プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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オルタナティヴ

2016/12/13

Vanishing Life (ヴァニシング・ライフ) 『Surveillance サーヴェイランス』

サーヴェイランスサーヴェイランス
ヴァニシング・ライフ

Hostess Entertainment 2016-12-21
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元ゴリラビスケッツのウォルター・シュレイフェルズ(Vo)、ライズ・アゲインストのザック・ブレア(Gt)、AND YOU WILL KNOW US BY THE TRAIL OF DEAD(アンド・ユー・ウィル・ノウ・アス・バイ・ザ・トレイル・オブ・デッド)のオートリー・フルブライト(ba)、バッド・レリジョンのジェイミー・ミラー(Dr)ら、アメリカパンク界のスパースターたちにより結成されたバンドのデビュー作。

そもそもこのバンドが結成された経緯は、ベースのオートリー・フルブライトがウォルターに声をかけたことがきっかけだそうだ。ウォルターは当初、オートリーが声をかけてれたが、何も起こらないと思っていたらしい。そしたらある日、ジェミーとオートリーがデモを作ってウォルターに送ってきたそうだ。坂を転げるように瞬く間にバンドが進展していったそうだ。

そんな経緯があるせいなのか、このバンドに関してウォルターは、サウンドのことに対してはほとんどノータッチで、すべてジェミーとオートリーとザックに任せている。もっぱらボーカルに専念しているそうだ。

ウォルターとしてはいままでバンドを組んだ人たちは、ほぼレベシューション・レコーズと関係した人たちだった。ニューヨーク・ハードコアのコミュニーティーに何が知ら関わっていた人たちとしてしか、バンドを組んだ経験がなかったそうだ。それが今回初めて、西海岸の人たちやメロコア、オルタナなどの違うジャンルの人たちとバンドを結成したそうだ。ウォルターにとって何もかも新しいチャレンジだったそうだ。

肝心のそのサウンドは、2コード2フレーズを繰り返していくエクスペリメンタルなポスト・ハードコア。煽情的な2コード2フレーズを、同じ調子、同じ勢い、同じ感情で突き抜けていく。ギターアレンジにこだわったサウンドで、ところどころにアンド・ユー・ウィル・ノウ・アス・バイ・ザ・トレイル・オブ・デッドぽさを感じることができる。だがライズ・アゲインストっぽさは全く感じられない。8曲目の“Image(イメージ)”などからはクイックサンドのようなギターを感じるし、聴けば一発でウォルターのギターだと分かるようなサウンドの曲もある。

サウンドに対しては全く関知していないというが、ところどころにウォルターのギターの個性を感じるのは、ぼくだけなのか?個人的にはこのバンドもまたウォルターの趣味が大爆発した作品といえる。

決してそれが悪いわけではない。むしろぼくはウォルターらしさを感じるからこそ、この作品がとても好きだ。その理由はシンプルな2フレーズ2コードを執拗に繰り返すことによって、むしろ混乱した内面世界のような複雑さが生まれているからだ。まるで印象派の画家の絵のように光の部分がはっきり目立つから余計に影の部分が際立ってくる。サイケデリックでありながら攻撃的で煽情的な気分を煽り立てるサウンドなのだ。サウンドの姿勢が攻撃的なパンクだし、とてもカッコいい音だ。個人的には今年はベスト10に入るほど好きな作品。

2015/09/13

DESAPARECIDOS (デサパレシドス) 『PAYOLA (ペイオラ)』


PayolaPayola
Desaparecidos

Imports 2015-06-28
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 15年6月に発表された2作目。じつに13年ぶりとなる作品。今回13年ぶりに2作目を発表した理由は、ブライト・アイズの活動が休止したのが原因だろう。ブライト・アイズは歪んたポップサウンドを取り入れたアコースティックで98年に発表したアルバム『レッティング・オブ・ザ・ハッピネス』で、彼らならではの田舎の悪しき風習を体現しているかのような暗くジメッとした世界観を確立した。

