プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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G

2018/02/02

Greg Graffin(グレッグ・グラフィン) 『MILLPORT(ミルポート)』

MillportMillport
Greg Graffin

Imports 2017-03-09
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Bad Religion(バッドレリジョン)のボーカリストであるGreg Graffin(グレッグ・グラフィン)が17年に発表した3作目となるソロアルバム。デビュー作の『アメリカンリージョン』はアコースティックギターとピアノを中心に、シンプルな構成で、破局や孤独などパーソナルな内容で大人のほろ苦い感情を歌った作品だった。2作目の『Cold As The Glayコールド・アズ・ザ・クレイ』はカントリーやトラッド・フォークなど、グレッグ自身が幼いころに聴いて育ったアメリカのルーツ・ミュージックに回帰した作品だ。

そして今作も前作同様のメンバーであるBrett Gurewitz(ブレッド・ガーヴィッツ)がプロデュースを担当し、ドラッド・フォークやカントリーなどのアメリカルーツ・ミュージックが中心の作品だ。ただ前作と違う点はグレッグが多感な時期に影響を受けたCrosby Stills Nash & Young(クロスビー・スティルズ ナッシュ&ヤング)のようなフォークロックな曲もある。アコースティックギターギターで、バッド・レリジョンの激しさとは真逆な、穏やかな感情で軽快に歌っている。

悲しみや哀愁や切なさなどが漂って前々作や前作と比べると、今作では雪解けの春を迎えたような穏やかな温かさ牧歌的な明るい曲が多い。どうやら農地の美しい風景にインスピレーションを受け、この作品が作られたようだ。グレッグ自身は、宗教の欺瞞に対する怒りや、破局などの悲しみや心が引き裂かれるような思い、その反対にある人がうらやむ栄光も手にしている。いろいろな経験をしている人物なのだ。人間関係で生じる軋轢や争いにいささか疲れているのかもしれない。一息入れたいそんな思いを農地という長閑さメタファーに置き換え、平穏を感情を歌っているように思えた。だれもが休息を必要としているのだ。そんな思いを感じる作品だ。

2017/08/17

Armstrongs (アームストロングス)       『 If There Was Ever a Time(イフ・ゼア・ワズ・エヴァー・ア・タイム)』

GREEN DAY(グリーン・デイ)のボーカル、Billie Joe Armstrong (ビリー・ジョー・アームストロング)と、RANCID(ランシド)のボーカル、Tim Armstrong (ティム・アームストロング)によって結成されたバンドのデビューシングル。このシングルが発表された経緯は、アメリカ西海岸のイースト・ベイ・パンクシーンのドキュメンタリー映画『Turn It Around: The Story of East Bay Punk』が上映されることがきっかけ作曲された。映画用に作られた曲を、iTunes限定で発売された。売り上げはすべてカリフォルニア州バークレーのイースト・ベイエリアにあるライヴハウスVenue、924 Gilmanに100%寄付されるそうだ。

そもそもこの2人の出会いは、87年までにさかのぼる。同じカルフォルニア州のイーストベイ出身で、当時ビリージョーはSweet Children(スウィート・チルドレン)というバンドで活躍し、ティムはOperation Ivy(オぺレーション・アイヴィ)で活動していた。お互いに貧しい地区の出身で、前身のバンド時代からの友人関係だという。先にブレイクを果たしたビリージョーが、ティムに売れてほしいと願い、93年に“Radio Radio Radio”を提供。のちにランシドの名曲と呼ばれ、現在でもライヴの終盤に必ず演奏されている。かたやグリーンディのほうは、初期のころから現在にいたるまでオぺレーション・アイヴィのカヴァーである“Knowledge”を必ずライヴで歌い続けている。そこにはお互いのバンドがどれだけ大きくなろうが、変わることのない絆の深さある。お互いの挫折と復活、成功など、苦楽をともにしてきた仲間だからこその結束の強い友人関係があるのだ。

そして結成されたバンド名は、ティムとビリージョーのラストネイムであるアームストロングが採られ「The Armstrongs(ザ・アームストロング)」と名付けられた。メンバーは、ビリージョーとティムのほかに、ビリー・ジョーの息子ジョーイと、ティムの甥っ子レイ・アームストロングも参加。お互いの親族のみで結成。

