プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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メロディックパンク

2017/08/17

Armstrongs (アームストロングス)       『 If There Was Ever a Time(イフ・ゼア・ワズ・エヴァー・ア・タイム)』

GREEN DAY(グリーン・デイ)のボーカル、Billie Joe Armstrong (ビリー・ジョー・アームストロング)と、RANCID(ランシド)のボーカル、Tim Armstrong (ティム・アームストロング)によって結成されたバンドのデビューシングル。このシングルが発表された経緯は、アメリカ西海岸のイースト・ベイ・パンクシーンのドキュメンタリー映画『Turn It Around: The Story of East Bay Punk』が上映されることがきっかけ作曲された。映画用に作られた曲を、iTunes限定で発売された。売り上げはすべてカリフォルニア州バークレーのイースト・ベイエリアにあるライヴハウスVenue、924 Gilmanに100%寄付されるそうだ。

そもそもこの2人の出会いは、87年までにさかのぼる。同じカルフォルニア州のイーストベイ出身で、当時ビリージョーはSweet Children(スウィート・チルドレン)というバンドで活躍し、ティムはOperation Ivy(オぺレーション・アイヴィ)で活動していた。お互いに貧しい地区の出身で、前身のバンド時代からの友人関係だという。先にブレイクを果たしたビリージョーが、ティムに売れてほしいと願い、93年に“Radio Radio Radio”を提供。のちにランシドの名曲と呼ばれ、現在でもライヴの終盤に必ず演奏されている。かたやグリーンディのほうは、初期のころから現在にいたるまでオぺレーション・アイヴィのカヴァーである“Knowledge”を必ずライヴで歌い続けている。そこにはお互いのバンドがどれだけ大きくなろうが、変わることのない絆の深さある。お互いの挫折と復活、成功など、苦楽をともにしてきた仲間だからこその結束の強い友人関係があるのだ。

そして結成されたバンド名は、ティムとビリージョーのラストネイムであるアームストロングが採られ「The Armstrongs(ザ・アームストロング)」と名付けられた。メンバーは、ビリージョーとティムのほかに、ビリー・ジョーの息子ジョーイと、ティムの甥っ子レイ・アームストロングも参加。お互いの親族のみで結成。

肝心の曲だが、アコースティックギターのイントロが印象的なカラッと明るい西海岸特有のパンクロック。ランシドの3作目である“...And Out Come The Wolves(アンド・アウト・カム・ジ・ウルヴス)”に収めされている曲に雰囲気が近いさわやかなパンクロック。ティムのしゃがれたボーカルスタイルに合わせた曲が採用されており、ビリージョーは終始わき役に徹している。

ここで歌われている内容は、映画にふさわしく、自分が生まれ育ったシーンについての楽しかった思い出。もう一度昔に戻ることができるのなら、また過去と同じステージに立ち歌いたいという、痛切な郷愁願望。いささかノスタルジーに浸っている傾向にあるが、けっして後ろ向きな感情ではない。そこにはイーストベイ・シーンへの深い愛情がある。バンドを始めたことによって出会えた同じ気持ちの仲間たち。そしてその仲間たちと巡り会えたことによって生まれた深い絆と、ルーツであるイーストベイ・シーンへの誇り。そのプライドを胸にバンドを続けていく前向きな感情。そして息子たち次世代へと受け継がれていく。その未来へと受け継がれていく希望が、すがすがしいまでのさわやかさとカラッとした心地よい風のような気持ちであふれているのだ。変わらぬ友情が放つ愛情のあふれた1曲なのだ。

2016/10/20

A Day To Remember(ア・デイ・トゥ・リメンバー)  『Bad Vibrations(バッド・バイブレーション)』

バッド・バイブレーションバッド・バイブレーション
ア・デイ・トゥ・リメンバー

ワーナーミュージック・ジャパン 2016-09-01
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16年発表の6作目。彼らについて散々書いてきた。くどいようだがもう一度説明しておく。彼らの個性とは、メタルコアのポップ・パンク化にある。05年当時、メタルコアをポップ化するというアイデアのバンドは、誰もいなかった。激しくヘヴィーで不快なデスメタルに、感情のひだを震わせるメロディックな要素を加えることによって、スカッと爽快に、憎悪から発散に変化させ、彼らならではの個性を確立することに成功した。それが『ホームシック』いうアルバムが50万枚売れた理由なのだ。

