プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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エモ

2017/08/03

DOWNCAST(ダウンキャスト) 『LP』

Downcast

激情エモ/ハードコアのルーツとされているDOWNCAST(ダウンキャスト)の91年に発表されたデビュー作にして最後となるアルバム。

彼らを語る前にますEbullition Records(エボリューション・レコーズ)から説明したい。Ebullition Recordsとは90年にRock Rock Rollのコラムニストであったkent Mcclard(ケント・マクランド)によって、カルフォルニア州ゴレタに創設されたレーベルだ。ケントは動物愛護や環境保全に力を注いでいる筋金入りのストレートエッヂで、レーベルに所属するアーティストは、ストレートエッヂでなければ、音源をリリースしないという徹底したこだわりを持っている。リリースされた作品のなかではとくにコンピレーション・アルバムが印象的で、『VA(EBULLITION)/HEARTATTACK』では、ケントがヨーロッパに出向き、ストレートエッヂ・バンドに声をかけ、コンピレーション・アルバムに参加してもらった作品だ。ヨーロッパか各地のライヴハウスを周り、ストレートエッヂを掲げるバンドをリサーチし、バンドのスタンスやポリシー、アティテュードへのこだわりを聞き、選び抜かれた14組を集め収録した作品なのだ。それほどストレートエッヂへの並みならぬこだわりと情熱をもった人物なのだ。

そのケントが唯一メンバーとして参加していたバンドがダウンキャストなのだ。彼らが発表した作品は4曲入りのEP『Downcast(7)』と10曲入りのフルアルバム『Downcast(LP)』の2作だ。EMBRACE(エムブレイス)のボーカルスタイルに、Helmet(ヘルメット)のスローデンポに重厚なリフのサウンドを合わせたスタイルだった『Downcast(7)』。そのEPと比べると、違い格段に曲のバラエティーが広がっている。今作でもEPのサウンドスタイルがベースとなっているが、リズムとともに叩きつけるようなリフや激しさと静けさのアップダウンを繰り返すギターなど、新しい要素を加えている。エモーショナル・ハードコアが激情コアへと進化し、カオティック・ハードコアへたどり着いた。極限まで過激に進化したバンドがConverge(コンヴァージ)とするなら、絶叫ボーカルやアップダウンを加えた部分で、エモーショナル・ハードコアを少しだけ前に進めたサウンドといえるだろう。

もしかしたら当時としては激しさのなかでも上位に入るサウンドだったのかもしれない。リアルタイムで聞くともっと違った印象だったのかもしれないが、だが今聞くとハードコアバンドならではの迫力や闘志、尋常でないテンションの高さは、あまり感じられない。暗闇で瞑想するようなシリアスや、修行僧のように厳しく内面を見つめ、煩悩を消し去ろうとするような精神の安定と、内省の葛藤が感じられる。ストレートエッヂならではのストイックさが感じられるのだ。

現在ダウンキャストは15年に活動を再開し、新曲をレコーディングしたとのこと。その後の活動は伝わってこない。現在復帰が一番待ち遠しいバンドなのだ。

2017/06/28

Joyce Manor (ジョイス・マナー)  『Cody (コーディ)』

CODYCODY
JOYCE MANOR

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アメリカはロサンゼルス郡南のトーランス出身、エモ・バンドの16年に発表された4作目。彼らの特徴といえば、イギリスのネオ・アコースティックを、荒くがなり立てるサウンドだった。いうならネオアコのような都会的に洗練されたスタイリッシュな洒脱さを排除して、激しくエモーショナルにかき鳴らす。それが彼らの特徴だった。

出世作となった前作『Never Hungover Again (ネバー・ハングオーバー・アゲイン)』は、ネオアコにアメリカのメロディック・パンクなど、いろいろな要素を取りこみ、バラエティー豊かなサウンドに仕上がっていた。タイトルを直訳すると、二日酔いを二度と繰り返さない。おそらく“後味の悪い経験を二度と繰り返さない”という意味なのだろう。その意味が示すとおり、歌われている内容は、青春時代の初体験の苦い思い出。現実と理想とのギャップで戸惑い落ち込み、初恋が後味の悪い思い出として残るような、青春の一コマがテーマだった。