 その後『フィーバーズ・アンド・ミラーズ』でピアノやカントリーなどの楽器や音楽性を取り入れ、サウンドの幅をさらに広げた。そして『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ、モーニング』で美しいピアノの音色で世界感とは真逆の明るくポジティヴなサウンドへと変容を遂げた。その後オバー・コナースト名義のソロ作品を発表し、牧歌的なカントリーなどのアメリカルーツ音楽で原点を見つめ直し、安らぎと癒しに満ちたサウンドを展開。落ち着き払った鬱な世界観こそ共通しているが、シンプルな前衛的なアコースティックから、ビーチボーイズの『ペットサウンズ』のようなに多種な音楽を取り入れたサウンドを展開し、そしてルーツ音楽への回帰を図った。アルバムを発表するたび、いろいろなことにチャレンジしてきたのだ。だがその反面、毎回異なる音楽性のアルバムを発表することによって、表現しつくし、ブライト・アイズの音楽性自体が行き詰っていった。演りたいことをやりつくした。おそらくそれがブライトアイズの休止の理由だった。

 音楽性に行き詰っていたから、またもう一度鬱から躁へ変革する必要にも迫られていた。だから13年ぶりにデサパレシドスを復活させたのだろう。そんな経緯を経て発表された今作は、オーセンティックなアメリカンロックをベースにしたサウンドを展開している。前作ではノイズギターをベースにしたエモーショナル・ハードコアであったが、今作ではノイズギターがなくなり、代わりにエクスペリメンタルなギターフレーズを導入している。“ゴールデン・パラシュート”ではバリバリ電流が流れるようなギターのリフで、“ラディカリゼッド”ではムーヴシンセのような電極がゆがんだ不協和音なギターを導入している。マイナーで実験的な音を出し、屈折したサウンドを展開している。総じてフレーズにこだわったギターロックを楽しんでいる。前作も今作も世間一般では不快といわれるサウンドのなかにポップさを見出そうという姿勢に変化はない。だが今作のほうがノイジーな尖りない分、サウンドがクリアーになり丸くなったように感じる。しかし外へ向かってストレスを発散させていく爽快感は前作以上に強固になっている。

 今作では、アメリカ社会への政治的な怒りがテーマになっている。取り上げている内容は、移民改革、オバマケア、銃規制、ウォール街のことなど、アメリカ国内で起きた様々な問題を取り上げている。とくに怒りを感じているのが、大量殺人が起きているのに銃規制を強化しないアメリカ政府への怒りや、株投資だけで働かないで莫大な利益を得るウォール街や、リーマンショックで起きた金融危機で説明責任の欠如についてだ。

 前作と同様に怒りをぶちまけ、スカッとする爽快感あふれた内容の歌詞もある。だが今作ではそれだけではなく、富裕層への嘲りや、アメリカンドリームへの皮肉もある。とくに今作で歌詞が深い内容になっているのは“シティー・オン・ザ・ヒル”。そこでは豊かさを求めてアメリカに移住する移民のことを歌っている。貧しい国から豊かさを求めてアメリカに来たはずなのに、逆に富裕層に賃金を搾取され、自国以下の低賃金で働かされという現実。貧しい自国に住んでいるほうがまだ豊かな生活を送れたと、皮肉に満ちた内容で歌っている。

 前作同様、アルバム全体にはポップで熱く、青空のような爽快感あふれるサウンドを展開している。だがその明るさや熱さのなかには、スカッとした爽快感や、皮肉を嘲笑するポップな明るさという感情が散りばめられているのだ。深みを増した表現と、前作以上に実験性を増したギターサウンドがこのアルバムと魅力といえるだろう。個人的には前作のノイジーなギターサウンドのほうが好きだが、この実験性にあふれたギターを導入したこのアルバムも、かなりいい作品だ。

2015/08/01

Bikini Kill (ビキニ・キル)  『The First Two Records (ザ・ファースト・トゥー・レコーズ)』


The First Two RecordsThe First Two Records
Bikini Kill

Bikini Kill Records 2015-06-29
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 90年代を代表するライオット・ガールと呼ばれたフェミニスト運動のシーンの中心バンドであった、ビキニ・キルの94年にLPで発売された初期2枚のEP(S/T EP, Yeah Yeah Yeah)をカップリングし、2015年に再発された編集盤。

 具体的な内容を説明すると、1から6曲目までが、91年に発売されたセルフタイトルEPで、1から4曲目までは91年7月にフガジのイアン・マッケイによって録音された曲だ。5曲目は91年に制作されたデモで、6曲目は91年の4月4日にワシントンDCのサンクチュアリ劇場で演奏されたライヴを収録している。そして7から20曲目は93年に発表されたLP『Yeah Yeah Yeah』を収録。その内容はワシントンDCのセント・ステファンズで行われたライヴを収録している。