6作目となる今作だが、カラッと明るいサウンドだった前作と比べると、ダークで内省的な仕上がっている。エモっぽい曲など、新しいことにチャレンジしている曲もあるが、総じていうなら前々作、『ホームシック』の世界観を、さらに掘り下げた作品といえるだろう。彼らの作品のテーマの一つといえる疎外感や内省、心の闇を描いたアルバムジャケットも復活している。

アメリカでは『ホームシック』以来の快作と評価されている。その理由は暗く陰りのあるメロディーが復活したらだ。その憂いと切なさを含んだロディーからは、湖畔で黄昏ているような美しさがある。そしてメタルコアナンバーのデス声ボーカルからは、内面の憤りの叫びのように感じる。すべてが外向けの発散ではなく、シリアスで内向きなのだ。まるで人間の陰の部分にスポットを当てているかのようだ。ひさびさに彼ららしさが戻ってきた作品だ。


2016/08/31

Descendents(ディセンデンツ)  『HYPERCAFFIUM SPAZZINAT(ハイパーカフィウム・スパジネイト)』

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78年から活動を始め、Dickies(ディッキーズ)やAgent Orange(エージェント・オレンジ)と並び、西海岸のメロディック・パンクの創始者といわれるDescendents(ディッセンデンツ)の、じつに12年ぶりとなる7作目。

ディッセンデンツといえば、代名詞であるカラッと明るく爽やかなメロディック・パンク・サウンドが特徴のバンドで知られている。だがその音楽性は以外にも幅広く、ファストなハードコアの曲もあれば、トリッキーなインストメンタルな曲など、じつにいろいろな音楽をメロディック・パンクに取り込んでいた。アルバムを発表するたび、毎回違った要素を取り入れたサウンドを展開していた。

若かりしころはいろいろな音楽性を取り入れ新しいサウンドを提供することにチャレンジしていたが、9年ぶりの復活となった96年の以降は、メロディック・サウンドだけにスポットを当てたシンプルなサウンドを展開している。

今作も96年以降のサウンドの延長上にある作品で、あいかわらず良質なメロディック・パンクを展開している。先駆者ならではのオリジナルな個性である、つんのめるようなテンポで進むスラップベースは、今作も健在。独特のスピード感を持っている。前作よりも今作のほうが、いろいろなジャンルをメロディック・パンクに取り込んでいる。だがメロディック・パンクとの融合度は、いままでよりも明らかに上だ。この曲はハードコアの影響が強すぎるなど、そのジャンルの音楽を感じさせない仕上がりだ。

今作も全体的にカラッと明るく仕上がっているが、円熟した大人の味わい深さを感じる。いろいろな苦難を経験したうえでたどり着いた達観のような爽やかさだ。辛いことはたくさんあるけど、爽やかで心地よい風にあたりながらビールを飲み、人生を楽しもうぜみたいな雰囲気だ。

難解なものをいろいろと取り込んで世の中を難しく考えていた時期を経て、シンプルに考える大人になった。そんな経験と大人の渋みがにじみ出たグッドメロディーに勝るものはないのだ。今作も素晴らしい作品だ。

2016/04/08

face to face(フェイス・トゥ・フェイス) 『Protection(プロテクション)』

Protection
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Fatwr 2016-03-10
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 デビュー作を発表したレーベルである【ファット・レック・コーズ】に戻り、発表された3年ぶりとなる8作目。フェイス・トゥ・フェイスの活動25周年を記念した発表された作品だが、2011年以降の、再結成されてから発表された作品のなかでは、一番の出来ではないか。いや、むしろ全盛期である3rd『フェイス・トゥ・フェイス』に匹敵する作品だ。90年代後半の、僕が好きだったころのフェイス・トゥ・フェイスが戻ってきた。

 その戻ってきたものとは、窓を全開に開た車で全速力で駆け抜けていくような爽やかで心地よい開放感に満ちた疾走感。渋いコントラストのあるベース、カーテンから光が差し込むようなメロディーライン。カルフォルニアの空気のようなカラッ明るいメロディック・サウンド。それらは目をつぶっいても一発でフェイス・トゥ・フェイスのサウンドだとわかる、彼らならではの独特な音なのだ。

