プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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インディーロック

2016/12/13

Vanishing Life (ヴァニシング・ライフ) 『Surveillance サーヴェイランス』

サーヴェイランスサーヴェイランス
ヴァニシング・ライフ

Hostess Entertainment 2016-12-21
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元ゴリラビスケッツのウォルター・シュレイフェルズ(Vo)、ライズ・アゲインストのザック・ブレア(Gt)、AND YOU WILL KNOW US BY THE TRAIL OF DEAD(アンド・ユー・ウィル・ノウ・アス・バイ・ザ・トレイル・オブ・デッド)のオートリー・フルブライト(ba)、バッド・レリジョンのジェイミー・ミラー(Dr)ら、アメリカパンク界のスパースターたちにより結成されたバンドのデビュー作。

そもそもこのバンドが結成された経緯は、ベースのオートリー・フルブライトがウォルターに声をかけたことがきっかけだそうだ。ウォルターは当初、オートリーが声をかけてれたが、何も起こらないと思っていたらしい。そしたらある日、ジェミーとオートリーがデモを作ってウォルターに送ってきたそうだ。坂を転げるように瞬く間にバンドが進展していったそうだ。

そんな経緯があるせいなのか、このバンドに関してウォルターは、サウンドのことに対してはほとんどノータッチで、すべてジェミーとオートリーとザックに任せている。もっぱらボーカルに専念しているそうだ。

ウォルターとしてはいままでバンドを組んだ人たちは、ほぼレベシューション・レコーズと関係した人たちだった。ニューヨーク・ハードコアのコミュニーティーに何が知ら関わっていた人たちとしてしか、バンドを組んだ経験がなかったそうだ。それが今回初めて、西海岸の人たちやメロコア、オルタナなどの違うジャンルの人たちとバンドを結成したそうだ。ウォルターにとって何もかも新しいチャレンジだったそうだ。

肝心のそのサウンドは、2コード2フレーズを繰り返していくエクスペリメンタルなポスト・ハードコア。煽情的な2コード2フレーズを、同じ調子、同じ勢い、同じ感情で突き抜けていく。ギターアレンジにこだわったサウンドで、ところどころにアンド・ユー・ウィル・ノウ・アス・バイ・ザ・トレイル・オブ・デッドぽさを感じることができる。だがライズ・アゲインストっぽさは全く感じられない。8曲目の“Image(イメージ)”などからはクイックサンドのようなギターを感じるし、聴けば一発でウォルターのギターだと分かるようなサウンドの曲もある。

サウンドに対しては全く関知していないというが、ところどころにウォルターのギターの個性を感じるのは、ぼくだけなのか?個人的にはこのバンドもまたウォルターの趣味が大爆発した作品といえる。

決してそれが悪いわけではない。むしろぼくはウォルターらしさを感じるからこそ、この作品がとても好きだ。その理由はシンプルな2フレーズ2コードを執拗に繰り返すことによって、むしろ混乱した内面世界のような複雑さが生まれているからだ。まるで印象派の画家の絵のように光の部分がはっきり目立つから余計に影の部分が際立ってくる。サイケデリックでありながら攻撃的で煽情的な気分を煽り立てるサウンドなのだ。サウンドの姿勢が攻撃的なパンクだし、とてもカッコいい音だ。個人的には今年はベスト10に入るほど好きな作品。

2014/05/01

Twin Forks (ツイン・フォークス)  『LP』

Twin ForksTwin Forks
Twin Forks

Dine Alone Records 2014-02-24
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 14年2月に発表されたデビューアルバム。昨年の発売されたデビューEPは、ダウンロードのみの販売であったが、デビューアルバムはCDで発売された。EPに引き続き、アメリカン・フォークやカウボーイ・カントリーなどの40年代から50年代のアメリカ白人のルーツ・ミュージックをコンセプトに、アコースティック・ギターが中心のサウンドを展開している。

 アルバムは全12曲で、うち5曲はEPからの曲。今回7曲の新曲が収録されている。前EPに収録された5曲は、ルーツ・ミュージックに忠実な演奏で、アップテンポで至福感に満ちた曲だった。ところが新曲では、スローテンポのバラードが多い。“デンジャー”はかすれた歌声で、“リーズンド・アンド・ラフィンド”ではキャンプファイヤーで歌われるような夜空を見ながら歌うバラードのような歌だ声。牧歌的で味わい深いフォークを展開しているのだ。新曲ではちょっと時代が新しくなり、60年代後半から70年代前半のフォーク・ソングにチャレンジしている。