肝心の曲だが、アコースティックギターのイントロが印象的なカラッと明るい西海岸特有のパンクロック。ランシドの3作目である“...And Out Come The Wolves(アンド・アウト・カム・ジ・ウルヴス)”に収めされている曲に雰囲気が近いさわやかなパンクロック。ティムのしゃがれたボーカルスタイルに合わせた曲が採用されており、ビリージョーは終始わき役に徹している。

ここで歌われている内容は、映画にふさわしく、自分が生まれ育ったシーンについての楽しかった思い出。もう一度昔に戻ることができるのなら、また過去と同じステージに立ち歌いたいという、痛切な郷愁願望。いささかノスタルジーに浸っている傾向にあるが、けっして後ろ向きな感情ではない。そこにはイーストベイ・シーンへの深い愛情がある。バンドを始めたことによって出会えた同じ気持ちの仲間たち。そしてその仲間たちと巡り会えたことによって生まれた深い絆と、ルーツであるイーストベイ・シーンへの誇り。そのプライドを胸にバンドを続けていく前向きな感情。そして息子たち次世代へと受け継がれていく。その未来へと受け継がれていく希望が、すがすがしいまでのさわやかさとカラッとした心地よい風のような気持ちであふれているのだ。変わらぬ友情が放つ愛情のあふれた1曲なのだ。

2016/05/13

Gospel (ゴズペル) 『 The Moon Is A Dead World (ザ・ムーン・イズ・ア・デッド・ワールド)』

Moon Is a Dead WorldMoon Is a Dead World
Gospel

Level Plane 2005-05-24
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05年に発表されたデビュー作にして最後の作品。コンヴァージのギタリスト、クルト・バルーによってプロデュースされた作品で、世間ではスクリーモとして認知されている。

05年といえばユーズドやサーズディ、アトレイユなど、メタルから進化したスクリーモが席巻していた時代だ。そんなサウンドスタイルが流行していたときに、彼らはハードコアから進化したスクリーモで、周りとは違ったサウンドを展開していた。

その彼らのサウンドスタイルとは、スクリーモの絶叫に、エモーショナル・ハードコアのナイーブなメロディーやプログレの壮大な世界観を取り入れた。スクリーモとプログレの折衷スタイルのサウンドなのだ。

12弦ギターが作り出す音が反響するメロディーに、変則的でトライバルな独特のリズムをたたくドラム、9分からなるプログレの壮大な曲に、ジミヘン的なくるくると性格が変わるギターの要素を加えた楽曲には、エクスペリメンタルで独特な世界観を追求している。そこには勢いと衝動に満ちあふれながらも、怒りと悲しみと寂しさが入り混じった感情が支配している。神経質で孤独に満ちあふれたメロディーと、限界を突き抜けるような衝動と憤りに満ちあふれたスクリームの調和には、
ダンテの神曲のような特異で孤高の芸術性すら感じる。

9分を超える遠大な曲もありながらも、衰えることのない勢い。スクリーモのなかでも独特な作品なのだ。

2014/10/10

Gaslight Anthem (ザ・ガスライト・アンセム)  『Get Hurt (ゲット・ハット)』

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Gaslight Anthem

Mercury 2014-08-11
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 14年に発表された5作目。前作『ハンドリトゥン』は、ファンク、ブルースにクラッシュ系のパンクロックを融合させた60年代の匂いがするパンクロックだった。その作品と比べると、今作ではバラードが多くアップテンポのパンクナンバーがなくなり、現代よりのサウンドで、静的な作品に仕上がっている。