 7から13までは93年に発売されたLP盤からで、91年の12月27日にワシントンDCのセント・ステファンズで行われたライヴを収録。13から20は2014年に25周年を記念して発売された拡張版に収められていた曲で、うち4曲はワシントンDCの地下練習スペースで記録された曲で、そのほかの3曲はライヴ音源を収録している。

 あらためて聴いていると、彼女たちのサウンドとは、ラモーンズ直系のシンプルなパンク・ロック。録音状態が悪いせいか、そんなに荒々しさや迫力を感じない音作りだ。ジョーン・ジェットのようなはち切れんばかりの男勝りなロックや、パティー・スミスのスローテンポから急激にピッチが上がり、冷静なインテリジェンスから激昂に変わっていくような前衛的で文学性を前面に出したロック・サウンドと比べると、主だった個性がないのも特徴だ。

 強いて個性を挙げるのなら、ヒステリックで甲高い金切り声のボーカルくらいか。あとはいたって普通のパンク・ロックだ。だがこの普通という感覚が彼女たちにとっては重要な要素となる。なにせ彼女たちが求めていたことは、男性からすればいたって普通な権利だからだ。彼女たちが一貫して歌い主張してきたのは、女性の権利。女性であることによって会社での出世が絶たれたり、同じ学歴で同じ能力の男性より下の職業しかつけないアメリカ社会への不満。女性大統領が存在しない政治への不信。性差別をなくし男性優位社会へピリオドを打つ。ただ世の中に男女が平等であるべきことだけを求めていたのだ。だから彼女たちはいたって普通な女性であることを強調してきたため、ロックバンドという局面から見れば、そんなに注目されるほど際立った個性のある存在に映らなかった。ごく普通の女性らしい格好と、特徴のないシンプルなパンク・ロックという二つの要素が彼女たちの評価を希薄なものにしてしまったのだろう。それがライオット・ガールというシーンをメディアがあまり取り上げてくれなかった理由ではないか。

 だがライオット・ガールというシーンと彼女たちのフェミニスト思想を全面に掲げたパンク・ロックは、マイナー・スレットのストレート・エッヂや、バッド・ブレインズのポジティヴ・メンタル・アティテュードに匹敵するパンク思想であることは間違いない。思想の面を評価すれば、隠れた名盤なのだ。

2013/08/09

Rival Schools 『FOUND』/ライバル・スクールズ 『ファウンド』

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 13年にダウンロードとヴァイナルのみ発売された3?作目。本来なら、03年から04年かけて2作目として発表する予定だった作品だという。ところが録音したはずのマスターテープが紛失してしまい、しかも追い討ちをかけるようにバンド自体が解散してしまった。ところが11年に復帰作を発表。アルバム製作の過程においてマスターテープが見つかったという。そして失われたアルバムを発表するにいたった。そのアルバムは、見つけたという意味の“ファウンド”と名付けられた。

 そんな紆余曲折を経て発表された今作は、1作目の延長上にあるオルタナティブ・ロック・サウンド。基本的にはウォルターの個性である変則的なリフやトリッキーなギターサウンドを、さらに追求している。ここではさらにギターのエフェクトにこだわり、ワームをかけた歪んだ音やスピーカーの裏側で鳴らされているような音などがあり、そしてスピーカーから出される音が左右交互に入れ替わるなど、いろいろな試みをしている。今作でも相変わらず、一回聴けばウォルターのギターサウンドだと識別できるような個性を放っている。

 個人的にはとても好きな作品。ライバルスクールズの最高傑作として選んでもいいくらい、非常にクオリティーが高い。その理由はウォルターのギタリストとしての個性が遺憾なく発揮されているからだ。11年に発表した復帰作では、インストなどの別の要素からの影響が窺え、ウォルターの特徴的なギターが失われてしまった。この作品では、ウォルターらしさの上に、自分がやりたい実験性をちゃんと消化している。CDで発表しないのか、もったいないと思うくらい、いい出来の作品だ。