 全曲、ルーツ・ミュージックに忠実なサウンドで、オリジナルティーこそ希薄だ。だがこのアルバムのなによりすばらしい部分は、クリスがこれまでになく多彩な表情を見せているところだ。たとえば“クロス・マイ・マインド”では豊作を祝うような祝祭的な楽しいムードで、“キス・ミー・ダーリング”では、好きな人に想いが届いて欲しいと願う愛らしさが伝わってくる。また“プランズ”では、悲しみと切なさに満ちている。これほど喜怒哀楽の表情を見せたのは初めてではないか。その多彩な感情が、クリスの歌声の魅力をさらに際立たせ、聴くものをその世界に引き込む。クリスの想いが素直に共感できるし、感動さえある。同じ気持ちになれる。それがこの作品の魅力なのだ。

 
 この作品は、クリス・ギャラハーのボーカリストとしての魅力と可能性を、さらに押し広げた作品といえるだろう。クリス・ギャラハーというソロ名義では、オルタナティヴ・ロックなどの自分が好きだった音楽という原点を見つめ直し、そのあと再結成したファーザ・シームス・フォーエバーでは、音楽を始めたときの初期衝動を取り戻した。そして今作ではアメリカ・ルーツミュージックを追求することによって、いろいろな歌い方と多彩な感情を獲得した。もはやダッシュボード・コンフェッショナルの初期ころに歌っていた女の子に振られたときの悔しさや悲しみといった感情を表現することはできない。女の子にフラれた当時の気持ち自体、失ってしまった純粋さや感情なのかもしれない。だが、ある意味それしかなっかた当時のころと比べると、圧倒的にヴァラエティーが広がっている。クリスの円熟とは、枯れや深みを表現するのではなく、貪欲にいろんなものを取り入れ多彩な表現を獲得している部分なのだ。いろいろな音楽を吸収することによって、クリス・ギャラハーの美声がさらに磨きがかかっている。そういった意味ではいい年の取り方をし、ミュージシャンとしていい方向に成長している。

2013/05/30

フランク・ターナー  『テープ・ディック・ハート』

Tape Deck HeartTape Deck Heart
Frank Turner

Interscope Records 2013-04-23
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 13年に発表された5作目。前作、『イングランド・キープス・マイ・ボーンズ』は、大手インディーレーベルのエピタフと契約をしたことも手伝って、世界的な名声を獲得する作品になった。その内容はアコースティックギターを中心とした語り引きで、イングランドの歴史と伝統や死をテーマにしていた。そして今作では、前作のブレイクをきっかけにメジャーデビューを果たし、さらなる飛躍を遂げた。

 今作ではバンド形態となり、バラエティー豊かな作品に仕上がった。厳密にいえば、前作からバンド形態に移行していた。たが、あくまでフランク・ターナー自身がメインで、曲はアコースティックギターの語り引きが大半を占めていた。ドラムやベースを入れたバンドサウンドの曲も、メンバーの意見はそこには反映されておらず、あくまでプロジェクトの延長上にあった。それが今作では、ベン・ロイの独特の弾き方など、メンバーそれぞれの特徴が顕著に反映されている。サウンドの根底にあるのは、グランジやエモなどのアメリカロックからの影響だ。そこにアイルランドの民族音楽や、イギリスの古典的なロック、ビリー・ジョエルのような上品なピアノの曲を加え、イギリス・フォーク風な味付けをしている。そこにはまるでシャーロック・ホームズの世界観のような、ジメジメと湿っていながらも、イギリスの伝統を重んじる誇り高さと気品が漂っている。フランク・ターナーらしいオリジナルなサウンドを確立したのは、今作からといえるだろう。