 そのメロディーラインと疾走感は、2ndアルバム『ビック・チョイス』を彷彿とさせる。今作では『ビック・チョイス』の続編のような仕上がりだ。とはいっても、『ビック・チョイス』にあった泣きじゃくるような切なさや感傷などのセンチメンタリズムは、一切ない。あるのは、どんな困難がこの先あろうが前へ進んでいく固い決意と開き直り。アルバム全体に爽やかな風のような男らしさが漂っている。

 元来彼らは似通った作品を作ることに、極端なほど抵抗をみせたバンドでもあった。前作とは違ったサウンドの作品を作るという意識が、ファン離れを起こし、悪い方向に向かうこともあった。自分たちの演りたいサウンドとファンが望むサウンドの狭間で乖離を生みだしていた。

 歳をとって丸くなったせいなのか、ファンが望むんでいるものに対して、その期待に応えてやろうとする意識とモチベーションが、今作では強く感じる。今まで封印していたメロディーと疾走感を、今作で復活させたのは、ファンを喜ばせようとする意識からだろう。その喜ばせようとする意識が、アルバムに熱意と衝動をあたえ、全体に爽やかな風を感じる素晴らしい作品に仕上がっている。ここにきて初めてコール&レスポンスという、ファンの期待に応えたのだ。

 たしかに彼らの魅力の一つであったセンチメンタリズムはなくなっている。だがもやはそんなものはぼく自身彼らに求めていない。むしろセンチメンタリズムから固い決意と開き直りに変わったことによって、40代の心境を如実に表しているのではないか。大方の人が挫折や悲しみの先にある感情を経験した年代で、もはや悲哀だけにくれるほど、同じ場所にとどまっているわけでもないのだ。そんなリアルな気持ちを反映したアルバムでもあるのだ。

 個人的には今年に入りノー・ファン・アット・オールなど、96年のメロコアリバイバルを経験し、ひさびさに20年前の熱い気持ちや衝動、なにより性急なパンク・サウンドにシビれた あのころのフィーリングがよみがえってきた。この作品もそんな意識を強く感じる作品の一つだ。個人的には今年のベスト5に確実に入ってくる作品だ。

2016/03/07

ignite(イグネイト) 『A War Against You(ア・ウォー・アゲインスト・ユー)』 

A War Against YouA War Against You
Ignite

Century Media 2016-01-07
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 じつに10年ぶりとなるオレンジカウンティー出身のメロディック・ハードコア・バンドの5作目。今作もまたブレない信念のもと、メロディックなハードコアを展開している。

 彼らのサウンドとはアメリカンなオルドスクール・ハードコアをベースに、メロディックなギターとボーカルを加えたライフタイム系のメロディック・ハードコア。初期のころかハードコアにメロディーラインを取り入れていたが、とくに分岐点となった作品は『アワ・ダーキスト・デイズ』。以降はメロディーラインを強調し、よりメロディックな方向に深化をしてきた。その流れは今作でも変わらない。彼らの個性のひとつでもあるメロディーラインの強い熱い歌声のボーカルは今作も健在。今作の変化を挙げるのなら、メロディーラインの強いコーラス、愁いを帯びたギターメロディーなど。曲調もライズ・アゲンイストやモトリー・クルーから影響を受けた曲が増え、メロディック化がさらに進んでいる。メロディックに深化することによって、さらに円熟味が増しているのだ。

 そしてなりより彼らの最大の魅力であり、初期のころから一貫してブレないのがその信念。絶望から這い上がっていく闘争心に満ちた熱い内容の歌詞、環境保全やヴィーガン思想を掲げる政治的な姿勢など、まさに直球ともいえるパンクな内容といえる歌詞は今作でも全く変わっていない。

 今作では戦いがテーマになっている。“ビギン・アゲイン”では挫折から再び立ち上がっていく熱い気持ちを歌い、“ディス・イズ・ア・ウォー”では、富裕層の金儲けのために行われる戦争への批判をし、“ナッシング・キャン・ストップ・ミー”では脳腫瘍にかかった友達のことを歌っている。挫けそうな弱い自分との闘いや、病気との闘い、1%の富裕層だけを優遇する政治との戦い、あらゆる戦いの形がテーマになっているのだ。

 それにしても熱い。その熱さとは、どんなに打ちのめされても、たとえいまがもっとも最悪な状況でも、立ち上がっていく姿勢。アルバム全体、そんな熱気でみなぎっているのだ。今作でもその変わらない熱意が魅力なのだ。今作もその熱気がすがすがしいほど好感を持てるいい作品なのだ。

2014/12/30

Against Me! (アゲインスト・ミー!)   『Transgender Dysphoria Blues (トランスジェンダー・ディスフォリア・ブルース)』


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Against Me!

