プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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2017/01/25

NYC Headhunters(ニューヨーク・シティー・ヘッドハンターズ) 『The Rage Of The City 7''(ザ・レイジ・オブ・ザ・シティー)』

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16年発表の2作目のEP。NYC Headhunters(ニューヨーク・シティー・ヘッドハンターズ)というバンド名だが、実際はボストン出身のバンドらしい。このバンド名の意味を勘ぐるのなら、ボストンのいい人材をニューヨークに引き抜かれるという皮肉に満ちた意味が込められているようにも思える。だが実際のところ、そのバンド名の意味は分からない。

その彼らのサウンドとは、G.B.Hのシンプルで骨太のギターサウンドをベースにしたハードコア。そこにSLAPSHOT(スラップ・ショット)などの畳みかける勢いのドラムを加えた。シンプルなUKハードコアに、ボストン・コアのエッセンスを加えたサウンドなのだ。

だからなのか、ここにはニューヨーク・ハードコアのようなギャングの匂いがするシリアスさがまったくない。あるのは激しく踊り汗をかくような熱血漢。お互いに火花を散らしあいながらも、憎しみを感じない、どこかフェアー態度で挑んでいるスポーツマンシップのような健やかさがある。男くさく荒々しいサウンドのなかに感じる熱血さや正々堂々とした態度が、このバンドの魅力といえるだろう。

ボストンといえば、突発的な進化を遂げたバンドが多いが、彼らはボストン・ハードコアの正当な路線を引き継いでいる。ボストンのなかでは稀有な存在といえるかもしれない。ともあれ熱い気持ちにさせてくれる作品だ。

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2016/11/28

Heaven Shall Burn (ヘヴン・シャル・バーン)  『Wanderer(ワンダラー)』


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マーカ・ビショフ ヘヴン・シャル・バーン

ワードレコーズ 2016-09-15
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ドイツのメタルコア・バンドの8作目。このバンドも現在のハードコアを語る上では外すことのできない重要なバンドだ。現在のハードコアの中心であるアメリカとは離れた環境にあるためか、欧米のバンドらしく、メタルコアの中でもユニークなサウンドを展開している。

その彼らの個性とは、アース・クライシスのニュースクール・ハードコアをさらに進化させたサウンド。アースクライシスの影響が色濃く残る怒声ボーカル、ハンマーを打ち付けるような重厚なリフと、ナパーム弾のように全体に響き渡るギターサウンドを、ブラストビートを加えさらにスピードアップさせた。そしてそこにメロディック・デスメタルや、テクニカルなメタルの要素を加えた。ほかのバンドにはない独特なサウンドを展開しているのだ。

アース・クライシスからの影響はサウンドだけにはとどまらず、彼らもまたメンバー全員がヴィーガンで、レイシストに対する徹底抗戦する姿勢や、ハードコア精神を貫いているのだ。そういった意味では今はなきニュースクール・ハードコアの、正当な後継者といえるだろう。

彼らの作品は、2作目の『Whatever It May Take(ワットエバー・イット・メイ・テイク)』で確立したサウンドスタイルをベースに、そこにプラスアルファを加え、バラエティー豊かに進化してきた。前々作の『Invictus(インビクタス)』では、メロディック・デスメタルの要素を加え、攻撃的な激しさベースにしながらも、陰鬱な要素を加え、怒りや攻撃性の裏側に潜む悲しく陰鬱な感情を表現していた。前作『Veto(ヴィート)』では、全作品中一番激しいサウンドを展開し、デスメタルをさらにパワーアップさせ、すさまじい音圧のサウンドで、攻撃的に進化していた。

そして今作では、シンフォニックメタルの要素が加わった。今作も『ワットエバー・イット・メイ・テイク』で確立したサウンドスタイルをベースとしているが、前々作よりもさらにメロディーに重点を置いている。メロディック・デスメタルな要素を加えた前々作との違いは、メロディーの質にある。そこにあるのはクラッシクの交響曲のような芸術性と、北欧神話のような世界観。まるでヨーロッパ中西部をイメージさせる深い森と霧と寒さに包まれたサウンドなのだ。