青春さながらに熱くエモーショナルに勢いと初期衝動を重視していた前作。今作ではエモーショナルな勢いや粗削りさがなくなり滑らかな仕上がりに、落ち着いたサウンドに変化した。いままでアコースティック中心のサウンドであったが、今作では青空のように明るいギターが特徴のミドルテンポのポップソングから静謐感漂う牧歌的なバラードなど、ポップロックを追求し、バラエティー豊かなサウンドに変化した。曲ごとに喜怒哀楽の表現を変え、いろいろな感情表現ができる大人のバンドになったのだ。

今作も青春の一ページを切り取った歌詞は健在。テーマは前作同様、憧れや理想だったものへの失望をここでも語っている。やりたい何かが見つからない将来に対する不安と苛立ちや、好きだった彼女への失望など、18歳前後の大半の若者が経験し、考え感じるような内容がテーマだ。初体験が後味の悪い経験と感じる若者がより限定された人だったのに対し、今作では大多数の気持ちを代弁したより広い視野に立っている。極上にポップに仕上がった楽曲といい、歌詞も大多数に共感され理解できるような広い視座でこの作品は作られているのだ。

個人的には前作の粗削りな勢いと衝動を重視したサウンドのほうが好きだったが、大人しくなった今作は前作以上に完成度が高い作品であることに間違いはない。

2017/01/17

『The Emo Apocalypse (ザ・エモ・アポーカレス)』

Index2

06年にドイツから発売されたコンピレーション・アルバム。『The Emo Apocalypse (ザ・エモ・アポーカレス)』というタイトル通り、エモ・バンドばかりを収録している。エモといってもJIMMY EAT WORLD(ジミー・イート・ワールド)に代表されるようなポップエモのバンドは一つもいない。ものすごく乱暴に例えるなら、Texas Is the Reason(テキサス・イズ・リーズン)の古典的なエモーショナル・ハードコアから、Converge(コンヴァージ)のカオティック・ハードコアに進化していく過程の、そのふり幅の間にあるバンドを集めたコンピといえるだろう。

収録バンドはCease Upon The Capitol、Khere、Loma Prieta、D Amore、Her Breath On Glass、The Birds Are Spies They Report To the Trees、Kias Fansuri、June Paik、Enoch Ardon、Cagliostro、Louise Cyphre、Trainwreck、Architects、A Fine Boat That Coffin、Ten And Two、The Walls You’ve Built、Balboa、Only For The Sake Of Aching、Belle Epoque、Catena Collapse、The Critic、Manhattan Skyline、Am I Dead Yet、Petetheepiratesquid、Alegory Of The Cave、Antithesis、Towers、Funeral Diner、I Spoke、Escapado、Violent Breakfast、Monocycle、Arse Moreira、Pyramids、Suis La Lune、Kurhaus、Orbit Cinta Benjamin、A Day In Black And White、SL 27、Mr Willis Of Ohio、Van Cosel。の計42バンド。すべての収録曲は30秒前後で終わる、センシブでうるさくファストな曲だ。

このなかで有名なバンドといえば、カルフォルニアのLoma Prieta(ロラ・ピエタ)や、ボストンのHer Breath On Glass(ハー・ブレス・オン・グラス)、サンフランシスコのFuneral Diner(フューレル・ダイナー)ぐらい。あとはあまり知られていないバンドが多数を占めている。

全体の特徴をいえば、どのバンドもスクリームと暴走するスピード、荒れ狂ったノイズがある。すべての理性が消し飛ぶようなその躁状態のサウンドはありまるで、すべてを吹き飛ばす荒れ狂った巨大竜巻のようなサウンドを展開している。

どのバンドも尋常でないテンションのサウンドを展開している反面、同じようなサウンド・スタイルのバンドが多く、これといった特徴があるバンドがあまりないのが欠点だ。

そのなかでもとくに印象深いのは、ノイズギターが一切なく繊細なメロディーを高速で奏でるエスクぺリメンタルなサウンドを展開しているBelle Epoque(ベル・エポック)、無機質でテクニカルなメロディーが不快なノイズの歪に変わっていくA Day In Black And White(ア・ディ・イン・ブラック・アンド・ホワイト)。彼らはエモや激情の範疇に捉われず独特なサウンドを展開している。そして首を絞められた女性のような金切り声をあげるOrbit Cinta Benjamin(オアビット・チンタ・ベンジャミン)は、激情コアの先にあるもっと過激なサウンドを目指している。

さずがエモ/激情のコンピとだけあって、ものすごく激しいサウンドだが、どのバンドも外へ向かって闘争していくというよりも、自閉症的というか、内面世界に感情が根付いている。エモといえば腐るほどコンピがリリースされているが、この作品は意外とありそうでなかったジャンルのバンドたちを集めたコンピなのだ。