 王道のアコースティックギターの語り引きの曲も今作でも健在だが、死や英国の伝統などの外へ視野を向けた内容がテーマだった『イングランド・キープス・マイ・ボーンズ』とはうって変わり、今作では、失恋などのパーソナルな内容で、自分の内面世界に焦点を当てている。今作を制作する前、フランク・ターナー自身、長く付き合っていた恋人と別れたそうだ。このアルバムは、その失恋の後に書かれた作品で、倦怠期を迎えたときに起こりうる出来事について書いて、歌詞を書いたそうだ。テーマは、長く続いた恋愛の終焉だそうだ。

 アルバムは、失恋から立ち直り清々しさが漂っている“リカバリー”から始まり、心に受けた傷を急速に洗い流すような癒しのメロディーが印象的な“プレイン・セーヴィング・ウェザー”へと進んでいく。そしてよりを戻そうとして努力した結果、修復できず、何も出来ない悔しさと無力感が漂っている“グッド&ゴーン”と、別れの兆候が漂い、心を引きちぎられるような想いを歌った“テル・テイル・サインズ”を挟み、過ちと懺悔の気持ちの気持ちを歌った“エニーモア”と進み、最後は喪失感と孤独に満ちた“ブロークン・ピアノ”で終わる。曲が進むにつれ、過去の古傷を探っていくような、暗く悲しい憂鬱な気持ちになっていく展開だ。

 ミュージシャンは、失恋をすると名曲が2曲生まれるという話をよく耳にする。そのつらい気持ちをメロディーと歌詞に置き換え、人々の共感を生むためだ。彼もそれに習い、サウンドのバラエティーの豊かさと、傷口をあやす優しいメロディーなどが、ブラッシュアップされ、ミュージシャンとしてレベルアップしている。今まで感じることの出来なかった感情を理解し、歌詞で表現することが出来るようになった。そういった意味では飛躍的に成長を遂げた作品だ。

 だがいままで彼の特徴であった特定の人物を攻撃した皮肉に満ちた歌詞や、流行や政治への批判、夢に向かって熱く情熱的に生きているパンク・ソングは、今作にはない。イギリス人らしいウイットの利いたブラック・ユーモアもない。フォーク・パンクと呼ばれた彼の個性がなくなってしまった。そういった部分では、いささか寂しい気がする。 だがそれは12年8月に立ち上げたサイドプロジェクト、モンゴル・ハーデーで、“ハウ・ザ・コニュニストズ・ルーインド・クリスマス”(共産党はクリスマスを破滅させる)や、“テープワーム・アップライジング”(サナダ虫の暴動・・・・お腹のなかで寄生虫が暴れること)シリアスな内容について歌っている。そこではブラッグ・フラッグやマイナー・スレッドなどのクラシックなハードコアを展開している。そちらの活動も今後楽しみだ。

2012/12/27

dredg 『ザ・プライアン、ザ・パロット、ザ・ドゥルージョン』

Pariah the Parrot the Delusion (Dig)Pariah the Parrot the Delusion (Dig)
Dredg

Dredg 2009-06-09
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 05年に発表された4作目。前作『キャッチー・ウィザウト・アームス』は、エモ、プログレ、オルタナが混ざったビューティフルなロックなサウンドで、彼らの最高傑作だった。ロックバンドとして彼らの目指していたサウンドが完成したためか、今作では前々作の混沌としたサウンドを、さらに突き詰めている。もはやロックギターのサウンドではない。ビーチボーイズの『ペット・サウンズ』のような混沌とした曲から、ユートピアやピンク・フロイドが混ざったプログレ、 ファンク、アメリカンポップの曲などがあり、かなり雑然としている印象を受ける。

 今作では、イギリスとインドで活躍する小説家で、『悪魔の詩』の作家でも知られるサルマン・ラシュディのエッセ、『イマジン・ノー・ヘヴン』からインスピレーションを受け、制作されたそうだ。その本の内容は、「6億人が現在でも宗教紛争に巻き込まれている、その宗教は信仰深い人が多い。個人的が慰めるという意見では、その宗教は名前で行われた悪を補うより以上のことをしている。また、人間の知識が成長するのに従って、私たちがどうここに到着したかに関して、いままで話されたあらゆる宗教話が、全く間違っていることが明瞭になった」。と、書かれている。ぼくの英語力が乏しくこの作品が宗教批判をしているのかどうかはわからない。個人的には宗教批判に影響を受けた作品ではないと信じたい。ならこのエッセのどこに影響を受けたのかといえば、宗教を超越した超常現象や、宇宙や大自然など人間の領域を超えた形而上的な神秘主義に影響を受けたのだろうと思う。実際ムスリム社会に対して悪い印象のあるサルマン・ラシュディの小説だが、彼が書く物語の手法は、魔術的リアリズム(日常にあるものと日常にないものが融合した作品)と呼ばれ、不可知論がテーマになっている。