そこにあるのは前作までの激しい怒りや憤りを発散するというより、過酷な冬の厳しさや忍耐力、孤独に耐えゆる精神力といった方向にベクトルが向いている。外への発散から内面と向き合ったサウンドなのだ。ハードコアの対極にある美しさを追求したアルバム。だが決してそれが悪いわけではない。なぜならこの、ストイックなまでに突き詰めた美しさも魅力的だからだ。同じ時点にとどまらず、新しいことにチャレンジした意欲作ともいえる作品だ。

2016/09/14

Why Be Something That You're Not: Detroit Hardcore 1979-1985 (ホワイ・ビー・サムシング・ザット・ユアー・ノット:デトロイト・ハードコア1979-1985)

Why Be Something That You're Not: Detroit Hardcore 1979-1985Why Be Something That You're Not: Detroit Hardcore 1979-1985
Tony Rettman Tesco Vee

Revelation Records 2010-07-06
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 アメリカン・ハードコアに精通したライター、トニー・レットマン著書による、13年に発売されたデトロイト・ハードコアを紹介した本。なぜトニー・レットマンが、デトロイトという小都市にスポットをあてたのか、その理由は分からないが、これまたすごい内容の本だ。

 その内容は79年にデトロイトで誕生したタッチ&ゴー・レコーズが、85年にシカゴに異動するまでの6年間を中心に語っている。当時のバンドの関係者のインタビューを交え、デトロイトのハードコア・シーンについて語っていく内容だ。

 なぜこの本がすごいかといえば、デトロイトのハードコア・シーンが、ほかの地域と比べると、あまりにも特殊すぎるからだ。そこにはカルフォルニアやニューヨークのシーンのような、大勢のバンドによる活気や、盛り上がりなどはない。ましてや長期にわたってハードコア・シーンが継続され、伝統が生まれる土地柄でもなかった。バンドのつながりや伝統やコミュニティー、仲間意識やライバル心、シーン内による影響など、全く存在しなかった。それらの要素が独特なシーンを形成したのだ。
 
 デトロイトで活動したバンドたちは、まるで線香花火のように瞬間に激しく燃え、瞬く間に散っていった。どのバンドも短命で、単独で行動していた。烏合の集まりのシーンなのだ。デトロイトという治安が悪く、荒っぽい気質の土地柄の人間たちがパンクな暴動を起こす。それがデトロイト・ハードコア・シーンの特徴といえるだろう。
ここで具体的に取り上げられている代表的なバンドはNecros(ネクロス)とTHE FIX(ザ・フィックス)とNEGATIVE APPROACH(ネガティヴ・アプローチ)といったバンドたちだ。3バンドとも、マイナースレットやブラッグ・フラッグ、アグノスティック・フロントなんかと比べると、日本ではあまり知られていない存在のバンドたちといえるだろう。だがアメリカでは3バンドとも、本当の意味で伝説のバンドとして語られ、ハードコア界では神格化された存在として扱われている。

 とくにネガティヴ・アプローチは、デビューが82年で、後世のバンドたちに多大な影響を与え、アメリカ・ハードコアの基礎の半分くらいを作ったと言われているバンドだ。デス声の先駆者のようなボーカル・スタイルや、パワーヴァイオレンスに多大な影響を与えたといわれるノイジーなパワフルなサウンドスタイルが特徴だ。
そしてネクロスは、デビューシングル『SEX DRIVE(セックス・ドライブ)』のプレスリリースがわずか100枚で、いまだに1stアルバムは再発されていない。アメリカン・ハードコア史上10本の指に入るレア盤として語られてきた。YouTubeが普及するまで、長らくそのサウンドが知られることがなかった。最近までそのサウンドが知られることがなかった伝説のバンドとして語り継がれてきた存在だ。

 ザ・フィックスも、デビューEP『VENGENCE(ヴェンジェンス)』の発売がわずか200枚で、このバンドもアメリカン・ハードコア史上10本の指に入るレア盤といわれてきた。だがネクロスとは違いそのサウンドは猛烈な勢いと爆音で駆け抜けるハードコア・パンク。ハードコアに進化していく原型のサウンドなのだ。どのバンドも活動期間が短く、それでいて後世に多大な影響力をあたえたバンドたちだ。

