を見るような眼差しで私を見てほしい。でもゲイである私にはそれはかなわない夢。そしてあなたと二人で、私が幼いころから楽しんできたサーフィンをしながら、一日を過ごしたい。>そこには男でありながら女心を持ち、ゲイであるゆえに常人には理解されない感情と、結ばれることのない愛について歌っている。そしてトランスジェンダーの真の気持ちを歌った“トゥルー・トランス・ソウル・レベル”。そこでは男で産まれたのなら男であるべきという考えや、母親や妻を裏切ってまで女性になっていいのかという罪悪感や倫理観への葛藤に悶え苦しみながらも、トランスジェンダーになることを決断した内容が書かれている。自身が抱える深刻な問題に逃げず正面から立ち向かっているのだ。

 もしバンドで生活していくことを第一義に考えるのなら、トランスジェンダーであることを隠して活動を続けていくほうが、人気も落ちないし、最良の選択だろう。だがそれを許さなかったのは、バンド活動を始めたきっかけになったのイギリスのアナーコ・パンク・バンド、クラスの多大な影響にあるからだろう。クラスの反社会的でサッチャー政権という巨大な政治機構に立ち向かっていく姿勢や、マイノリティーであるフェミニストを擁護する内容の歌詞に憧れているから、黒いTシャツとGパンという格好のパンク・バンドを始めたのだ。たとえ命が狙われ、少数はゆえに多数派から叩かれても、自分たちの信念を貫くクラスの姿勢に憧れているから、トム・ガベル自身も、人気が落ち、忌み嫌われると判っていてもトランスジェンダーであることを告白をしたのだ。そういった意味では、どんなことがあっても自分の信念を貫ける真のパンク・アティテュードをもったバンドだといえるだろう。

 だがヴィジュアル的に正直、ぼくの心を惹かれるカッコいい存在のロックではない。イカれている、猥雑、歪んでいるといった世間的に悪い意味で使われる言葉がいい意味で使われるロック特有の逆説もここには存在しない。髭の濃さなどの男っぽさを残しながら女装をするトム・ガベルを、常人と同じように気持ちの悪い目で見ている自分が存在する。正直カーボーイの猥雑で荒々しい男くさいサウンドと姿が好きだったので、トランスジェンダーの告白に裏切られた気持ちもどこかある。だがトランスジェンダーであるがゆえにけっして結ばれることのない恋愛感情と、差別への歌詞には胸が詰まるような悲しさと切なさを感じたのも事実だ。この作品で新しい見地を知ったのも事実だ。正直いまだにどのような評価をすれば分からず混乱している。いろいろな意味で考えさせられる作品だ。

2014/12/25

Against Me! (アゲインスト・ミー!)   『Total Clarity (トータル・クラリティー)』


Total ClarityTotal Clarity
Against Me!

Fat Wreck Chords 2011-05-22
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 11年にファットレック・コーズから発表された『サーチング・フォー・ア・フォーマー・クラリティー』のデモ音源。『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』のデモ音源、『オリジナル・カーボーイ』に続き発売された作品だが、よほど彼らのデモ音源には需要があるのか、今回もまたファットレック・コーズから発売された。

 その内容は、『サーチング・フォー・ア・フォーマー・クラリティー』と『トータル・クラリティー』で曲名がかぶる曲は、アレンジの肉付けがされていないデモ音源のまま。計11曲が収録されている。『トータル・クラリティー』のみに収録されている未発表曲は、“エグハースチョン・アンド・ディスガスト”と“ロスト・アンド・サーチング・イン・アメリカ”の2曲。アトランタのロックバンド、ブレインズの“マネー・チェンジズ・エヴリシング”のカバー曲が収録。“サーチング・フォー・ア・フォーマー・クラリティー”が“トータル・クラリティー”と名前を変えアレンジ違いで収録され、計3曲の未発表曲と、アレンジ違いが12曲の計15曲が収録されている。

 これを聴けば、エモ界の名プロデューサーといわれたJ・ロビンスの趣向性が見えてくる。前回のデモ音源集の『オリジナル・カーボーイ』よりも、ギター・アレンジを導入し、隙間なく音を詰めこんでいる。しかも曲をボツにし、新たな曲と入れ替えたり、細部にまで音のこだわりをみせている。今作に限っていえば、そのアレンジのこだわりが、前作と似たような作品という評価を回避し、飛躍的に進歩した作品になっているのだ。名プロデューサーのこだわりが劇的にアルバム全体を良くしているのだ。

 ネイキッドでむき出しの生々しさがあった『オリジナル・カーボーイ』から研磨するように丁寧な仕上がりになった『エターナル・カーボーイ』と比べると、『トータル・クラリティー』からいろいろな音を加えていった『サーチング・フォー・ア・フォーマー・クラリティー』への仕上がりの過程は、全く違っていて面白い。その変化の過程を比べるだけでも価値のある作品だ。

2014/12/20

Against Me! (アゲインスト・ミー!)  『White Crosses (ホワイト・クロス)』

White CrossesWhite Crosses
Against Me!