Total Treble Music 2014-01-20
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 14年発表の6作目。この作品が発表されたとき、ぼくは大いに戸惑った。正直、いまでもどう受け止めればいいのか分からない。それほどのぼくを混乱に陥れた作品なのだ。

 ボーカルにしてフロントマンであるトム・ガベルが、トランスジェンダー(自分の性別に違和感のある人-―ゲイとは違い女性と結婚もしているし子供もいる)であることを告白したのが2012年。そして自らの名前をローラ・ジェーン・グレースに改名。今後はホルモン注射を受け、生きていくことを発表した。

 そんなプロセスを経て発表された今作は、『トランスジェンダー・身体的違和感・ブルース』というタイトルが示すとおり、トランスジェンダー/セクシャルマイノリティをテーマに歌われている。 サウンド的には、前作同様メロディーとリズム&ブルースに重点を置いたメロディック・パンク・サウンドを展開している。とくに進化をしている部分を上げるのなら、エモのようなキラキラメロディーを取り入れてたところか。前作よりもメロディーは美しくなっている箇所もあるが、とくに女性っぽく軟弱になった変化は見られない。総じて前作のように男っぽいサウンドを展開している。英語の分からない日本人からすれば、見た目や歌詞、アティテュードの変化を知らなければ、彼らが大幅に変わったことが理解できないだろう。それほどサウンド的には変わっていないのだ。

 だがやはり歌詞は考えさせられるものがある。“トランスジェンダー・ディスフォリア・ブルース”では、<あなたが可愛い女の子を見るような眼差しで私を見てほしい。でもゲイである私にはそれはかなわない夢。そしてあなたと二人で、私が幼いころから楽しんできたサーフィンをしながら、一日を過ごしたい。>そこには男でありながら女心を持ち、ゲイであるゆえに常人には理解されない感情と、結ばれることのない愛について歌っている。そしてトランスジェンダーの真の気持ちを歌った“トゥルー・トランス・ソウル・レベル”。そこでは男で産まれたのなら男であるべきという考えや、母親や妻を裏切ってまで女性になっていいのかという罪悪感や倫理観への葛藤に悶え苦しみながらも、トランスジェンダーになることを決断した内容が書かれている。自身が抱える深刻な問題に逃げず正面から立ち向かっているのだ。

 もしバンドで生活していくことを第一義に考えるのなら、トランスジェンダーであることを隠して活動を続けていくほうが、人気も落ちないし、最良の選択だろう。だがそれを許さなかったのは、バンド活動を始めたきっかけになったのイギリスのアナーコ・パンク・バンド、クラスの多大な影響にあるからだろう。クラスの反社会的でサッチャー政権という巨大な政治機構に立ち向かっていく姿勢や、マイノリティーであるフェミニストを擁護する内容の歌詞に憧れているから、黒いTシャツとGパンという格好のパンク・バンドを始めたのだ。たとえ命が狙われ、少数はゆえに多数派から叩かれても、自分たちの信念を貫くクラスの姿勢に憧れているから、トム・ガベル自身も、人気が落ち、忌み嫌われると判っていてもトランスジェンダーであることを告白をしたのだ。そういった意味では、どんなことがあっても自分の信念を貫ける真のパンク・アティテュードをもったバンドだといえるだろう。

 だがヴィジュアル的に正直、ぼくの心を惹かれるカッコいい存在のロックではない。イカれている、猥雑、歪んでいるといった世間的に悪い意味で使われる言葉がいい意味で使われるロック特有の逆説もここには存在しない。髭の濃さなどの男っぽさを残しながら女装をするトム・ガベルを、常人と同じように気持ちの悪い目で見ている自分が存在する。正直カーボーイの猥雑で荒々しい男くさいサウンドと姿が好きだったので、トランスジェンダーの告白に裏切られた気持ちもどこかある。だがトランスジェンダーであるがゆえにけっして結ばれることのない恋愛感情と、差別への歌詞には胸が詰まるような悲しさと切なさを感じたのも事実だ。この作品で新しい見地を知ったのも事実だ。正直いまだにどのような評価をすれば分からず混乱している。いろいろな意味で考えさせられる作品だ。

2014/12/25

Against Me! (アゲインスト・ミー!)   『Total Clarity (トータル・クラリティー)』


Total ClarityTotal Clarity
Against Me!