2016/05/13

Gospel (ゴズペル) 『 The Moon Is A Dead World (ザ・ムーン・イズ・ア・デッド・ワールド)』

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05年に発表されたデビュー作にして最後の作品。コンヴァージのギタリスト、クルト・バルーによってプロデュースされた作品で、世間ではスクリーモとして認知されている。

05年といえばユーズドやサーズディ、アトレイユなど、メタルから進化したスクリーモが席巻していた時代だ。そんなサウンドスタイルが流行していたときに、彼らはハードコアから進化したスクリーモで、周りとは違ったサウンドを展開していた。

その彼らのサウンドスタイルとは、スクリーモの絶叫に、エモーショナル・ハードコアのナイーブなメロディーやプログレの壮大な世界観を取り入れた。スクリーモとプログレの折衷スタイルのサウンドなのだ。

12弦ギターが作り出す音が反響するメロディーに、変則的でトライバルな独特のリズムをたたくドラム、9分からなるプログレの壮大な曲に、ジミヘン的なくるくると性格が変わるギターの要素を加えた楽曲には、エクスペリメンタルで独特な世界観を追求している。そこには勢いと衝動に満ちあふれながらも、怒りと悲しみと寂しさが入り混じった感情が支配している。神経質で孤独に満ちあふれたメロディーと、限界を突き抜けるような衝動と憤りに満ちあふれたスクリームの調和には、
ダンテの神曲のような特異で孤高の芸術性すら感じる。

9分を超える遠大な曲もありながらも、衰えることのない勢い。スクリーモのなかでも独特な作品なのだ。

2016/05/05

City Of Caterpillar (シティー・オブ・キャタピラー)

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02年に発表されたデビュー作にして最後の作品。エモからスクリーモ、カオティック・ハードコアにシーンが変わっていく過程に現れたバンドで、そのサウンドは現在ではリアル・スクリーモと呼ばれている。

このバンドもジュリアと同様に、テキサス・イズ・ザ・リーズンに影響を受けたエモーショナル・ハードコアをさらに過激なサウンドへと進化させたバンドのひとつだ。このバンドの特徴はアップダウンするエモのサウンド形態に、不気味な静寂のメロディーが延々と続く中期ソニックユースのサウンドスタイルや音が反響する幻想的なスライドギターなどの要素を加えた部分にある。

不気味な静寂のなかにキラリと光る万華鏡のように幻想的で美しいメロディーと、洪水のように襲いかかるノイズギターの音の壁。激しさと静かさが交互に繰り返されるサウンドには、渡ることのできない川の岸辺で一人ぽつんとたたずんでいるような寂しさが漂っている。対岸にある華やかで人の賑あう世界。そこにたどり着くことのできない寂しさや悔しさ。そんな感情がどことなく漂っているのだ。

この暗く陰りのある美しさは、後世のバンドに多大な影響を与えた。初期スクリーモのなかでも独特な世界観を持ったバンドといえるだろう。

2016/02/15

Julia(ジュリア)


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 サンディエゴ出身のエモーショナル・ハードコア・バンドの94年に唯一発表された8曲入りのEP。このバンドもまた、アップルシード・キャストのメンバーが影響を受けたバンドとひとつとしてあげ、エモの先駆者のひとつとして語られるバンドだ。日本ではあまり評価されることのなかったバンドだ。

 そのサウンドは、ライツ・オブ・スプリングとテキサス・オブ・リーズンの中間に位置する。ジャンル的にはライツ・オブ・スプリングから進化したエモーショナル・ハードコアだ。ライツ・オブ・スプリングとの違いは、部分的にメロディーパートを導入した部分。あとにテキサス・オブ・リーズンによって、静がよりクローズアップされ、静と動のアップダウンこそがエモーショナル・ハードコアのサウンドの特徴として語られていくことになる。

 サウンドの8割をしめる荒々しく力強いギターと全力を出し切るエモーショナルな歌声のサウンドは、ライツ・オブ・スプリングからの影響が強く、残り2割のメロディーパートと、エクスペリメンタルなサウンドには、彼らならではのオリジナルティーを感じる。透明で繊細で冷たく美しいメロディー・パートを取り入れた部分は、のちにテキサス・オブ・リーズンやミネラルによって、さらにメロディーがデフォルメされ、エモーショナル・ハードコア=不良になりきれないうじうじした奴がやる音楽という代名詞になっていく。そしていびつな音の不協和音ギターやピアノが反復するプログレのように長いパートなどの雑音を取り入れた実験性には、あとにアップルシード・キャストによってこの路線がさらに極められ、ポストロックやプログレを取り入れたエモという新しい形を提示していくことになる。