 今作では<怪我>と名付けられたアルバムのタイトルどおり、心に負った傷をテーマにしている。ボーカルのブライアン・ファロンが、自身の体験した離婚の体験談をベースに、そのときの負った心の傷や痛みなどの感じた感情やエピソードなどを赤裸々に語っている。“ステイ・ヴィシャス”では、軽やかで切ないメロディーと淡々と不幸を語るような感情を制御した歌い方で、心の奥底にある悲しみを堪えている。“ゲット・ハット”は繊細でシリアスなメロディーが、全てが終わったときの絶望感が漂ってい、“セレクトド・ポエム”では失敗から学んだ姿勢があり、“ブレイク・ユア・ハート”はブルース・スプリングティーンの『ネブラスカ』に影響を受けた温かみのある素朴なバラードで、まるで遠くを眺めているような歌声で、傷口が癒え痛みを乗り越えたことによって、人間的な経験値が上がった。傷を負い、癒えていく過程を物語風に語っている。

 全体的にミドルテンポのバラードが多く、素朴でやさしく切ない美しいメロディーが魅力の作品だ。サウンド的にも新しいことにチャレンジしている。その新しさとはエモからの影響。今作ではエモの静の部分を突き詰めブルース・スプリングティーンの歌い方を混ぜた。彼らの魅力とはいままでブルースなどの60年代の古きよきアメリカ・サウンドに、ブルース・スプリングティーンとクラッシュ系のパンクをさせたサウンドにあった。60年代の要素がなくなり、サウンド的にも軟弱なイメージのあるエモを取り入れ、大幅に変わってしまった印象を受けるだろう。だが彼らの本質はまったく変わっていない。繊細で切ないメロディーを取り入れても、軟弱にならない理由は、男くさいボーカルにある。そこにあるのは高倉健のような無口で静かな朴訥さ。心の痛みを我慢強く耐えている不器用な男くさい姿があるのだ。彼らの本質はまったく変わっていないのだ。悲しみを我慢強く耐えている姿勢には共感できるし、今作も安定していいアルバムなのだ。

2014/09/02

GREEN DAY 『Tre!』

トレ!トレ!
グリーン・デイ

ワーナーミュージック・ジャパン 2012-12-11
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 12年12月に発表された11作目。3部作の最後となる第3部。今作は、「パーティーの翌朝の自己反省」がテーマになっているそうだ。

 その「パーティーの翌朝の自己反省」とは、内省的な考えを意味する。たとえば“セックス、ドラッグス&ヴァイオレンス”では、<人生で一番つらい教訓を学んでいる>と歌い、“ナインティナイン・レヴォリューションズ”では、<労働者はこんなに廃れてしまったのか>と歌っている。ここでは自身の苦労や、弱者を挫き富裕層を優遇する政府への批判がある。自分の内面を見つめなおした結果、反省と弱者への思いやりに行き着いた。それが今作のやさしさとさわやかさに満ち溢れた原因なのだ。

 そしてサウンド面では、今作はミディアム・テンポのソフトでやさしい曲が多く占められている。“ミッシング・ユー”では、気だるい甘さを含んだコーラスがさわやかで優しい印象をあたえている。“ドラマ・クイーン”では『ウォーニング』のようなアコースティック・ギターを中心とした牧歌的なカントリーな曲で、暖かみにあふれている。まさに『ドゥーキー』にある“ホエン・アイ・カム・アラウンド”や『インソムニアック』にあった“86”のようなコーラスに特徴がある曲を、ソフィスケートし、増やした感じだ。

 今作が原点回帰という言葉に一番近い作品ではないか。その理由は、西海岸特有の明るくカラッとしたサウンドや、アメリカン・カントリーとラモーンズや初期ザ・フーのギターサウンドを融合した初期グリーンディならではの、オリジナルなサウンドをここで展開しているから。といってもただ原点回帰をしているのではなく、そしてそこに優しさや思いやりなどの心の暖かさを感じる要素が加わった。結果、センチで甘い大人の感情を表現した新しいグリーンデイの姿があるのだ。

 個人的には3部作のなかでは『ウノ!』が一番好きだが、それぞれに違った感情を表現しとサウンド3つとも違いがあって、楽しめる作品だった。

2014/08/30

GREEN DAY 『Dos!』

ドス!ドス!
グリーン・デイ

ワーナーミュージック・ジャパン 2012-11-13
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 12年発表の10作目。3部作の第2部。各部ごとのテーマは、第1部の『ウノ!』が<原点回帰の青春時代>で、第2部の『ドス!』は<セックス、ドラッグ、ロックンロール>、3部作の『トレ!』が「パーティーの翌朝の自己反省」になっているそうだ。