Fat Wreck Chords 2011-05-22
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 11年にファットレック・コーズから発表された『サーチング・フォー・ア・フォーマー・クラリティー』のデモ音源。『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』のデモ音源、『オリジナル・カーボーイ』に続き発売された作品だが、よほど彼らのデモ音源には需要があるのか、今回もまたファットレック・コーズから発売された。

 その内容は、『サーチング・フォー・ア・フォーマー・クラリティー』と『トータル・クラリティー』で曲名がかぶる曲は、アレンジの肉付けがされていないデモ音源のまま。計11曲が収録されている。『トータル・クラリティー』のみに収録されている未発表曲は、“エグハースチョン・アンド・ディスガスト”と“ロスト・アンド・サーチング・イン・アメリカ”の2曲。アトランタのロックバンド、ブレインズの“マネー・チェンジズ・エヴリシング”のカバー曲が収録。“サーチング・フォー・ア・フォーマー・クラリティー”が“トータル・クラリティー”と名前を変えアレンジ違いで収録され、計3曲の未発表曲と、アレンジ違いが12曲の計15曲が収録されている。

 これを聴けば、エモ界の名プロデューサーといわれたJ・ロビンスの趣向性が見えてくる。前回のデモ音源集の『オリジナル・カーボーイ』よりも、ギター・アレンジを導入し、隙間なく音を詰めこんでいる。しかも曲をボツにし、新たな曲と入れ替えたり、細部にまで音のこだわりをみせている。今作に限っていえば、そのアレンジのこだわりが、前作と似たような作品という評価を回避し、飛躍的に進歩した作品になっているのだ。名プロデューサーのこだわりが劇的にアルバム全体を良くしているのだ。

 ネイキッドでむき出しの生々しさがあった『オリジナル・カーボーイ』から研磨するように丁寧な仕上がりになった『エターナル・カーボーイ』と比べると、『トータル・クラリティー』からいろいろな音を加えていった『サーチング・フォー・ア・フォーマー・クラリティー』への仕上がりの過程は、全く違っていて面白い。その変化の過程を比べるだけでも価値のある作品だ。

2014/12/20

Against Me! (アゲインスト・ミー!)  『White Crosses (ホワイト・クロス)』

White CrossesWhite Crosses
Against Me!

Total Treble Music 2011-07-25
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 10年に発表された5作目。彼らの持ち味であったカーボイスタイルのメロディック・パンクな要素が薄れ、前作以上にメロディーに重点を置いた作品。ここまでくるとただのメロディック・パンク・バンドになってしまった気もする。だが、叩きつけるような強靭なリズムやアコースティックをベースにしたギターサウンドは健在である。

 よりメロディックに深化した今作は、前作の強靭なリズムとメロディーとコーラスに力を入れた路線を、さらに推し進めた作品といえるだろう。情熱に任せただ前へグイグイ進んでいくような熱気が魅力のボーカルも、いささか熱気が薄れ、丁寧に歌っている印象だ。たとえば“ビコウズ・オブ・ザ・シェイム”では、軽やかで繊細なピアノ音からは、ほんの少しの切なさを加えた優しい思慮深さを感じる。ずきずきする痛みとともにと名付けれれた“エイク・ウィズ・ミー”は、そのタイトルとは真逆の星空を見上げているようなロマンティックなバラード。“ワン・バイ・ワン”では、固い決意を感じさせる希望に満ちあふれた明るいメロディーが魅力。

 メロディーに力を入れたためか、全体的にホップで聴きやすく明るくカラッと爽やか。そして優しくロマンティックになった印象を受ける。本来彼らの魅力は、バーボンが似合う土臭いカーボーイのような男くささにあった。今回それがなくなり残念に感じる部分もある。だがこのポップさもさほど悪い作品というわけではない。ちゃんとスウィートな感情が込められているし、いままでなかった一面をさらけ出したという意味では、また違った魅力を引き出した作品といえるだろう。