 ともあれエモの静の部分を最初に導入したバンドであり、実験性なども大胆に取り入れ、構成のバンドに多大な爪あとを残した。エモを語る上で重要な作品だ。


2015/10/02

Heroin (ヘロイン)


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Gravity Records 1997-01-24
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89年から93年にかけて活動していたヘロインの、97年に発表したすべての作品を網羅したディスコグラフィー的な作品。その内容は、91年に発表された7インチ・シングル『オール・アバウト・ヘロイン7』から6曲。92年に発表された7インチ『ヘロイン』から4曲。93年に発表された12インチ・シングル『ヘロイン』から6曲に、3曲プラスされた、計19曲が収録されている。

 ぼくが彼らの存在を知ったのは、アップルシード・キャストのインタビューでの発言だ。エモの先駆者である彼らが影響を受けたバンドとして挙げていたのが、ライツ・オブ・スプリング、ヘロイン、ジュリアといったバンドたちだ。そのとき以来個人的に、ヘロインというバンドのことがずっと気になっていたが、日本の雑誌では彼らのことを紹介されることがまったくなく、つねに無視し続けられてきた存在だったのだ。このたび彼らのCDを入手したので、レビューを書くことにした。

 とうやらヘロインというバンドは、アメリカではスクリーモの先駆者として語られているようだ。エモーショナル・ハードコアというジャンルが、エムブレイスやライツ・オブ・スプリングなどによって産声を上げたころ、そのバンドたちやオールド・スクール・ハードコアを聴いた育ったヘロインのメンバーたちは、ライツ・オブ・スプリングのサウンドスタイルをさらに推し進めた。熱く叫ぶボーカルは、しゅうし絶叫するスタイルへと進化し、センチなメロディック・ギターはなくなり、分厚くノイジーでカオティックに変化した。

 このアルバムで展開されているサウンドは、終始絶叫するスタイルのボーカルと、分厚くノイジーなギターサウンドだ。ギタースタイルはハードコアをベースにしているが、ところどころにメロディー・パートが加わっている。そして高速スピードのドラミングによって、分厚いギターとメロディー。絶叫ボーカルという個々に際立つ要素が歪な不協和音を生み、全体の印象をカオティックなものにしている。そのあたりが終始ハイテンションで闘争的なハードコアとは違うし、静と激のコントラストがあるエモーショナル・ハードコアとも違う。精神状態がめちゃくちゃで、マッドなカオティックを生んでいるのだ。

 その絶叫するボーカル・スタイルから、スクリーモの先駆者として語られることになった。だが実際に一部の例外を除いたスクリーモと呼ばれているジャンルのバンドたちは、メタルやハードロックからの影響が強い。メタルやハードロックのメロディーパートにハードコアのコントラストがあるバンドたちが、スクリーモと呼べるだろう。そういった意味で、ヘロインはスクリーモからかけ離れている。いうならエモーショナル・ハードコアとカオティック・ハードコアの間をつなぐ存在が彼らとは言えるのではないか。エモーショナル・ハードコアよりも過激なサウンドで、カオティック・ハードコアよりも混沌とはしていない。それがヘロインのサウンドなのだ。

 おそらく彼らの存在がなければ、コンヴァージもデリンジャー・エスケープ・プランも存在しなかったのではないか。日本ではそれほど評価されていないが、エモーショナル・ハードコアとカオティック・ハードコアの間をつなぐ上で、重要なバンドだったのだ。

2015/08/31

DESAPARECIDOS (デサパレシドス) 『READ MUSIC SPEAK SPANISH (リード・ミュージック/スピーク・スパニッシュ )』


リード・ミュージック/スピーク・スパニッシュリード・ミュージック/スピーク・スパニッシュ
デサパレシドス

バッドニュース音楽出版 2003-01-22
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03年に発表されたアメリカ中西部ネブラスカ出身の5人組によるバンドのデビュー作。デサパレシドスとは、スペイン語で戦争によって殺害された「行方不明者」という意味で、ブライト・アイズとして知られるシンガー・ソングライター、コナー・オバーストと彼の幼馴染みのデンバー・ダリーを中心に結成されたバンドだ。ボーカル兼ギタリストであるコナー・オバーストといえば、このバンド以外にもうひとつ掛け持っている、ブライト・アイズのボーカリストとして有名だ。世間的に地位も名声も手にしているブライト・アイズ以外に、コナー・オバーストがこのバンドを始めたという理由には、おそらく真逆のベクトルのサウンドと感情を表現したかったからだろう。

