プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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B

2018/02/02

Greg Graffin(グレッグ・グラフィン) 『MILLPORT(ミルポート)』

MillportMillport
Greg Graffin

Imports 2017-03-09
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Bad Religion(バッドレリジョン)のボーカリストであるGreg Graffin(グレッグ・グラフィン)が17年に発表した3作目となるソロアルバム。デビュー作の『アメリカンリージョン』はアコースティックギターとピアノを中心に、シンプルな構成で、破局や孤独などパーソナルな内容で大人のほろ苦い感情を歌った作品だった。2作目の『Cold As The Glayコールド・アズ・ザ・クレイ』はカントリーやトラッド・フォークなど、グレッグ自身が幼いころに聴いて育ったアメリカのルーツ・ミュージックに回帰した作品だ。

そして今作も前作同様のメンバーであるBrett Gurewitz(ブレッド・ガーヴィッツ)がプロデュースを担当し、ドラッド・フォークやカントリーなどのアメリカルーツ・ミュージックが中心の作品だ。ただ前作と違う点はグレッグが多感な時期に影響を受けたCrosby Stills Nash & Young(クロスビー・スティルズ ナッシュ&ヤング)のようなフォークロックな曲もある。アコースティックギターギターで、バッド・レリジョンの激しさとは真逆な、穏やかな感情で軽快に歌っている。

悲しみや哀愁や切なさなどが漂って前々作や前作と比べると、今作では雪解けの春を迎えたような穏やかな温かさ牧歌的な明るい曲が多い。どうやら農地の美しい風景にインスピレーションを受け、この作品が作られたようだ。グレッグ自身は、宗教の欺瞞に対する怒りや、破局などの悲しみや心が引き裂かれるような思い、その反対にある人がうらやむ栄光も手にしている。いろいろな経験をしている人物なのだ。人間関係で生じる軋轢や争いにいささか疲れているのかもしれない。一息入れたいそんな思いを農地という長閑さメタファーに置き換え、平穏を感情を歌っているように思えた。だれもが休息を必要としているのだ。そんな思いを感じる作品だ。

2017/10/02

Brun (バーン)  『 Do or Die (ドゥ・オア・ダイ)』

Do Or DieDo Or Die
Burn

Deathwish Inc 2017-09-07
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89年から活動し、ニューヨーク・ニュースクール・ハードコア・シーンを代表するバンドのひとつでもあるBrun(バーン)の初のフルアルバム。28年の活動のなかで、いままで4枚のEPを発表しているが、フルアルバムは初めてである。昨年発表された『From The Ashes(フロム・ザ・アッシュズ)』で、手ごたえと演りたい音楽性が固まったのか、1年という短いスパンで今作は発表されている。

前作『From The Ashes(フロム・ザ・アッシュズ)』は、ピップホップなリズムとボーカルの韻に、Rage Against the Machine(レイジアゲインストザ・マシーン)のような扇情的なギターが、怒りや苛立ちを刻んでいくようなサウンドだった。今作でもそのサウンド路線は踏襲され、さらに突き詰めている。

The Dillinger Escape Plan (デリンジャー・エスケープ・プラン)のような目まぐるしく変わる展開に、HELMET(ヘルメット)のトリッキーで変則的なリズムのギターのリフ、オールドスクールなスピーディーなハードコアに呪術的なコーラスを取り入れた意外性、スローテンポから突如加速していくドラム、エフェクターの歪みを利かせたギターなどの要素を、溶鉱炉にぶち込み、金属質に固く重く鋳造した。怒りをたたきつけるようなヒップホップのリズムと、多彩なギターアレンジのリフが印象的なサウンドだが、そこには不安や苛立ち怒りといった感情が漂っている。まるでニューヨークの路地裏のスラムな想起させる薄汚れた匂いだ。

90年代の忘れ去られた古きよきものを現在によみがえらせブラッシュアップしたサウンドで、ハードコア特有のテンションの高さやストレスを発散させるような爽快感はない。だがグルーヴとニューヨークの危険な匂いと雑多性という空気感を閉じ込めたサウンドで、アティテュードはまぎれもなくハードコアだ。