 わずか数百枚しかリリースがなかったという希少性。サウンドと精神性の両面からの後世への影響力。そしてわずかな期間しか活動しなかったという伝説。それらの要素が、デトロイト・ハードコア・シーンという特殊性を生んだのだ。これほど伝説や神話して語られるのがデトロイトならではの特徴といえるだろう。これほどデトロイトの特殊性を探り当て、スポットをあてたトニー・レットマンはすごい。アメリカン・ハードコアが好きなら、絶対必読する必要のある本だ。

2016/07/21

NYHC:New York Hardcore 1980-1990(ニューヨークハードコア 1980-1990)

NYHC: New York Hardcore 1980-1990
NYHC: New York Hardcore 1980-1990Tony Rettman Freddy Cricien

Bazillion Points LLC 2014-12-30
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14年に発売されたニューヨーク・ハードコアを紹介した本。ニューヨーク・ハードコア・シーンの始まりである80年から、ニュースクールにシーンが変わる90年にかけての10年間だけに焦点を絞り、シーンの動向とバンドを紹介した内容だ。

トニー・レットマンというアメリカン・ハードコアに精通したライターが、当事者たちの証言をインタビュー形式で語っていく内容で、いままで日本では知られていなかった事実がここでは収録されている。たとえばニューヨーク・ハードコアの誕生の歴史はのちにクロマグスを結成するハーレー・ブラナガンがドラムを担当していたザ・スティミュレイターズが始まりとする話は初めて聞いた。

そのほかにも日本でも語られているニューヨーク・ハードコアのコミュニティーを形成する発信地となった伝説のライブハウスCBGBや、DCやボストンという地域対決、拠点をニューヨークに移したバッド・ブレインズがニューヨークのバンドたちに与えた影響、メタルとハードコアの融合と対立、そしてユース・オブ・トゥデイやゴリラビスケッツなどの新世代のバンドたちによって、シーンが変わっていく様子、クリシュリナ教がシーンに与えた影響など、ニューヨーク・ハードコア・シーンで10年にあった出来事を、52のチャプターに分け、すべて語っている。

06年に上映された映画アメリカン・ハードコアは、ブラッグ・フラッグを中心に、カルフォルニアから誕生したアメリカン・ハードコアがアメリカ全土に飛び火し、その土地々の地域性と融合し、個々のバンドにオリジナルティーを確立していく過程を紹介した映画だった。このニューヨークのみを限定したこの本を読んでみると、細かな細部で事実が食い違っているものだということが理解できる。というか、ニューヨーク・ハードコア自体が、特殊で独特なシーンだったのだ。ニューヨークとほかのハードコアシーンとの違いは、スピード感にある。その理由もバッド・ブレインズがあたえた影響が大きく、思想的にもブラッグ・フラッグのバイオレンスなハードコアとは一線を画した、宗教と結びついたピースフルな一面も存在した。ニューヨークという大都市のせいなのか、ハードコアにスカを取り入れたマーフィーズ・ロー、変則的なリズムを取り入れたユース・オブ・トゥディ、明るくポジティブさにあふれたゴリラビツケッツなど、いろんなジャンルの音楽をどん欲に取り入れ、個々に昇華していったものこのシーンの特徴の一つだ。

これ一冊でニューヨーク・ハードコアのオールドスクール・シーンのすべてが分かる貴重な本なのだ。

2015/10/02

Heroin (ヘロイン)


HeroinHeroin
Heroin

Gravity Records 1997-01-24
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89年から93年にかけて活動していたヘロインの、97年に発表したすべての作品を網羅したディスコグラフィー的な作品。その内容は、91年に発表された7インチ・シングル『オール・アバウト・ヘロイン7』から6曲。92年に発表された7インチ『ヘロイン』から4曲。93年に発表された12インチ・シングル『ヘロイン』から6曲に、3曲プラスされた、計19曲が収録されている。