Total Treble Music 2011-07-25
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 10年に発表された5作目。彼らの持ち味であったカーボイスタイルのメロディック・パンクな要素が薄れ、前作以上にメロディーに重点を置いた作品。ここまでくるとただのメロディック・パンク・バンドになってしまった気もする。だが、叩きつけるような強靭なリズムやアコースティックをベースにしたギターサウンドは健在である。

 よりメロディックに深化した今作は、前作の強靭なリズムとメロディーとコーラスに力を入れた路線を、さらに推し進めた作品といえるだろう。情熱に任せただ前へグイグイ進んでいくような熱気が魅力のボーカルも、いささか熱気が薄れ、丁寧に歌っている印象だ。たとえば“ビコウズ・オブ・ザ・シェイム”では、軽やかで繊細なピアノ音からは、ほんの少しの切なさを加えた優しい思慮深さを感じる。ずきずきする痛みとともにと名付けれれた“エイク・ウィズ・ミー”は、そのタイトルとは真逆の星空を見上げているようなロマンティックなバラード。“ワン・バイ・ワン”では、固い決意を感じさせる希望に満ちあふれた明るいメロディーが魅力。

 メロディーに力を入れたためか、全体的にホップで聴きやすく明るくカラッと爽やか。そして優しくロマンティックになった印象を受ける。本来彼らの魅力は、バーボンが似合う土臭いカーボーイのような男くささにあった。今回それがなくなり残念に感じる部分もある。だがこのポップさもさほど悪い作品というわけではない。ちゃんとスウィートな感情が込められているし、いままでなかった一面をさらけ出したという意味では、また違った魅力を引き出した作品といえるだろう。

 なお11年には、『ホワイト・クロス』に、ボーナストラックを4曲追加したディスク1に加え、『ブラック・クロス』というデモや未発表曲を収録した2枚組みのアルバムにヴァージョンを発表した。そちらのほうが彼らがなぜ、メロディックに深化したか、その過程がよく分かる。おそらく『エターナル・カーボーイ』と同じような作品を作りたくなかったから、今回メロディックに深化したのではないか。

2014/12/10

Against Me ! (アゲインスト・ミー!)  『Original Cowboy (オリジナル・カーボーイ)』


Original CowboyOriginal Cowboy
Against Me

Fat Wreck Chords 2009-07-06
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 09年にファットレック・コーズから発表された『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』のデモ音源。この作品が発売された経緯はよく分からないが、完成系である『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』と、デモ段階である『オリジナル・カーボーイ』では、異なる部分が多々あった。その理由は、アルバムを発表する際に、ファット・マイクの意向で、かなりの部分でサウンドに修正が加えられているからだ。確かにその修正のお陰で、『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』がすばらしい作品に仕上がったことに間違いはない。だが感情がダイレクトに伝わるシンプルな作りで、ネイキッドでむき出しの生々しさがあるこのデモを、異なる魅力のある作品として発表したかった気持ちもどこかにあったのだろう。だから今作の発表にいたったのではないか。

 たとえば“アンサッブスタンチニーデッド・ルモアーズ”の『オリジナル・カーボーイ』版では、コードギターの厚みのある音が中心だが、『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』版では逆にシンプルなアコースティックギターに変更がされている。また“ターン・ゾウズ・クラッピング・ハンズ・イントロ・アングリー・バレッド”の『オリジナル・カーボーイ』版は、いろいろと詰め込みカオスと化した音が、『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』版では整理されしっかりとまとめらている。『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』のほうが全体的に音が軽く、ブラッシュアップを重ねた『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』のほうが完成度はやはり圧倒的に高い。だが『オリジナル・カーボーイ』には、未熟さゆえの熱意や衝動といった魅力がある作品であることに間違いはない。

2014/12/07

Against Me ! (アゲインスト・ミー!)  『New Wave B-side (ニューウェーヴ B-side)』

Against_me__new_wave_bsides_cover

 08年に発表された。シングルのB面を集めたアウトテイク集。ダウンロードのみの販売。メジャーデビュー作となった“ニューウェーヴ”は、シングルカットされた曲が4曲もあった作品だったのだ。まず“ジプシー・パンサー”は、“ストップ”のB面に収録された曲。“ソー・マチ・モア”は、“ニューウェーヴ”のB面。“フル・セッシュ”は“ホワイト・ピープル・フォー・ピース”のB面。“アンタイトルテッド”は、アルバム『ニューウェーヴ』のデラックス・エディションに収録されたボーナストラック。“ユー・マスト・ビー・ウィリング”は“スラッシュ・アンリアル”のB面。計5曲が収録されている。

 5曲ともアルバムに収録されててもおかしくないくらい、クオリティーの高い曲だが、この曲たちが選考からもれた理由は、似たタイプの曲がアルバムに収録されているのと、アルバムの雰囲気とかけ離れた曲のためだろう。たからだろう。たとえば“ジプシー・パンサー”はリズムを重視した曲で“ソー・マチ・モア”と“アンタイトルテッド”メロディック・パンクな曲。“ホワイト・ピープル・フォー・ピース”とタイプがかぶっているから選考から外れたのだろう。

 そしてダブ調“フル・セッシュ”や“ユー・マスト・ビー・ウィリング”のアコースティック・バラードはいままでなかったタイプの曲だが、あまりにもアルバム世界観とはかけ離れているから、選考からもれたのだろう。だがこの2曲に関してはアゲインスト・ミーのなかでいままでなかったタイプの曲だ。ダブ調“フル・セッシュ”は闇夜にきらりと光るナイフのようなとがった曲で、枯れと渋みの効いた切ないバラードの“ユー・マスト・ビー・ウィリング”は、心にしみる名曲だったりする。この2曲のためだけに買うのもいいと思う。それほど価値のあるアウトテイク集だ。

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