 なお11曲目の“ホワイ・キャント・アイ・タッチ・イット”はバズコックスのカヴァーだ。

2013/01/06

dredg 『チョックス&ミスター・スキュージー』

Chuckles & Mr. SqueezyChuckles & Mr. Squeezy
Dredg

Superball Music 2011-05-03
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 11年発表の5作目。劇的に変わった作品。今作ではビューティフル・ロックやプログレ、ギターロックの要素がなくなり、デジタルを全面に出した。『チョックス&ミスター・スキュージー』(ほくそ笑むミスター・スキューズィ氏)と名付けられた今作は、サウンド・コンセプトから制作方法にいたるまで、今までの作品と手法が異なっている。 曲を完成させるまでのプロセスも、メンバーが集まってジャムセッションをするのではなく、電子メールをつかって肉付けをし、完成させていった。そのやり取りだけでじつに8ヶ月の期間を要したという。そこで完成させた曲を、ピップ・ホップのDJシャドウや、ロック・バンドのゴリラズ、カサビアンなどのプロデューサーで知られるダン・ザ・オートメータの手によって、デジタルに味付けされていった。

 今作ではプログレや透明な美しさ、ギターサウンドこそなくなったが、端々に古きよきアメリカのサウンドを取り入れている。たとえば“アナザー・トライブ”ではダンスホールを取り入れ、“ザ・オーナメント”ではオールディーズのようなトランペットを取り入れた曲だ。そしてバーズの影響が強い爽やかで前向きな希望にあふれた“サン・ゴーズ・ダウン”などがある。そこに打ち込み系のデジタルな要素を加え現代風にアレンジした。曲の根幹のにある部分はあまり変わっていない印象を受けたが、デジタルを導入したため、ガラリと変わった。しかも、今作は前作までと違い、歌詞にもサウンドにもコンセプトがないようだ。ボーカルのギャビンの個人的な経験を歌詞にしている。

 とくに力を入れているのが、恐怖とも笑いとも取れる奇妙なお面のヴィジュアル・コンセプト。そのお面に象徴されるように、歌詞にもアイロニーや冷笑的な皮肉に満ちている。たとえば“アポン・リターニング”では、<あなたの気分を良くするのなら、私は嘘をつくことができます>と歌い、自分の本性を隠しピエロを演じている。“サムバディー・イズ・ラフィン”では<誰かがどこかで笑っている。多くの人々が答えを捜している>と、真剣に答えを捜すことへ無意味さに嘲笑が込められている。そして“ザ・フォート・オブ・ルーディング・ユー”では<今日は新しい日、苦痛を片付けた>と歌い、抱えていた心の痛みを片付けたことによって、将来が明るく希望が持てるものになったと言っている。いままでの超常現象や神秘的な内容が、現実的な日常の、屈折した内面に変わった。人間の深層心理や裏側に隠れている陰の部分を表現した作品といえるだろう。そういった意味では、いままでのシュルレアリスム的な、抽象的な世界観と異なっているし、新境地を開いた作品といえるだろう。

 しかしそこには彼らの個性である神秘的でサイケデリックな美しさがない。新しい試みを追求するあまり、デジタルを取り入れ、彼ら本来のよさを失ってしまった。それがこの作品の失敗の原因だ。だが個人的には不気味に笑っているミスター・スキュージーというキャラクターは好きだ。これがビューティフルなサウンドを有機的に結びついてくれれば、いい作品に仕上がったのではないか。そう思えてならない。

2012/12/27

dredg 『ザ・プライアン、ザ・パロット、ザ・ドゥルージョン』

Pariah the Parrot the Delusion (Dig)Pariah the Parrot the Delusion (Dig)
Dredg

Dredg 2009-06-09
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 05年に発表された4作目。前作『キャッチー・ウィザウト・アームス』は、エモ、プログレ、オルタナが混ざったビューティフルなロックなサウンドで、彼らの最高傑作だった。ロックバンドとして彼らの目指していたサウンドが完成したためか、今作では前々作の混沌としたサウンドを、さらに突き詰めている。もはやロックギターのサウンドではない。ビーチボーイズの『ペット・サウンズ』のような混沌とした曲から、ユートピアやピンク・フロイドが混ざったプログレ、 ファンク、アメリカンポップの曲などがあり、かなり雑然としている印象を受ける。