 ぼくが彼らの存在を知ったのは、アップルシード・キャストのインタビューでの発言だ。エモの先駆者である彼らが影響を受けたバンドとして挙げていたのが、ライツ・オブ・スプリング、ヘロイン、ジュリアといったバンドたちだ。そのとき以来個人的に、ヘロインというバンドのことがずっと気になっていたが、日本の雑誌では彼らのことを紹介されることがまったくなく、つねに無視し続けられてきた存在だったのだ。このたび彼らのCDを入手したので、レビューを書くことにした。

 とうやらヘロインというバンドは、アメリカではスクリーモの先駆者として語られているようだ。エモーショナル・ハードコアというジャンルが、エムブレイスやライツ・オブ・スプリングなどによって産声を上げたころ、そのバンドたちやオールド・スクール・ハードコアを聴いた育ったヘロインのメンバーたちは、ライツ・オブ・スプリングのサウンドスタイルをさらに推し進めた。熱く叫ぶボーカルは、しゅうし絶叫するスタイルへと進化し、センチなメロディック・ギターはなくなり、分厚くノイジーでカオティックに変化した。

 このアルバムで展開されているサウンドは、終始絶叫するスタイルのボーカルと、分厚くノイジーなギターサウンドだ。ギタースタイルはハードコアをベースにしているが、ところどころにメロディー・パートが加わっている。そして高速スピードのドラミングによって、分厚いギターとメロディー。絶叫ボーカルという個々に際立つ要素が歪な不協和音を生み、全体の印象をカオティックなものにしている。そのあたりが終始ハイテンションで闘争的なハードコアとは違うし、静と激のコントラストがあるエモーショナル・ハードコアとも違う。精神状態がめちゃくちゃで、マッドなカオティックを生んでいるのだ。

 その絶叫するボーカル・スタイルから、スクリーモの先駆者として語られることになった。だが実際に一部の例外を除いたスクリーモと呼ばれているジャンルのバンドたちは、メタルやハードロックからの影響が強い。メタルやハードロックのメロディーパートにハードコアのコントラストがあるバンドたちが、スクリーモと呼べるだろう。そういった意味で、ヘロインはスクリーモからかけ離れている。いうならエモーショナル・ハードコアとカオティック・ハードコアの間をつなぐ存在が彼らとは言えるのではないか。エモーショナル・ハードコアよりも過激なサウンドで、カオティック・ハードコアよりも混沌とはしていない。それがヘロインのサウンドなのだ。

 おそらく彼らの存在がなければ、コンヴァージもデリンジャー・エスケープ・プランも存在しなかったのではないか。日本ではそれほど評価されていないが、エモーショナル・ハードコアとカオティック・ハードコアの間をつなぐ上で、重要なバンドだったのだ。

2013/07/22

Shai Hulud 『Reach Beyond The Sun』

リーチ・ビヨンド・ザ・サンリーチ・ビヨンド・ザ・サン
シャイ・ハルード

ハウリング・ブル・エンター 2013-02-13
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 ニュー・ファウンド・グローリーのチャドがボーカルに戻り、13年に発表された4作目。この作品もまた、じつに5年ぶりの作品。まずチャドがボーカルに復帰した経緯から述べたい。きっかけは08年にニュー・ファウンド・グローリと一緒にアメリカ中を周ったツアーにある。ツアー中のサウンドチェックのときマット・フォックスがチャドに新曲のデモを聴かせたのがきっかけだった。その時マットに頼んだのは、新作のプロデュースだったという。それから2年の月日が経ち、曲が完成し、チャドにプロデュースを依頼するため音源を送った。そうしたら曲に対して新しいアイデアもあるし、シャイ・ハルードのサウンドにも興味もあって、ぜひ一緒にやりたいと返事が返ってきたそうだ。ちょうどその時期、ボーカルのマット・マザリーが脱退してしまい、急遽代わりのボーカルを探す事になり、チャドにボーカルを頼む事にしたそうだ。最初はチャドに興味がなく、新作のリリースが危ぶまれたが、徐々にやる気が出てきたようだ。そういった経緯でチャドがボーカルを担当する事になった。しかも今作限定で参加したようだ。