 第2部である今作は、そのテーマどおりヘヴィーなロック・ナンバーがメインになっている。ここではギターメロディーに力を入れ、ロカビリーやガレージ、ヒップホップっぽい曲や、AC/DCのようなハードロックを、メロディック・パンクに融合している。たとえるなら『ニムロッド』にあった“ヒッチン・ア・ライド”のようなヘヴィーな曲を、バラエティー豊かに増やした感じだ。そして80年代のアメリカMTVのような派手なショウビジネスの世界観を構築している。長髪で豹柄と革パンが似合う、エロチックで派手でワイルドなロックを展開している。

 全作品のなかで、彼らのライヴパフォーマンスで観られるような素顔をさらけだしたのは、この作品のみではないか。ここにはノー天気で明るく無邪気でコミカルな、公的イメージのグリーンディがある。個人的には『ウノ!』のほうが好きだが、ハードで無邪気なグリーンディも悪くない。

2014/08/28

GREEN DAY 『Uno!』

ウノ!ウノ!
グリーン・デイ

ワーナーミュージック・ジャパン 2012-09-25
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 12年9月に発表された9作目。12年の2月にレコーディングされた3部作の第1作目。スペイン語で“1”という意味の『ウノ』というタイトルが付けられた今作は、原点回帰のメロディック・パンクを展開している。

 グリーンデイというバンドは大雑把に分けて3期からなる。第1期はメロディック・パンク期。ここに該当するのは、インディーでのデビュー作、『39/スムーズ』、『カープランク』、『ドゥーキー』、『インソムニアック』、『ニムロッド』の5枚。全作とも感情の方向性とは違え、総じてコードギターを中心としたパンキッシュなサウンドを展開している。そして第2期は、パンクギターを止めアコースティック・ギターを中心に、カントリーやバラードを展開した『ウォーニング』、ザ・フーやキンクスのロック・オペラをパンク風にアレンジしパンク・オペラという新たな個性を確立した『アメリカン・イデオット』と『21世紀のブレイクダウン』が第3期にあたる。

 これらの作品と比べてみると、シンプルなメロディック・パンクを基調としている今作は、第1期を意識した曲作りをしたことに間違いない。だがいままでグリーンデイは、他者とのコミニケーション不全や孤独や疎外感にあふれた『39/スムーズ』、『カープランク』や、未来への絶望を暗い内省に叩け付けた『ドゥーキー』、怒りと皮肉に満ちた『インソムニアック』と、自省的でありながらもカラッと開き直った明るさの『ニムロッド』と、1作品ごとに異なる感情を表現しながらも、ネガティヴな感情を追求していた。

 今作では、8ビートのシンプルなメロディック・パンクで、ラモーンズをさらにポップに明るくしたサウンドを展開している。インタビューで発言していたとおり、過去を振り返り原点回帰したサウンドを、現在の感性を加え、蘇らせている。その現在の感性とは、恋愛のドキドキ感や、箸が転げ落ちただけで楽しいと感じる胸が高鳴る想い。誰もが一度は経験するすばらしき楽しい日々の衝動だ。それが彼らのリアルタイムで表現したい感情なのだ。

 前作の『21世紀のブレイクダウン』は、彼らの魅力であるパンキッシュなサウンドが失われていて、正直、好きな作品ではなかった。ここでは本来彼らの魅力であるシンプルでパンキッシュなサウンドの彼らが戻ってきている。前作の頭でっかちな難解さも取り払われていて、シンプルに人生を楽しもうぜ、という姿勢が貫かれている。それが今作のすばらしいさなのだ。

2014/04/24

Gaslight Anthem (ガスライト・アンセム)  『THE B-SIDES (ザ・Bサイドズ)』

B-SidesB-Sides
Gaslight Anthem

Side One Dummy 2014-01-27
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 14年1月に発表されたシングルのB面を集めたアウト・テイク集。B面の曲ということだけあって、当然、アルバムのように一貫した流れや、そのときの心情やエモーショナルを閉じ込めた曲は少ない。どちらかといえば本気というよりも、遊びや実験の要素が強い、肩の力を抜いたラフな内容だ。彼らのことが好きな人だけが買うマニア向けの作品といえるだろう。