 今作では、イギリスとインドで活躍する小説家で、『悪魔の詩』の作家でも知られるサルマン・ラシュディのエッセ、『イマジン・ノー・ヘヴン』からインスピレーションを受け、制作されたそうだ。その本の内容は、「6億人が現在でも宗教紛争に巻き込まれている、その宗教は信仰深い人が多い。個人的が慰めるという意見では、その宗教は名前で行われた悪を補うより以上のことをしている。また、人間の知識が成長するのに従って、私たちがどうここに到着したかに関して、いままで話されたあらゆる宗教話が、全く間違っていることが明瞭になった」。と、書かれている。ぼくの英語力が乏しくこの作品が宗教批判をしているのかどうかはわからない。個人的には宗教批判に影響を受けた作品ではないと信じたい。ならこのエッセのどこに影響を受けたのかといえば、宗教を超越した超常現象や、宇宙や大自然など人間の領域を超えた形而上的な神秘主義に影響を受けたのだろうと思う。実際ムスリム社会に対して悪い印象のあるサルマン・ラシュディの小説だが、彼が書く物語の手法は、魔術的リアリズム(日常にあるものと日常にないものが融合した作品)と呼ばれ、不可知論がテーマになっている。

 日本語で『社会ののけ者、オウム(他人の言葉を繰り返す人)、妄想』と名付けられた今作は、奇妙さがテーマになっている。サウンドのベースになっているのは、ビーチボーイズの『ペット・サウンズ』。複雑なアレンジが万華鏡のようにくるくるとめまぐるしく変わる展開。たとえば1曲目の“プライアン”では、おとぎの国のようなメルヘンなサウンドがエピローグに進むにつれ爆撃音のような破壊的なギターサウンドに替わる展開で、“ライト・スウィッチ”では、帝政末期を彷彿させる絶望的に暗いオルガンの音から、ギターとボーカルのみミニマムな展開に。そして後半に進むにつれ、アメリカン・ポップスの要素が強くなってくる。上品なピアノの切ない曲やクリスマスのような神秘な曲もある。まるで、おもちゃ箱のように、不安や切なさメランコリー、憂鬱、喪失といった感情が乱雑に詰め込まれている。メルヘンで幻想的な傾向にあるが、総じてもの哀しく美しいサウンドだ。前作のロックギターのサウンドを1,2曲残しながらも、ポップスやアンビエントなどを貪欲に取り入れ、厚みの増した成長を遂げている。ロック的なカタルシスを求めている人には物足りなさを感じるかもしれないが、いい意味で成長している。これはすばらしい作品だ。



2012/12/16

dredg 『ライヴ・アット・ザ・フィルモア』

Live at the FillmoreLive at the Fillmore
Dredg

Interscope Records 2006-11-07
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 06年に発表されたライヴ・アルバム。この作品を発表した理由は、ひとつの区切りとなる時期を迎えていたからだろう。前年に発表した『キャッチー・ウィザウト・アームス』は、抽象的でビューティフルなサウンドという、彼らの個性を確立した作品だった。だからいい状態のライヴを、作品として残したかったのだろう。会場はサンフランシスコにあるフィルモアというライヴ・ハウスで行われた。

 フィルモアといえば、フラワー・ムーブメントを育て、モンタレーやウッドストックなどのロック・イベントを裏で支え、ライブ・エイドやアムネスティー・ツアーなどのチャリティー・イベントを実践したロック界を代表するプロモーター、ビル・グレアムによって創設されたライヴ・ハウス。その会場を選んだ理由は、おそらく彼らもイノベイターとしての意識が強かったからではないか。そこには新宿ロフトの伝統に敬意を払っている日本の有名バンドのような、演奏できることへの誇りを感じる。適度な緊張感を感じるし、自然と力の入ったいいライヴを展開している。

 アルバムでは物語性とコンセプトにこだわっている彼らだが、このライヴでは、ビューティフルなサウンドへの徹底的なこだわりを見せている。3枚のアルバムからバランスよく選曲され、綺麗にひとつにまとめられている。ここでは1stや2ndのころのゴツゴツとした歪さや店舗を無視した強引な部分は、大幅にアレンジの変更がなされている。たとえば“Whoa is me”では、ホーンを使い、上品なジャズナンバーに変更され、“catch without arms”のラストを飾る“マショトーリカ”のアウトロ(the ornament)が、ボーカル付きにアレンジされている。“90アワ・スリープ”では、スピードが増していく終わり方。またここでしか聴けない新曲"The Warbler"や、『キャッチ・ウィザウト・アームス』のB-side、 "ストーン・バイ・ストーン"なども収録されている。サイケ調の不穏な空気からは始まり、同じ夢を繰り返し見ているような奇妙な中盤、そして夜明けのようなトランシーな曲で幕が閉じていく展開で終わっていく流れもいい。