 そんな曲折を経て発表された今作は、デビュー作のような原点回帰のサウンド。演奏よりも初期衝動や勢いを重視している。そのサウンドは、マイナー・スレットのようなスピーディーなハードコアをベースに、アースクライシスのような分厚く荒々しいギターと、プログレの芸術的で切迫感に満ちたメロディーが、断片的に絡む展開。そのサウンドに乗るボーカルは、熱さと団結を#するシンガロングスタイルのボーカルとOiコーラス。そして体力のすべてを振り絞り叫ぶチャドの絶叫ボーカルだ。前任のマット・マザリーや前々任のGeert・Van・Der・Veldeなどのデス声は、地の底から低音のうねり声を上げる迫力があったが、あくまでも作られた歌声だった。チャドのボーカルはその2人とは違い、1曲のために全身全霊を傾け、声がなくなるまで歌う姿勢がある。そのこの熱い気持ちを伝えようとする尋常でない。それが初期衝動の一因を担っている。まるで壊れかけの車がバンパーなどの部品を落としながら、ハースピードで飛ばしていくような狂ったスピード感だ。小難しいテクニックを排除し勢いを重視したギターサウンド。まさにハードコアなサウンドだ。

 今作のテーマは、タイトルの『リーチ・ビヨンド・ザ・サン』(太陽の向こう側)にある。その意味は、旧約聖書の言葉にある<太陽の下に新しきものはない>を逆説で捉えた言葉だそうだ。この世の中に新しいものははいという言葉から出発して、現状の向こうに見えるものや感じる事のできるもの、体験でき、手に入れられるものを求めて行動する、という意味があるそうだ。単純に太陽の下から向こう側に行ったどうなるのだろうという疑問から出発したそうだ。

 歌詞は前作同様、3人称で教条的で隠喩に満ちた口調で書かれている。だが今作では物語仕立てになっているようだ。たとえば“アイ, サルナイン”では、主人公は物凄く落ち込んでいて疎外感を持っている。彼が見るもの全てが怒りと惨めさと暴力に満ちている。彼自身はそれが自分に 与えられた現状だってことに気づいて絶望している。そして次の“リーチ・ビヨンド・ザ・サン”で、どん底の絶望から希望の光を見つけ出し、最終的に自分の生き方を改めようとしている。

 この作品で訴えかけているのは、どんなに絶望の淵に立たされても、良心と希望を失うなということ。自分の望む何かを得るためにいまいる場所の向こう側に行く。この作品を聴いた人に、夢や目標となるものを見つけ、ゴールを目指して欲しいことがテーマだそうだ。

 個人的にはこの作品を彼らの最高傑作に挙げたい。その理由は、切迫したスピード感と尋常でない衝動が、魂を滾らせるような熱い気持ちにさせてくれるからだ。前作までは凝ったサウンドに拘りすぎた。でも今作では勢いと衝動を重視している。怒りを叩きつけるようなシンガロングスタイルのボーカルと、団結を促すOiコーラスには、尋常でない熱さと切迫が漲っている。その熱さを倍化させる勢いがすばらしい。そして声を枯らして叫ぶボーカルからは、その思いを伝えなければいけないという、使命感さえ感じる事ができる。どんな絶望に立たされようが立ち向かっていく熱さがカッコいい。結局、諦めてはダメなのだ。淡水域から肺という新たな臓器を作り陸に上がった両生類や、高いところから飛び降り翼を獲得した鳥類のように、あきらめずチャレンジし続ければ、最終的に新しい進化(太陽の向こう側)に繋がるのだ。挑み続ける事によって新たな進化へと繋がる。彼らもまたチャレンジによって新たな個性を獲得した。最先端のハードコアの形を提示した作品だ。