 日本語で『社会ののけ者、オウム(他人の言葉を繰り返す人)、妄想』と名付けられた今作は、奇妙さがテーマになっている。サウンドのベースになっているのは、ビーチボーイズの『ペット・サウンズ』。複雑なアレンジが万華鏡のようにくるくるとめまぐるしく変わる展開。たとえば1曲目の“プライアン”では、おとぎの国のようなメルヘンなサウンドがエピローグに進むにつれ爆撃音のような破壊的なギターサウンドに替わる展開で、“ライト・スウィッチ”では、帝政末期を彷彿させる絶望的に暗いオルガンの音から、ギターとボーカルのみミニマムな展開に。そして後半に進むにつれ、アメリカン・ポップスの要素が強くなってくる。上品なピアノの切ない曲やクリスマスのような神秘な曲もある。まるで、おもちゃ箱のように、不安や切なさメランコリー、憂鬱、喪失といった感情が乱雑に詰め込まれている。メルヘンで幻想的な傾向にあるが、総じてもの哀しく美しいサウンドだ。前作のロックギターのサウンドを1,2曲残しながらも、ポップスやアンビエントなどを貪欲に取り入れ、厚みの増した成長を遂げている。ロック的なカタルシスを求めている人には物足りなさを感じるかもしれないが、いい意味で成長している。これはすばらしい作品だ。



2012/12/16

dredg 『ライヴ・アット・ザ・フィルモア』

Live at the FillmoreLive at the Fillmore
Dredg

Interscope Records 2006-11-07
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 06年に発表されたライヴ・アルバム。この作品を発表した理由は、ひとつの区切りとなる時期を迎えていたからだろう。前年に発表した『キャッチー・ウィザウト・アームス』は、抽象的でビューティフルなサウンドという、彼らの個性を確立した作品だった。だからいい状態のライヴを、作品として残したかったのだろう。会場はサンフランシスコにあるフィルモアというライヴ・ハウスで行われた。

 フィルモアといえば、フラワー・ムーブメントを育て、モンタレーやウッドストックなどのロック・イベントを裏で支え、ライブ・エイドやアムネスティー・ツアーなどのチャリティー・イベントを実践したロック界を代表するプロモーター、ビル・グレアムによって創設されたライヴ・ハウス。その会場を選んだ理由は、おそらく彼らもイノベイターとしての意識が強かったからではないか。そこには新宿ロフトの伝統に敬意を払っている日本の有名バンドのような、演奏できることへの誇りを感じる。適度な緊張感を感じるし、自然と力の入ったいいライヴを展開している。

 アルバムでは物語性とコンセプトにこだわっている彼らだが、このライヴでは、ビューティフルなサウンドへの徹底的なこだわりを見せている。3枚のアルバムからバランスよく選曲され、綺麗にひとつにまとめられている。ここでは1stや2ndのころのゴツゴツとした歪さや店舗を無視した強引な部分は、大幅にアレンジの変更がなされている。たとえば“Whoa is me”では、ホーンを使い、上品なジャズナンバーに変更され、“catch without arms”のラストを飾る“マショトーリカ”のアウトロ(the ornament)が、ボーカル付きにアレンジされている。“90アワ・スリープ”では、スピードが増していく終わり方。またここでしか聴けない新曲"The Warbler"や、『キャッチ・ウィザウト・アームス』のB-side、 "ストーン・バイ・ストーン"なども収録されている。サイケ調の不穏な空気からは始まり、同じ夢を繰り返し見ているような奇妙な中盤、そして夜明けのようなトランシーな曲で幕が閉じていく展開で終わっていく流れもいい。

 そうこの作品は、未発表曲を収録したレアな作品でもあると同時に、手直しされ磨かれた曲たちや、適度に漂っているいい意味での緊張感から、メンバー、一人ひとりが同じ方向で情熱が交わっている奇跡の瞬間を収録したライヴ盤といえるだろう。彼らの一番言い状態を収録したベスト盤といえる重要な作品だ。