 そうこの作品は、未発表曲を収録したレアな作品でもあると同時に、手直しされ磨かれた曲たちや、適度に漂っているいい意味での緊張感から、メンバー、一人ひとりが同じ方向で情熱が交わっている奇跡の瞬間を収録したライヴ盤といえるだろう。彼らの一番言い状態を収録したベスト盤といえる重要な作品だ。

2012/12/08

dredg 『キャッチ・ウィザウト・アームス』

Catch Without ArmsCatch Without Arms
Dredg

Interscope Records 2005-06-21
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 05年に発表した3作目。今作ではゴツゴツした聞きづらさがなくなり、ポップに聴きやすく変化した。大衆受けするサウンドに変化したため、ビルボードで124位を獲得した。結果、彼らの出世作となり、最も売れた作品だ。

 今作では、ソニックユースのようなノイジーなギターに、ヴァーヴのようなブリットポップが加わった。まるで蜃気楼のようなまぼろしを見ているかのようなスライドギター。音のない空間の隙間が寂寥感に満ちているピアノの音。神経質なまでに繊細でナイーブなギターメロディー。流れる川のようになめらかで憂いを含んだ美しい声のボーカル。心を癒してくれるようなアンビエントなサウンド。そのサウンドは寂しさや悲しみに満ちている。だがその悲しみが叙情的なまでに美しい。まるで海に沈んだ海底都市を見ているような手付かずの無垢と、一時の楽園の幻想を思い描いているような美しさだ。ビューティフル・エモの先駆けといえるような美しいサウンドだ。

 今作では、サウンドも歌詞もコントラスト(対照)がコンセプトになっている。ここでいう対照とは、天使と悪魔、欲望と犠牲と奉仕、愛と憎しみなど。しかも二部構成になっていて、1曲目の“オード・トゥ・ザ・サン”から7曲目までの“サング・リアル”が第一部で、8曲目の“プランティング・シードルズ”から12曲目の“マトリショーカ”までが第二部となっている。第一部は上記した内容の対照。第二部は、麻薬常習者や別れた彼女についてなど、他者を通した俯瞰的な内容が目立つ。相克する内面を歌詞にした第ー部と、三人称で外の世界を俯瞰した第二部。第一部の2面性ある内面の対照。一部と二部を通じた外と内との対照。2重の意味で、正反対の合わせ鏡のようなコントラストになっているのだ。アートワークにも意味があるようだが、その絵は抽象的で真の意味が分かりづらい。この抽象的な絵は、直接的および間接的に、歌詞やサウンドに関係しているようだ。アルバムが発表される数週間の間、公式ウェブサイトで、いろいろな手がかりが提示された。いろいろなヒントをサイトで提示する手法は、まさにデヴィット・リンチの映画のようだ。

 個人的な感想を言えば、前作と比べると、この作品ではサウンドの難解さが取り払われている印象を受けた。サウンド的には抽象性と、精神の混乱のようなカオスがなくなり、一方向ですっきりとまとめられている。ビューティフルなサウンドで統一されて、感情のベクトルも曲によって悲しみや寂寥などの一方向に定められているため、聴きやすい。個人的には、わけの分からない混沌としたカオスが彼らならではの個性だと思っているし、好きだった。だが今作は圧倒的に聴きやすいし、ビューティフルな芸術性がある。それも悪くないし、いい作品だと思う。

2012/11/25

dredg 『エル・シエロ』

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Interscope Records 2002-10-08
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 02年に発表された2作目。軽やかな儚さや脆さが魅力だった前作と比べると、トランシーで神秘的な方向に変化した。荒々しさや激しさこそ増しているが、骨太さはなくなっている。今作ではアジア音楽やゴアトランスなどの要素を取り入れている。そこにソニックユースのようなノイジーな壁のギターや、不気味な子守唄のように妖しげなボーカルの歌声、シンプルなピアノの曲、オーロラのように波打つ不穏なシンセなどが切り貼りされ、何の脈略もなく連鎖的に続いていく。今作も前作と同様、インストゥルメンタルの曲とボーカルを乗せた曲が交互に進む展開だ。