2017/03/22

xxx ALL AGES xxx The Boston Hardcore Film (オール・エイジズ―ボストン・ハードコア・フィルム)

xxx ALL AGES xxx The Boston Hardcore Film
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Gallery East Productions
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2012年に発売されたボストン・ハードコア・シーンを記録したドキュメンタリーDVD。ボストン・ハードコアの第一期と言われる81年から84年までの4年間に起こった出来事を収録した内容で、社会的背景と、コニュニティーに関わった当事者たちのインタビューを交えながら、シーンを紹介している。この作品もまた、07年に上映されたドキュメンタリー映画、『アメリカン・ハードコア』で紹介しきれなかったボストン・ハードコアの深い内容を取り上げている。

個人的に印象に残ったのは、観戦した人が怪我をする生傷のたえない暴力的なライヴと、ノードラッグ、ノースモーキング、ノードランクを掲げたストレートエッヂ、そしてスケートボードとハードコアのリンク、ボストンのバンドはカルフォルニアのバンドからの影響を受けていないと宣言した4つの出来事だ。

同じボストンのシーンでもドラッグやアルコールと深く結びついていたギャング・グリーンやジェリーキッズといったバンドは、このDVDではあまり語られていない。あくまでもSS Decontrol(ソサエティー・システム・デコントロール)を中心に、DYS(青年奉仕局)やNegative FX(ネガティヴFX)などのストレート・エッヂ・バンドと、暴力が深く結びついた理由について語られている。

ボストン・ハードコアが暴力的になった理由は、当時のボストン・パンク・シーンにドラッグが蔓延していたからだ。薬漬けのバンドたちを排除するため、ストレート・エッヂ思想を掲げたボストン・ハードコアが生まれたのだという。そして薬漬けのパンク・バンドたちには、ストレート・エッヂを掲げる屈強なハードコア・バンドたちが暴力をふるい、ライヴハウスから追い出した。83年にはFU‘Sが『マイ・アメリカ』という愛国心あふれる内容のアルバムを発表し、マキシマム・ロックンロール誌からファシストとして非難される出来事もあった。

ボストン・ハードコア・シーンは、ほかの地域と比べると、極端なほど閉鎖的だったという。飲酒者に暴力をふるうことによってストレート・エッヂ思想を無理やり押し付ける。しかもファシズムと右翼的なバンドが多いイメージがあり、ほかバンドたちから、敬遠されていた。(ネガティヴFXを否定したバンド名を付けたNOFXや、ストレート・エッヂの創始者であるイアン・マッケイもボストンのシーンを嫌っていた話が有名だ)

当時のボストンのバンドたちは、経験の浅い人たちが演奏し、下手糞ながらも、勢いや衝動を重視したライヴを展開していた。尋常でないエナジーと熱量がボストンの魅力であったのだ。それが84年頃になると、どのバンドも経験を積み、演奏力を身に着けていった。ハードコアのハード・ロック化が、最先端と捉えられる風潮があり、みんながみんな競うようにAD/DCのようなハードロック・スタイルに傾倒していった。

当時のアメリカ全体のハードコアシーンには、メタルとハードコアとの境界線がはっきりと存在し、クロスオーバーなどという概念はなかった。そのラインを超えたバンドたちは、カッコ悪い存在というレッテルを張られ、売れるためにセルアウトしたのだと、裏切り者扱いされるようになった。とくにボストンでは他者を受け入れない閉鎖的なシーンであったため、ほかのシーンの動向が、いまいちよく把握的ない環境にあった。その環境が災いした。閉鎖性が生んだガラパゴス的な進化が、シーンの終焉へと向かわせた。そしてここでDVDは終わる。

このDVDを観たぼくの正直な感想をいえば、ボストンのシーンに共感することができなかった。その理由は観客が暴れ狂うライヴと、ストレートエッヂと暴力が結びついた排他的な環境に、少なからず違和感を覚えたから。だがボストンハードコアを取り巻く熱気のすごさには感心させられた。ほかのシーンでは見たことのない尋常でない熱量だったからだ。