その真逆のサウンドとは、ノイズギターをベースにしたエモーショナル・ハードコア。だがほかのエモバンドとはあきらかに異なるサウンドを展開している。ベースになっているのはペイヴメントやセバドーなどのローファイの影響を感じるノイズギター。意図的に質の悪い音響器具を使い、ノイズを増幅させ、そこに浮遊感あるスペイシーなメロディーを合わせた。そこから感じるのは、いままで自分が築いてきたものをハンマーで粉々にするような爽快な破壊衝動。本来エモとは、繊細で触れれば崩れそうなデリケートさを穏やかなメロディーフレーズに載せ、激しいギターと高鳴るドラムングと叫び声で激情を表現し、静と動の感情がアップダウンしていく展開の音楽。だがここではセンシブな感情や内向的な表現はまったくない。あるのは外へ向かってストレスを発散していくスカッとした爽快感だ。おそらく感情のベクトルが外へ発散へ向かっている理由は、ブライト・アイズでじめっと暗いアコースティックで、音数の少ないミニマムなサウンドを追求し、静的でダウナーな感情を表現しているからだろう。だから必然的にうるさくノイジーなサウンドで苛立ちを叫びたくなったのではないか。その理由がこのバンドを立ち上げた動機ではないだろう。

とはいってもほかのエモバンドとは違い、しっかりとした個性がある。音質が悪くとことんノイジーで叫び声を上げるサウンドは、いままでエモ・バンドにはなかったサウンドだし、感情のベクトルも外へ向かっているエモはなかった。なにより、繊細な美しさを追求するエモバンドとは真逆に、あえてダーティに不快を貫こうという姿勢もいい。個性があるエモバンドを10つ挙げるなら、間違えなくその中の一つに入ってくる作品だ。


2014/09/27

Texas Is the Reason (テキサス・イズ・ザ・リーズン)  『Do You Know Who You Are? Complete Collection (ドゥ・ユー・ノウ・ユー・アー?:ザ・コンプリート・コレクション)』

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 エモーショナル・ハードコアの最重要バンドのひとつであるテキサス・イズ・ザ・リーズンの95年に発表された最初で最後にして最高傑作のアルバム。このたびデビューEPと1ST、プロミス・リングとサミュエルとのコンピから1曲づつ、初期音源化の2曲が追加され、全曲リマスタリングされた。13年に発表された編集版だ。

 彼らの功績とは、エモーショナル・ハードコアというジャンルを確立ところにある。天下(ここでは音楽ジャンル)という名の餅を、信長が杵で搗いて、秀吉が捏ね、家康が食べると、いった戦国時代の例でたとえるなら、テキサス・イズ・リーズンは秀吉だろう。文字通りエモーショナルがこもった絶叫で、エモというジャンルを作ったエンブレイスやライツ・オブ・スプリングは先駆者的存在だが、大きなシーンを作るまでにいたらなかった。逆にエモのサウンド・フォーマットやアティテュードをポップ化し、不良にも優等生にもなれないという冴えない男というウィーザーの要素まで取り込んだジミー・イート・ワールドやゲット・アップ・キッズは、エモ・シーンがブレイクするきっかけとなったバンドとして知られ、家康の例えが合っているだろう。

 エモのアティテュードやサウンド・フォーマットを確立しながらも、大きなムーブメントが起きることも、売れることも決してなかったテキサス・イズ・ザ・リーズンは、まさに秀吉だろう。そのテキサス・イズ・リーズンが、確立したエモーショナル・ハードコアとは、内省的なアティテュードと、やりきれない想いを吐き出すような情動と、繊細なメロディーの静寂がアップダウンするサウンド・スタイルだ。テキサス・イズ・ザ・リーズン以前のニューヨーク・ハードコアは、マッチョな不良たちが反社会的で警察権力などにも暴力を辞さない、闘争的なシーンであった。それがテキサス・イズ・リーズンやサニーディ・リアル・エステイトなどのバンドが出現すると、文学的で喧嘩が弱そうで華奢な泣き虫な文学青年にもハードコアの門戸を開いた。そのサウンドは外へ向かっていたハードコアとは違い、繊細でナイーヴな内面世界を表現していた。