2012/12/08

dredg 『キャッチ・ウィザウト・アームス』

Catch Without ArmsCatch Without Arms
Dredg

Interscope Records 2005-06-21
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 05年に発表した3作目。今作ではゴツゴツした聞きづらさがなくなり、ポップに聴きやすく変化した。大衆受けするサウンドに変化したため、ビルボードで124位を獲得した。結果、彼らの出世作となり、最も売れた作品だ。

 今作では、ソニックユースのようなノイジーなギターに、ヴァーヴのようなブリットポップが加わった。まるで蜃気楼のようなまぼろしを見ているかのようなスライドギター。音のない空間の隙間が寂寥感に満ちているピアノの音。神経質なまでに繊細でナイーブなギターメロディー。流れる川のようになめらかで憂いを含んだ美しい声のボーカル。心を癒してくれるようなアンビエントなサウンド。そのサウンドは寂しさや悲しみに満ちている。だがその悲しみが叙情的なまでに美しい。まるで海に沈んだ海底都市を見ているような手付かずの無垢と、一時の楽園の幻想を思い描いているような美しさだ。ビューティフル・エモの先駆けといえるような美しいサウンドだ。

 今作では、サウンドも歌詞もコントラスト(対照)がコンセプトになっている。ここでいう対照とは、天使と悪魔、欲望と犠牲と奉仕、愛と憎しみなど。しかも二部構成になっていて、1曲目の“オード・トゥ・ザ・サン”から7曲目までの“サング・リアル”が第一部で、8曲目の“プランティング・シードルズ”から12曲目の“マトリショーカ”までが第二部となっている。第一部は上記した内容の対照。第二部は、麻薬常習者や別れた彼女についてなど、他者を通した俯瞰的な内容が目立つ。相克する内面を歌詞にした第ー部と、三人称で外の世界を俯瞰した第二部。第一部の2面性ある内面の対照。一部と二部を通じた外と内との対照。2重の意味で、正反対の合わせ鏡のようなコントラストになっているのだ。アートワークにも意味があるようだが、その絵は抽象的で真の意味が分かりづらい。この抽象的な絵は、直接的および間接的に、歌詞やサウンドに関係しているようだ。アルバムが発表される数週間の間、公式ウェブサイトで、いろいろな手がかりが提示された。いろいろなヒントをサイトで提示する手法は、まさにデヴィット・リンチの映画のようだ。

 個人的な感想を言えば、前作と比べると、この作品ではサウンドの難解さが取り払われている印象を受けた。サウンド的には抽象性と、精神の混乱のようなカオスがなくなり、一方向ですっきりとまとめられている。ビューティフルなサウンドで統一されて、感情のベクトルも曲によって悲しみや寂寥などの一方向に定められているため、聴きやすい。個人的には、わけの分からない混沌としたカオスが彼らならではの個性だと思っているし、好きだった。だが今作は圧倒的に聴きやすいし、ビューティフルな芸術性がある。それも悪くないし、いい作品だと思う。

2011/04/12

ペレ 『エネミーズ』

EnemiesEnemies
Pele

Polyvinyl Records 2002-10-15
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 03年発表の5作目。ラストアルバム。もはや青葉が萌えるよう透明さはなくなった。癒し系インストメンタルであることに変わりはないが、ノイジーな雑音が主張し、にぎやかに変化している。

 今作では、ラップトップパソコンを使ったジョンの存在が目立つ。インストメンタルのバンドサウンド自体に変化はないが、その隙間を這うようにスペイシーな効果音から、エラー音、いびつなデジタル音などの雑音が、ささやかに主張している。手拍子やシャウトなども加わり、雑多感も増している。ギターメロディーもフラメンコなどの要素も加わりヴァラエティーが豊かに。持ち前の透明なメロディーに、隙間を這うように雑音が絡み合うサウンドからは、まるでおもちゃの缶詰のように何が出てくるか分からないワクワクするような楽しさがある。