いま過去の録音物からボストン・ハードコア・バンドたちの作品を聴いていると、カッコいいサウンドであふれている。そこには駄作がひとつもない。どのバンドにもカルフォルニア・バンドのような後ろ向きな退廃性はみじんも感じられない。どんな障害物が前方に立ちはだかろうが、高速でグイグイ直進していく、ブルドーザーのような熱気とパワーにあふれている。これほど聞いて熱くなるバンドたちもそうない。シーンやバンドたちの思想性には全く共感できないが、これほどサウンド的に優れたバンドたちが集まったシーンもそうはない。なんとも不思議なシーンだ。

                  こちらからも購入可能

2017/02/01

BEYOND (ビヨンド) 『NO LONGER AT EASE (ノー・ロンガー・アット・イーズ )』

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Beyond

Revelation 2016-12-15
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活動期間が88年から89年の、わずか一年間という、ニューヨーク出身のハードコアバンドのデビュー作。昨年発売されたライブアルバム『Dew It/Live Crucial Chaos Wnyu(デュー・イット!-ライブ・クーシャル・ケイオスWNYU)』に引き続き、89年に発売された唯一のオリジナル・アルバムを、今回リマスター使用でヴァイナル盤にてリリース。

彼らはニューヨーク・ハードコア・シーンがちょうどオールドスクールがユースクルーに変わっていく過渡期に現れたバンドで、その後のユースクール・シーンに与えた影響は大きい。彼ここで収録されている曲は、97年にCDで発売された"NO LONGER AT EASE"に収録されている曲と変わらない内容。14年に発売された『Dew It/Live Crucial Chaos Wnyu』は、ライヴの臨場感が伝わってくる、荒々しい演奏の勢いを重視した迫力ある作品だった。その作品に比べると、勢いと迫力や荒々しさは足りない。その理由は正確な演奏を重視しているからだ。そもそもこのバンドは、勢いや衝動よりも、ギターサウンドを中心とした演奏力を重視していた。だから周りからは“メタル・ティンジド・ハードコア(薄くメタルに染まったハードコア)と呼ばれていた。つまり小刻みに刻むギターのリフや、感情の高ぶりのようにうねるギターフレーズなどテクニカルな要素を取り入れ、しっかりとした演奏力や技術力を求めていたバンドなのだ。

あらためてじっくりと聴いてみると、当時のニューヨーク・ハードコア・シーンでは、彼らのサウンドが独特だったことが理解できる。たとえば“Ancient Head(アンシェント・ヘッド)”ではうねるグルーヴのギターフレーズを導入し、“Time Stand Still(タイム・スタンド・スティル)”では高速スピードだけでなく緩急をつけたサウンドを展開している。“What Awaits Us(ワット・アウェイツ・アス)”ではじっくりとギターメロディーを聴かせる曲だ。一辺倒で太い荒々しさだけではない、技術的な意味でバラエティーに富んだサウンドを展開しているのだ。NewYork Hardcore(ニューヨークハードコア)にここまでギターサウンドを持ち込んだのは、彼らが初めてではないか。Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)やYouth Of Today(ユース・オブ・トゥディ)は、緩急を使ったサウンドを展開している。それほどシーンに与えた影響が大きいアルバムなのだ。ニューヨーク・ハードコアの歴史を知る上では外せない一枚だ。

2016/10/31

BURN(バーン) 『​From the Ashes (フロム・ザ・アッシュズ)』

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 89年から活動を続けるニューヨーク・ハードコア・バンドの、じつに14年ぶりとなる4作目のEP。

 今作を含め過去4作は、4曲入りのEPが3枚、6曲入りのアルバムが1枚と、活動期間のわりには持ち歌の数が極端に少ないバンドだが、それだけ曲にこだわりをもっている。気に入らない箇所は修正され手直しを加え、試行錯誤を繰り返しながら、選ばれた曲たちなのだ。まるで日本酒の大吟醸の米のように、極限まで研ぎ澄まされ、吟味されている。だからハードコア・バンドにありがちな、どれも同じ曲に聞こえるような駄作と呼ばれる曲はそこには1曲も存在しない。

 彼らのいままでの作品の変遷を説明すると、ゴリラビツケッツやシック・オブ・イット・オールなどのユース・クルー・シーンを集約したサウンドを展開したデビューEP。スピードよりもスローテンポのグルーヴを重視した曲に、ファンクやヒップ・ホップ、オレンジ9㎜やレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの要素を加えた、同時の最先端をいったニュースクール・ハードコア。そして今作では、また違った別のアプローチを展開している。