 改めて今回のリマスター盤を聴いてみると当時では気づかなかった細かい音のディティールがはっきりしている。そして彼らが確立したエモーショナル・ハードコアとは、エンブレストから続くノイズギターと、かすれた鼻声で絶叫するエモーショナルな歌声の“動”の曲と、ナイーブな感情を紡ぎ静かに鳴り響く“静”曲のメロディーにある。“動”と“静”のアップダウンにあるのだ。そこには外へ向かって突き進んでいくような熱い感情や爽快感はない。荒々しいノイズギターには、心の深淵にあるやりきれない思いを表現しているように感じるし、かすれた鼻声で絶叫するボーカルからは、他者に理解してもらいたい欲求のような衝動を感じる。そして穏やかで静かなメロディーには、傷ついた心をあやし慰めるような神経質な音がある。すべて一人称で完結している内向きな感情と、デリケートなメロディーが、エモーショナル・ハードコアのひ弱でうじうじしたイメージを作ったのだ。その新しいアティテュードに多くの人が共感したことは事実だが、ハードコア界に多くの敵を作ったもの事実だ。その賛否両論がこのバンドを売れることなく無名なままに終わらせた理由だろう。

 だがエモのサウンドフォマットととなる雛形を作ったのは、紛れもなくこのバンドだ。あとにJ・ロビンス(元ガバメント・リイシュー、元ジョーボックス)が、エモ界の辣腕プロデューサーとして知られるようになる理由は、この作品をプロデュースしたのがきっかけだ。それほど後世にあたえた影響はすさまじく、紛れもなくエモの名盤なのだ。

2014/09/17

Closure in Moscow (クロジュア・イン・モスコ)  『Pink Lemonade (ピンク・レモネード)』

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 約5年ぶりとなる2作目。前作のアジア、メタル、ジャズ路線から一転、今作では70年代のサイケデリックに焦点を合わせた。世界観が180度変わった作品に仕上がっている。

 今作でもマーズ・ヴォルタやディア・ハンター、dredgなどからの影響が強い、プログレやサイケデリック、メタル、ファンク、ダンス・エモなどを切り貼りしたサウンド・フォーマットをベースにしている。今作も情報過多になるほどいろいろなジャンルの音楽を詰め込んでいる。取り入れた音楽こそ180度違うが、サウンドフォーマット自体は前作からあまり変わっていない。だが前作との一番の違いは世界観にある。前作も西洋世界から見た奇異なものを追求していた。そういった意味ではブレていないが、インドなどのエスニック色が強かった前作と比べると、今作では不思議の国のアリスのような小鳥がさえずるおとぎの世界を追求している。

 たとえば、“ザ・フール”と“Pink Lemonade”のイントロは違うメロディーだが、あえて同じメロディーが繰り返していると錯覚するような、同じ夢を繰り返すデジャヴの効果を演出している。また“Pink Lemonade”の6分ごろから始まる女性ボーカルの歌声には、まるで精神病者患者のような無邪気で無垢な狂った喋り方がある。

 そこにあるのはドラッグでトリップするようなサイケデリックな幻覚世界。今作では不思議の国のアリスのようなメルヘン世界に、ロバート・アントン・ウィルソン著の“サイケデリック神秘学――セックス・麻薬・オカルティズム”を合わせた内容ががテーマになっている。麻薬トリップで見たメルヘンな世界の幻覚を、サウンドに置き換えた。

 ぼくがこのバンドを評価している理由は、いろいろなフレーズの切り貼り方にある。初期マーズ・ヴォルタやディア・ハンターにインスピレーションを受けたフレーズの切り貼り方なのだが、その組み立て方がとても独特だ。たとえばアメリカのバンドではあまりいない、ファンク・ギターやコーラスをベースにしている。エモーショナルに感情が高ぶっていくボーカルが、いきなりなよなよしたソウルフルなコーラスなど、意外性のある展開が目立つ。80年代のような超絶テクニックの速弾きメタルのギターソロを取り入れたり、アメリカやイギリスでは忘れ去られている古きよきものを引っ張ってきて、オーストラリアという土地柄の独自の加工を施している。その切り貼りの仕方が、アメリカやイギリスのバンドではありえない発想なのだ。それが個人的にこのバンドを高く評価している理由なのだ。

 今作のメルヘンなラリった世界もすばらしかった。だが、けっして大人しいアルバムではない。総じてテンションが高くエモーショナルだった。前作よりも確実に成長を遂げて、すばらしい作品に仕上がっている。

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