 今作では1曲目のブラシストロークのイントロが11目で繰り返されている。そこでは始まりが同じで内容が悪夢へと変わる睡眠中に見る夢のように、心地よいやすらぎが無力な絶望へと変わっていく。ドロドロとした暗さがある。この変化の理由はコンセプトにある。今作ではシュルレアリズムの画家サルバトール・ダリの『目覚めの直前、柘榴のまわりを一匹の蜜蜂が飛んで生じた夢』がコンセプトになっている。この絵はフロイトの『精神分析入門』からイスパイヤーされて描かれ、目覚めの原因となる瞬間的な出来事によって、一連の長い筋をもった夢が生じる、というフロイトの発見をヴィジュアル化した作品だ。

 例えば5曲目の“△”では、幸運のなかの静けさという象徴的な出来事があって、そこに海岸での爆発が起き墓の隣に花が咲き、赤ちゃんが生まれ、私たちは砂漠でペンギンのように生きていくと、不条理な出来事が連鎖的に結びついていく。歌詞は、実際に金縛りや悪夢にうなされている人々が、彼らに送った手紙から直接引用している。実際の体験に基づいた内容なのだ。

 そこにあるのは後味の悪さ。まるで心地よい安らぎを奪われ、地獄に突き落とされるような恐怖と苦しみがある。先に幸福を経験している分だけ、苦しみも倍増して感じる。しこりが残る後味の悪い映画を見たときのような憂鬱な気分になる。

 だがこの作品のすばらしさは、二律背反のアプローチのしかたにある。ほとんどのバンドが静と動といった極端な表現しか出来ないなか、彼らは明るさから暗さが重なり、連鎖しさらに重くなっていくといった唯一無二の表現方法を獲得している。そういった意味で、サウンドも歌詞も彼らしかありえないオリジナルティーが今作もあるのだ。これもすばらしい作品だ。

2012/11/13

dredg 『ライトモチーフ』

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Dredg

Interscope Records 2001-09-11
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 98年に発表されたカルフォルニア出身のインディー・ロックバンドのデビュー作。ひさびさに自分の音楽知識をなさを再認識させられるような、独特なサウンドを展開しているバンドにあった。サウンドのベースになっているのは、初期レモンヘッズやダイナソーjrに代表されるノイジーなオルタナティヴ・ロック。そこに軽やかで浮遊感のあるポストロックや、エモーショナル・ハードコア、サイケや東欧調のメロディーに、ジャズの要素を加え、奇抜なメロディーで、彼らならではのオリジナルティー溢れるサウンドを展開している。

 アメリカではエクスペリメンタルロック、アートロック、プログレなどと呼ばれ、よくTOOLが引き合いにだされている。だがそのサウンドは180度異なる。まず暗く重いメタルの要素が彼らにはない。共通項といえば、知的で幾何学的な難解さをもつアートな世界観くらいか。 彼らのまたジョー・オブ・アークのように、少数派しか受け入れずらいサウンドを展開している。

 このアルバムは、イントロと歌ものが交互に続き、コンセプトアルバムらしく、曲の特定の部分と、人物、場所などを関連付け、ミュージカル風に仕上げているらしい。たとえば、舞い散る桜のような儚いメロディーの“クロスウィンドウ・メヌエット”から、孤独で静謐なアコースティックの“トラバース・スルー・ザ・アークティック・コールド・ウィー・サーチ・フォー・ザ・スピリット・オブ・ユタ”と続いていく流れでは、北国の過酷な冬をフィーチャーしたイントロを奏で、<北極の終わりまで横断する。私たちはユタの精神を探索するために>という言葉がキーワードになっている。シャーマンが呪文のような触れたら崩れてしまいそうな儚く弱々しいコーラスと、寂しさと孤独に満ちた繊細で軽やかなギターメロディーがある。そこでは大自然という偉大な力の前で感じる人間の脆さや弱さと、祈りや精神世界という神秘な力をサウンドで表現している。それが彼ら独特のサウンドの正体なのだ。


 独特な音のメロディーを、ロックのなかに実験的に取り入れ、サウンドの奇抜さや、不細工のなかに美を見出そうとしている。けっして一般受けするサウンドではないが、個人的には、ひさびさに〇〇っぽいと感じない、彼らしか奏でていない独特なサウンドを展開しているバンドに出会った。そういった意味でも評価できるし、これはすばらしい作品だ。

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