 そのサウンドは次世代のハードコアと呼べるオリジナルなハードコア。1曲目の“Novelist”はまるでミクスチャーロックのように複雑に入り組んだ展開のテクニカルなギターが魅力な曲。2曲目の“You Can’t Stop Me”は2ビートでハイテンポのオールドスクールなハードコア。3曲目の“We Don’t Stand A Chance”はジーザス・リザードから発展したポストコアにサイケデリックなギターを合わせた展開。

 歌声はボーカルそのものが代わったのかと思わせるぐらい甲高く危機感を煽るような声に変化し、それぞれにジャンルが異なる方向性の曲で、過去の面影を感じないくらい変化をしている。だがどの曲もハードコアのスピリッツにあふれている。なにより全作品で共通する、薄汚れた路地裏の地下道で、銃口を向けたギャングたちに絡まれるような、危なさを感じる緊迫したニューヨーク・ハードコアの独特な雰囲気は失われていない。今作も3曲と少ないがそれぞれに魅力の詰まった作品だ。

2016/02/10

Beyond(ビヨンド) 『Dew It/Live Crucial Chaos Wnyu(デュー・イット!-ライブ・クーシャル・ケイオスWNYU )』

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Beyond

Revelation 2015-10-01
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 ニューヨーク・ハードコア界では知る人ぞ知るまぼろしな存在であったビヨンド。88年から89年にかけてわずか1年間しか活動しなかったバンドで、ユースクルー・シーンの先駆者にあたる。のちにメンバーは、BOLD、インサイド・アウト、クイックサンド、BURN、シェルター、108などといった、名だたるニューヨーク・ハードコアバンドで活躍したことでも知られている。

 28年の月日を経て発表された今作は、ヴァイナル盤のみの発表で、88年にリリースされたデモ・テープ『Dew it』から8曲と、アメリカのラジオ局WNYUでの、ハードコアパンクラジオショウ"Crucial chaos"でのラジオライヴセッション14曲を加えた、計21曲がアルバムに収録されている。そこに20ページのブックレットを添付した内容。1年という短命な活動のバンドであったが、活動のすべてが今作に網羅されている。

 今作だが、初期衝動という気迫と熱意に満ち、演奏力よりも勢いだけで突き抜ける荒々しい演奏だ。肝心のサウンドだが、ハードコアの黎明期に活動したバンドだけあって、ゴリゴリのハードコア、という音ではない。要所要所に初期パンクっぽいメロディーパートを導入した、ハードコアの原型といえるサウンドだ。

 スローテンポじっくり聞かせるボーカルが、いきなりなだれが襲ってきたかのように変化するノイズギターの洪水とばたばたと躁病的に叩くドラムが特徴の曲や、わずか46秒で終わるファストな曲、あとにユースクルーシーンの特徴となったストップ&ゴーの変則的なリズムや、クリシュリナ教を取り入れた高音ギターのギターメロディーといったサウンドスタイルは、このバンドが先駆けといえるだろう。

 性急なスピードと2,3コードという大まかなパンク・ハードコアのサウンド・スタイルこそ遵守しているが、ハードコアというサウンドが確立される前の、いろんなことにチェレンジした実験的なサウンドでもあるのだ。その後メンバーたちがシャルターやクイックサンドといったバンドで活躍し、ここで演ったサウンドをブラッシュ・アップさせ、自分たちのバンドの個性を確立し、ユースクルー・シーンの代名詞といえるサウンドを確立した。ここにはまさにユースクールの原型があるのだ。ニューヨーク・ハードコアのユースクルーの歴史を知るうえでは重要な作品だ。

2015/08/01

Bikini Kill (ビキニ・キル)  『The First Two Records (ザ・ファースト・トゥー・レコーズ)』


The First Two RecordsThe First Two Records
Bikini Kill

Bikini Kill Records 2015-06-29
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 90年代を代表するライオット・ガールと呼ばれたフェミニスト運動のシーンの中心バンドであった、ビキニ・キルの94年にLPで発売された初期2枚のEP(S/T EP, Yeah Yeah Yeah)をカップリングし、2015年に再発された編集盤。