 なお11年には、『ホワイト・クロス』に、ボーナストラックを4曲追加したディスク1に加え、『ブラック・クロス』というデモや未発表曲を収録した2枚組みのアルバムにヴァージョンを発表した。そちらのほうが彼らがなぜ、メロディックに深化したか、その過程がよく分かる。おそらく『エターナル・カーボーイ』と同じような作品を作りたくなかったから、今回メロディックに深化したのではないか。

2014/12/10

Against Me ! (アゲインスト・ミー!)  『Original Cowboy (オリジナル・カーボーイ)』


Original CowboyOriginal Cowboy
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Fat Wreck Chords 2009-07-06
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 09年にファットレック・コーズから発表された『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』のデモ音源。この作品が発売された経緯はよく分からないが、完成系である『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』と、デモ段階である『オリジナル・カーボーイ』では、異なる部分が多々あった。その理由は、アルバムを発表する際に、ファット・マイクの意向で、かなりの部分でサウンドに修正が加えられているからだ。確かにその修正のお陰で、『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』がすばらしい作品に仕上がったことに間違いはない。だが感情がダイレクトに伝わるシンプルな作りで、ネイキッドでむき出しの生々しさがあるこのデモを、異なる魅力のある作品として発表したかった気持ちもどこかにあったのだろう。だから今作の発表にいたったのではないか。

 たとえば“アンサッブスタンチニーデッド・ルモアーズ”の『オリジナル・カーボーイ』版では、コードギターの厚みのある音が中心だが、『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』版では逆にシンプルなアコースティックギターに変更がされている。また“ターン・ゾウズ・クラッピング・ハンズ・イントロ・アングリー・バレッド”の『オリジナル・カーボーイ』版は、いろいろと詰め込みカオスと化した音が、『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』版では整理されしっかりとまとめらている。『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』のほうが全体的に音が軽く、ブラッシュアップを重ねた『アズ・ザ・エターナル・カーボーイ』のほうが完成度はやはり圧倒的に高い。だが『オリジナル・カーボーイ』には、未熟さゆえの熱意や衝動といった魅力がある作品であることに間違いはない。

2014/12/07

Against Me ! (アゲインスト・ミー!)  『New Wave B-side (ニューウェーヴ B-side)』

Against_me__new_wave_bsides_cover

 08年に発表された。シングルのB面を集めたアウトテイク集。ダウンロードのみの販売。メジャーデビュー作となった“ニューウェーヴ”は、シングルカットされた曲が4曲もあった作品だったのだ。まず“ジプシー・パンサー”は、“ストップ”のB面に収録された曲。“ソー・マチ・モア”は、“ニューウェーヴ”のB面。“フル・セッシュ”は“ホワイト・ピープル・フォー・ピース”のB面。“アンタイトルテッド”は、アルバム『ニューウェーヴ』のデラックス・エディションに収録されたボーナストラック。“ユー・マスト・ビー・ウィリング”は“スラッシュ・アンリアル”のB面。計5曲が収録されている。

 5曲ともアルバムに収録されててもおかしくないくらい、クオリティーの高い曲だが、この曲たちが選考からもれた理由は、似たタイプの曲がアルバムに収録されているのと、アルバムの雰囲気とかけ離れた曲のためだろう。たからだろう。たとえば“ジプシー・パンサー”はリズムを重視した曲で“ソー・マチ・モア”と“アンタイトルテッド”メロディック・パンクな曲。“ホワイト・ピープル・フォー・ピース”とタイプがかぶっているから選考から外れたのだろう。

 そしてダブ調“フル・セッシュ”や“ユー・マスト・ビー・ウィリング”のアコースティック・バラードはいままでなかったタイプの曲だが、あまりにもアルバム世界観とはかけ離れているから、選考からもれたのだろう。だがこの2曲に関してはアゲインスト・ミーのなかでいままでなかったタイプの曲だ。ダブ調“フル・セッシュ”は闇夜にきらりと光るナイフのようなとがった曲で、枯れと渋みの効いた切ないバラードの“ユー・マスト・ビー・ウィリング”は、心にしみる名曲だったりする。この2曲のためだけに買うのもいいと思う。それほど価値のあるアウトテイク集だ。

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