 穏やかで大人しい印象が強かった前作と比べると、のびのびとした躍動感がある。穏やかで静かな森林が前作だとすると、今作ではそのなかの小鳥たちのさえずりや小さな生命の営みなどの大自然の細やかな雑多な音まで表現しているようだ。そこにある雰囲気は、軽快で明るく愉しげ。おそらく彼らの最高傑作を3作目に挙げるひとが多いと思うが、個人的には一番好きな作品だ。その理由は、前作までにあったまじめな堅苦しさが抜け、どこか吹っ切れたような無邪気さと遊び心に満ちているからだ。

 しかし彼らは、この作品のあと、TOEとのスプリットを04年に発表し解散してしまう。おそらく4作品目で演りたいことをやりつくし、この5作目で実験的な遊び心にあふれたアルバムを作ったのだろう。世間的な評価は気にせずに。だから解散をしたのではないか。だがこの作品のクオリティーは高く、いまだにその解散が惜しまれるほど燦然と輝いている。ぼくはこの作品の雑多感と無邪気さが、なんともいえないほど好きだ。

2011/04/06

ペレ 『ヌードズ』

The NudesThe Nudes
Pele

Polyvinyl Records 2000-09-19
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00年に発表された4作目。木陰でまどろんでいるようなインストメンタルと、サウンドフォーマットこそ変わりがない。だが多彩な楽器やギターアレンジを加え、着実に深化を遂げている。

今作ではアコースティックや木琴などを使い、メロディーのバラエティーが格段に増えた。とくにドラミングがすばらしい。和太鼓の縁を叩いているかのような渇いたトライバルなリズムが、まるで深い森の奥に足を見込むような神秘的な雰囲気と、ワクワクするような期待感に満ちている。結果、前作よりも躍動感があり、黄昏もある。よりお洒落になった。

そのほかにも変則的なリズムやメロディーフレーズを取り入れ、複雑さが増している。この癒しに満ちた若葉に彩られた大自然をフィーチャーした世界観を、さらに奥深く深淵に追求しているのが理解できる。前作よりも成長を感じさせる作品だ。

2011/04/04

ペレ 『エレファント』

ElephantElephant
Pele

Polyvinyl Records 2003-06-17
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 ミルウォーキー出身のインストメンタル・バンドの99年に発表された3作目。そこに02年の来日ライヴ音源を、3曲加えたリメイク盤。03年にポリビニール・レコーズから発売。ポリビニール・レコーズといえば、日本ではブレイドなどのエモバンドが所属しているレーベルとして知られている。しかしアメリカから見れば、実験的で一癖あるバンドが集まった、インディーロック・レーベルとして認知されている。だから彼らはけっしてエモバンドではない。元プロミス・リングのメンバーが在籍していたこともあって、エモバンドとして語られがちだが、彼らとの特徴をあえて挙げるなら、アメリカ中部特有の、どこまでも麦畑の水平線が広がる広大な大地をイメージさせる、おおらかさと水しぶきがキラキラ光るイノセントあふれるバンドサウンド。そんなルーズで牧歌的で広大なサウンドが中部のバンドたちの特徴といえるだろう。

 その彼らが奏でるインストメンタル・サウンドといえば、ジャズやカントリーからの影響が強い。しかしジャズのような都会的な洗練されたピアノやホーンや優雅な上品さはない。あるのはギターとベースとドラムを中心としたバンドサウンドだ。彼らはインディーロックからポストロックに発展したバンドだが、エモーショナルな部分はまったくない。穏やかで控えめな情熱に満ちている。感情を削ぎ落とし無機質なポストロックと比べると、ウェットで情緒的だ。

 穏やかに優しく爪弾くギターからは、まるで初夏の若葉がはえる木陰で、休憩しているような爽やかさのような清々しさをイメージさせる。透明感あるメロディーと穏やかに躍動感が増していくドラムのセッションからは、若葉が芽吹くような静かな情熱と、控えめでありながらも生命の力強さを感じさせる。徹底的したアレンジへのこだわりや、大自然をフィーチャーしたサウンドが、彼らの特徴といえるだろう。

 彼らは、マスロックの先駆者的存在でもあり、日本のバンド、teやtoeにあたえた影響も計り知れない。そういった意味で彼らはインディー・ポストロックの先駆者であるのだ。清涼感ある癒しや、穏やかな安らぎがほしい人にお勧めの作品だ。

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