 具体的な内容を説明すると、1から6曲目までが、91年に発売されたセルフタイトルEPで、1から4曲目までは91年7月にフガジのイアン・マッケイによって録音された曲だ。5曲目は91年に制作されたデモで、6曲目は91年の4月4日にワシントンDCのサンクチュアリ劇場で演奏されたライヴを収録している。そして7から20曲目は93年に発表されたLP『Yeah Yeah Yeah』を収録。その内容はワシントンDCのセント・ステファンズで行われたライヴを収録している。

 7から13までは93年に発売されたLP盤からで、91年の12月27日にワシントンDCのセント・ステファンズで行われたライヴを収録。13から20は2014年に25周年を記念して発売された拡張版に収められていた曲で、うち4曲はワシントンDCの地下練習スペースで記録された曲で、そのほかの3曲はライヴ音源を収録している。

 あらためて聴いていると、彼女たちのサウンドとは、ラモーンズ直系のシンプルなパンク・ロック。録音状態が悪いせいか、そんなに荒々しさや迫力を感じない音作りだ。ジョーン・ジェットのようなはち切れんばかりの男勝りなロックや、パティー・スミスのスローテンポから急激にピッチが上がり、冷静なインテリジェンスから激昂に変わっていくような前衛的で文学性を前面に出したロック・サウンドと比べると、主だった個性がないのも特徴だ。

 強いて個性を挙げるのなら、ヒステリックで甲高い金切り声のボーカルくらいか。あとはいたって普通のパンク・ロックだ。だがこの普通という感覚が彼女たちにとっては重要な要素となる。なにせ彼女たちが求めていたことは、男性からすればいたって普通な権利だからだ。彼女たちが一貫して歌い主張してきたのは、女性の権利。女性であることによって会社での出世が絶たれたり、同じ学歴で同じ能力の男性より下の職業しかつけないアメリカ社会への不満。女性大統領が存在しない政治への不信。性差別をなくし男性優位社会へピリオドを打つ。ただ世の中に男女が平等であるべきことだけを求めていたのだ。だから彼女たちはいたって普通な女性であることを強調してきたため、ロックバンドという局面から見れば、そんなに注目されるほど際立った個性のある存在に映らなかった。ごく普通の女性らしい格好と、特徴のないシンプルなパンク・ロックという二つの要素が彼女たちの評価を希薄なものにしてしまったのだろう。それがライオット・ガールというシーンをメディアがあまり取り上げてくれなかった理由ではないか。

 だがライオット・ガールというシーンと彼女たちのフェミニスト思想を全面に掲げたパンク・ロックは、マイナー・スレットのストレート・エッヂや、バッド・ブレインズのポジティヴ・メンタル・アティテュードに匹敵するパンク思想であることは間違いない。思想の面を評価すれば、隠れた名盤なのだ。

2014/10/07

アナーキー進化論   『グレッグ・グラフィン、スティーブ・オルソン』

370

アナーキー進化論アナーキー進化論
グレッグ グラフィン スティーヴ オルソン Greg Graffin

柏書房 2014-07
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 バッド・レリジョンのボーカルにして生物学の博士号でUCLA大学で生物学の講師を務めるのグレッグ・グラフィンと、サイエンスライターのスティーブ・オルソンによる共著。その内容は、バッド・レリジョンの結成から転換期などの印象に残ったエピソードと、グレッグが宗教を否定する理由、自身が研究する進化論について語られている。

 率直な感想をいえば、グレッグ・グラフィンという人物も相当変わっている。いままでバッド・レリジョンというバンドは、2ビートの性急なスピードのハードコアに、メロディックな要素を取り入れ、メロディック・ハードコアというサウンド・スタイルを確立した。ハードコアというジャンルのなかで、それがバッド・レリジョンの確立した個性であり、その一点のみが評価されているのだと思っていた。しかしこの本を読むと、パンクの主義や思想という部分でも、バッド・ブレインズやマイナースレット、クラス、コンフリクトなどに匹敵する個性を、バッド・レリジョンは有したバンドだということが理解できた。