 曲を説明すると、①はアルバム『アメリカン・スラング』のアイ・チューンズ専用のボーナス・トラック。②はシングル“オールド・ホワイト・リンカーン”のB面に収録された曲。③はシングル“59サウンド”のB面の曲でパールジャムのカヴァー。④はシングル“ステイ・ラッキー”のB面の曲で、ローリング・ストーンズのカヴァー。⑤はシングル“ザ・スピリット・オブ・ジャズ”のB面の曲でアコースティック・ヴァージョン。⑥はレーベルメイトでフロリダのインディー・ロック・バンド、フェイク・プロブレムスのカヴァーであり、同バンドと11年に発表されたスプリットに収録されていた曲。⑦はシングル“グレート・エクステイション”のB面の曲で、同曲のアコースティック・ヴァージョン。⑧はアルバム『アメリカン・スラング』のオーストラリア・エディションのボーナストラックで、カナダのエレクトロ・インディー・ロック・バンド、ライトニング・ダストのカヴァー。⑨はシングル“アメリカン・スラング”のB面に収録されていた曲で、同曲のアコースティック・ヴァージョン。⑩はシングル“ボクサー”のB面の曲で、同曲のアコースティック・ヴァージョン。⑪はアルバム『ザ・59・サウンド』のアイ・チューンズ専用のボーナストラックで、アメリカのソウル&ブルース・バンド、ロバート・ブラッドリーズ・ブラックウォーター・サプライズのカヴァー。

 総じてアコースティックの曲が多く、遊び感覚で曲を収録しているのは理解できるが、B面といっても捨て曲はない。むしろルーツがむき出しになっている。あらためてじっくりと聴いてみると、ボーカルの歌い方はブルース・スプリングティーンにそっくりだ。まるでブルース・スプリングティーンのアルバム『ネブラスカ』みたいな感触を受ける。そこから受ける感想は、寒さ凍える労働者のような悲惨さがある。いままで労働者階級であることを誇りに、ブルースやR&B、クラッシュ系のパンクをベースにしたサウンドを展開していたパンク・バンドはたくさんいた。だが彼らと決定的に違うのは、富裕層や理不尽な政治と戦っていく闘争心にある。ガスライト・アンセムの場合、富を搾取する金持ちたちの怒りより、なぜ自分たちは不況な境遇にあるのは、疑問に思っている。自分たちが生きていくことに精一杯で、怒りや憎しみを抱き、嫉妬する余裕すらない。そこに彼らの不器用な純朴な人柄が伝わってくる。ネイキッドな感情がむき出しなのは、この作品くらいだろう。そういった意味では価値のある作品だ。




2013/08/23

Various Artists 『Ground Zero』

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 13年発売の14バンドが参加しているニューヨーク・ハードコア・バンドによるコンピレーションアルバム。収録されているバンドは、ラ・ミスマ、デフォミティ、ノマド、グースバンプス、ブラック・ブート、プットライダ、アナサーズィ、マドラー、サッド・ボーイズ、ブルトガング、クレイジー・スピリット、パディッション、ダーン・オブ・ヒューマンズ、ハンク・ワード&ザ・ ハマーヘッズの14バンドが収録されている。

 このなかで僕が知っているバンドはひとつもなかった。しかもこの作品を聴くまで、ニューヨークには、主流派とは別のハードコアシーンが存在していることすら知らなかった。なによりそのサウンドに驚かされた。個人的な印象としては、ニューヨーク・ハードコアとは、アース・クライシスやヘイトブリードに影響を受けたバンドが、ニューヨークのニュースクール・ハードコアの主流で、都会の洗練された不良の匂いがするマッチョで闘争的なバンドがひしめいているシーンだと思っていた。サウンドもデス声や、アグノスティック・フロントからシック・オブ・イット・オールへと受け継がれ、アース・クライシスへと継承されてきた重厚なギターのリフが中心だと思っていた。