 バッド・レリジョンのパンク・ハードコア思想とは、あらゆる権威を否定すること。バンド名(悪い宗教)が示すとおり、とくにキリスト教の権威に歯向かうことに主眼を置いているようだ。聖書にある神が人間を創造したという話には、ダーウィンの進化論という見地から、そこに根拠がないということで論理的に否定している。アメリカでは日本と違って人間は神によって作られたという話本気で信じている人間が多いようだ――その人たちが共和党政権を支えている。宗教を本気で信じている人たちに、偏狭的な考え方を捨て、もっと広い世界の視野と、知識の扉を開いて欲しいと思い、バンド活動を続けているそうだ。パンク権威に立ち向かっていく姿勢と生物学、反宗教的の3つの要素が合わさったのが、バッド・レリジョンならではのパンク思想なのだ。この本を読んで、歌詞だけでは伝え切れていない、グレッグの奥深い考えを改めて知ることができた。

 個人的にこの本でとくに面白かったのは、バッド・レリジョンが最も売れたアルバム『ストレンジャー・ザン・フィクション』のときのエピソードだ。このアルバムはメジャーデビュー作で、バッド・レリジョンのなかでもっとも、商業的に成功したアルバムだ。この時期バッド・レリジョンは、全世界にそのなか知れ渡るほど知名度を得ていた。いうなら人気の絶頂にあったのだ。この時期グレッグ・グラフィンは、人生のターニングポイントで、大きな決断をしたという。それは大学での研究を辞め、バンド活動に専念すること。バンドという浮き沈みが激しいリスキーな生活に、人生を賭けたのだ。そんな矢先に起きた2つの不幸。ひとつはサウンド面のすべてを担当していたブレッド・ガーヴィッツの脱退。そしてもうひとつは自身の離婚。これからバンドでがんばっていこうとプレッシャーと戦い希望に満ち溢れた時期に、大きな傷となる精神的なダメージを2つ受けたのだ。人気の絶頂にあった、2つの大きな不幸。この人も数奇な運命をたどる人なのだと思った。

 この本で語られている内容の半分以上は自然主義や進化論や生物学についてのことで、バッド・レリジョンというバンドにしか興味のない人にとっては、いささか退屈に思える。しかも難解で訳本ならではの読みづらい箇所が多々ある。もう少し欲を言えば、ジャームスやブラッグ・フラッグ80年代からグリーンディやオフスプリングの90年代のパンクシーンについての移り変わりや、ここのバンドについて、パンクシーンについてもっと語って欲しいと思えた。その理由はスイサイダル・テンデンシーズのエピーソードがあまりにも面白かったから。そのあたりが残念に思えた箇所だが、バッド・レリジョン奥深い思想やエピソードはとても面白かった。バッド・レリジョン・ファンだけでなく、アメリカン・ハードコア・ファンは絶対に読んだほうがいい。それほど価値のある内容だ。

2013/12/03

BAD RELIGION 『Christmas Songs』

クリスマス・ソングスクリスマス・ソングス
バッド・レリジョン

SMJ 2013-10-29
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 13年に発表された9曲入りのミニアルバム。8曲はクリスマスソングのカヴァーで、残り1曲は“アメリカン・ジーザス”のアンディ・ウォレス、リミックス。

 バッド・レリジョンのいうバンド名の由来は、悪い宗教。いうならアンチ・キリスタンというスタンスを掲げたバンドだ。そんな反体制側にいるバッドレリジョンが、なぜクリスマス・ソングをカヴァーしたのかといえば、メロディック・パンク・バンドたちがアメリカン・ポップスや80年代ロックなどをカヴァーしているPUNK GOESシリーズのように、ただ純粋にカヴァーを楽しんでいる。ここではとくに反体制的な姿勢はうかがえず、クリスマスという祝祭的なイベントを、ただ純粋に祝い楽しんでいるようだ。とくに深い意味はなさそうだ。

ここでカヴァーしている曲は、1曲目の“天には栄え”は、イギリス四大賛美歌のひとつとして知られる曲。2曲目の“神のみ子は今宵しも”は、イングランド・カトリック教会で歌われている賛美歌。3曲目の“久しく待ちにし主よとく来たりて”は、9世紀にラテン語聖歌。4曲目の“ホワイト・クリスマス”は、ビング・クロスビーによって歌われ有名になったクリスマス・ソング。5曲目の“リトル・ドラマー・ボーイ”は、1950年代にアメリカで大ヒットを記録したクリスマス・ソング。6曲目の“世の人忘るな”は、97年にメジャーレーベル、アトランティックからプロモーション用に配られた『ホーリディー・サンプラー』にも収録されていた曲で、1843年にチャールズ・ディケンズによって歌われたクリスマス・ソング。7曲目の“御使いうたいて”は、1865年にウイリアム・チャタートン・ディックスによって歌われたクリスマス・ソング。8曲目の“荒野の果てに”は、1862年にジェイムズ・チャドウィックによってアメリカで歌われたクリスマス・ソング。そして最後の9曲目の“アメリカン・ジーザス”は、93年に7枚目のアルバムとしてリリースされた『レシピ・トゥ・ヘイト』に収録されたバッド・レリジョンのオリジナル曲。ここに収録されている曲は、アンディ・ウォレスによってリミックスされたシングル『アメリカン・ジーザス』のプロモCDに収録されていたヴァージョン。ここにはひとりぼっちの寂しく悲しいクリスマスといった曲はない。どの曲も楽しいクリスマスを喚起させる。

 全曲クリスマスソングのパンクバージョンという感じで、アレンジは、バッド・レリジョンの代名詞である2ビートのスピーディーなメロディック・ハードコアではなく、8ビートで荒々しいノイズギターのラモーンズのようなアレンジがなされている。しかもバッド・レリジョン特有のアグレッシヴな衝動や社会に対する攻撃性はない。わざとスピーディーでノイジーにすることで、クリスマスを小ばかにして楽しんでいるような印象を受ける。

 やはり最後は、バッド・レリジョンらしさを出したかったから、“アメリカン・ジーザス”のレアヴァージョンを収録したのだろう。アメリカン・ジーザスとは、アメリカのグローバル企業のことを神と隠喩で呼び、世界経済を支配することへの非難と、世界の富を独占し、格差を作り出すことへの警告に満ちた内容が歌われている。シリアスな曲ではあるが、ここではおまけという意味合いが強い。

 もしかしたらクリスマスという誰もが楽しいと思うイベントが、グローバル企業によって、貧富の格差が進み、既得権益しか楽しめなくなる可能性を秘めているということを伝えたかったのかもしれない。そんな隠喩的な意味合いがこめられているアルバムなのかもしれない。いずれにしろ、彼らにしてはめずらしく楽しみに満ちた作品だ。

2013/03/14

ブリンク182 『ドッグス・イーティング・ドッグス EP』

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 12年に発表された5曲入りのEP。公式サイト限定で発売された作品で、初回限定版には、『ナーディ』、『ナイス』「サンタズ』の3種類のラップ・パッケージがあり、それぞれTシャツ、フードフリース、限定ポスター、クリスマスカードなどの特典が付いた。具体的に説明すると『サンタズ』では、アーティストのブランドン・ハートによるポスター、ブリンク 182のホリデイTシャツ、ラッピング・ペーパー、ホリデイ・カードの4つの特典。『ナイス』では、ブリンク 182の2012ホリデイ・フード・フリース、ラッピング・ペーパー、ホリデイ・カードが付いた。『ナーディ』では、ブランドン・ハートによるポスター、ブリンク 182のホリデイTシャツ、ホリデイ・カードが特典。それそれに11月26日月曜日までに予約すると、バンドのサインがプリント。

 肝心のその内容だが、前作『ネイバーフッズ』の世界観を踏襲したサウンドで、ブリンク182独特のメロディーに変わりはない。だが5曲とも方向性の違うヴァラエティー豊かな曲に仕上がっている。“ホエン・アイ・ワズ・ヤング”では、トンネルの中をくぐり抜けるようなワクワク感あるデジタルサウンドで、“ボクシング・ディ”では、アフタヌーンティーを楽しみながらまどろんでいるようなアコースティックの曲。ベースにあるパンキッシュなサウンドにデジタルなどの要素を肉付けしてよりパワーアップしている。との曲もキャッチーで極上なポップ。楽しい気分にさせてくれる作品だ。

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