 でもそれは大きな勘違いだった。この作品を聴くと、ここに収録されているバンドでヘイトブリードやアース・クライシスに影響を受けているバンドはまったく存在しない。影響を感じるのはイギリス初期パンクとハードコア。なかにはアタリ・ティーエイジ・ライオットのようなブレイクビーツばりのノイズを垂れ流しているバンドもいる。でも収録されているほとんどのバンドが、カオスUKのようなノイズ・コアなどに影響を受けたバンドばかり。どのバンドもバリバリ響くノイズギターが特長的だ。そのなかでもとくに印象的なのが、女性のヒステリックな金切り声で歌うラ・ミスマや爆撃機のようなノイズ垂れ流しのグースバンプス、野太いベース静かな暴力を表現しているマドラーなどだ。どのバンドも尖り歪みまくっている。日本語で、奇形、隔離されたインディアンの住居、腐敗、殺人など名付けられたバンド名からも分かるように、彼らはメインストリームから隔離され、腐臭と腐敗にまみれたバンドたちの集まりだということが理解できる。すべてのバンドが暴力的で悪意に満ちている。でもそれがカッコいい。

 アース・クライシスたちのシーンが地上とするなら、トラッシュ・トークやAl-Thawaraなどの黒人やムスリムたちによるハードコアシーンはちょっと離れた海中。そして『グランドゼロ』に収録されているバンドたちは、深海に属しているといえるだろう。世間から隔絶され、独自に進化を遂げたバンドたち。名声や金のためにやっていないから、自分たちの好きな過激なサウンドを追求している。まさしくニューヨークの陰の部分を象徴し、さらに暗闇、アンダーグランド中のアンダーグランドのバンドたちなのだ。これはすごい作品だ。

2012/10/17

ガスライト・アンセム 『ハンドリトゥン』

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Gaslight Anthem

Island / Mercury 2012-07-24
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 12年に発表された4作目。前作はプレッシャーから開放され、開き直ったような爽快さがあり、前々作は労働者階級のような泥臭い男くささのなかに、繊細なナイーヴさがちりばめてあった。それらの作品と比べると、一番パンクをしている。ここでいうパンクとは、攻撃的でアグレッシヴなサウンドのことだ。

 彼らの歌詞の内容は、初期のころから一貫して物語風に描かれているが、今作ではデヴィット・リンチの映画『マルホランド・ドライブ』にインスピレーションを受け制作されている。この映画自体、抽象的で解釈は人それぞれに異なるが、彼らなりの見解は、細部の細かいディティールを追及した60年代の古きよきアメリカの情景と、不条理な愛の世界。たとえば“45”では、レコードを裏返すという行為から、60年代のオールディーズのような匂いを感じることが出来るし、“ハンドリトゥン”では、パソコンが携帯メールが主流になり、失われてしまった手書きの大切さを歌っている。そこでは手書きの文字でしか伝わらない想いや温かみ、その人ならではの字体が、すべての思い出を作っていくのだと訴えている。文明の進化によってすべてが便利になったが、その分、古きよきものが失われた。彼らには、60年代のサウンドやレコードといった音楽機器、手書きといった古きよき伝統を、廃れず守っていこうという姿勢があるし、そこには朴訥で不器用な人間の温かみを感じる。初期のころはサウンドだけにとどまっていたが、今作では手書きといった深い部分まで掘り下げ追及している。しかも歌詞にその時代の空気と細かいデティールを取り入れながら、60年代の郷愁への憧れを熱く衝動に満ちたサウンドに乗せ、その想いをぶつけている。

 今作もクラッシュやソーシャル・ディストーションに、ブルース・スプリングティーンやファンクやブルースの要素を加えたサウンドがベースになっている。そこに『愛しのレイラ』のようなブルースのイントロが加わった。曲の構成も低音から高音へと音域が変わり、サビに向かって感情が高ぶっていく。いままでの作品の中で一番練られているのではないか。ただあえて欠点を挙げるなら、全体的にスローテンポな曲が多く、シリアスさも希薄で、やや緩慢に感じた。個人的には1,2曲目のようなスピーディーで衝動に満ちたパンクの曲を増やしてくれれば、最高傑作となりえる作品になったと思う。

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