2012/10/09

ハードコア4シリア

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 12年に発表された全世界のパンク/ハード・コアバンドによるコンピレーション・アルバム。ハードコア4シリアとは、内戦でシリア軍によって、砲撃を受け家や家族を失った庶民の人道的をサポートするために設立された、非政治的オンラインメディア啓発プロジェクトだ。このアルバムを発売した理由は、現在も虐殺が続くシリアの現状を知ってもらうことを目的に、そしてアルバムによって得られた収益を、シリアの人道援助プロジェクト、Karam Foundationに、寄付をするために発表されたアルバムなのだ。

 参加しているバンドは、――1曲目から順に挙げていくと――元ブラッグ・フラッグのキース・モリス率いるハードコア・バンドoff。タクヮ・コアバンドで有名なコミナス。ファット・レックコーズにも所属し、反戦、反核のメッセージを掲げているバンドで有名なアンチ・フラッグ。ドイツのポジティブ・メロディック・ハードコアバンドZSK。サタニック・サファーズなどでボーカルを務めたRodrigoが加入したスウェーデンのメロディック・ハードコア・バンド、アトラス・ ルゼィング・グリップ。こちらもスウェーデンのハードコア・パンクバンド、エージェント・アティテュード。またスウェーデンからニュースクール・ハードコア・バンド、レイズド・フィスト。スイスのニュースクール・ハードコア・バンドUNHOLD。フランスのヒップホップ、メタル、ハードコアのオネスタ。スイスのハードコアバンド、アニマル・インスティンクト。オランダからはヘルシーの流れを受け継ぐメタル系ハードコアバンド、ディス・イズ・ヒストリー。オーストラリアのハードコアバンド、ワード・アップ!。日本でも有名なドイツのハードコアバンド、ウォータダウン。 オーストラリアからガレージ系ハードコアのCrank。またオーストラリアからニューウェーヴ系パンクバンドのザ・ゴー・セット。スイスからメロディック・デスにニュースクールハードコアをブレンドしたバンド、パーティズ・ブレーク・ハーツ。スウェーデンからダムドのような高速パンクバンドのチッキング・ボムズ。スイスからブラッグ・フラッグ系ハードコアバンドのザ・ストラポンズ。スウェーデンからバーニング・ハートに所属していたことでも有名な59タイムス・ザ・ペイン。オーストラリアからランシド系パンクバンドのTopnovil。スウェーデンからアメリカン・オールドスクール系ハードコアのKvoteringen。シリアからアラブっぽいメロディーを取り入れたパンクバンド、Zinc。スイスから初期パンクバンドのEntwaffnung。トリニダード・トバゴからシンガロング・スタイルのパンクバンド、アンチ・エヴリシング。スイスからGBHスタイルのハードコアバンド、プレイ・トゥ・デストロイ。アメリカからカオティック・ハードコアのビアフット。スイスからメタルコアのUnveil。スウェーデンからオルタナ+デスコアのスォーム。またスウェーデンからノイズコアのデスパレード。そしてアメリカからドゥーム系タクヮ・コアバンドのAl-Thawra。

 国ごとに挙げていくと、アメリカからは5バンド、ドイツは2バンド、スウェーデン8バンド、スイスから7バンド、オーストラリアから4バンド、フランス、オランダ、シリア、トリニダード・トバゴから1バンドづつ。計9カ国のバンドが、主催者の理念に賛同して楽曲を提供したのだ。シリア問題が世界中のハードコアバンドたちに、大きな影響をあたえたのか理解できる。それだけでも、このアルバムは成功といえるだろう。個人的には日本やイギリス、ブラジルのバンドが参加していないのは非常に残念だったが。

 それにしても面白いサウンドを提供しているバンドばかりだ。最先端のハードコアを追求しているバンドから、頑なに昔ながらのオールドスクール・ハードコアの伝統を守っているバンド、古きよきハードコアに、その国ならではの地域性の音を取り入れたバンド、ハードコアの譜系の流れを無視して、違う体系からいいところだけを取り入れ独自の進化を遂げたハードコアバンドなどじつに多彩。まるでハードコアの万国記念博覧会のようだ。シリアの現状を知ることも重大な要素だが、世界的なハードコアを知りたい人にもお勧めの作品だ。

                      こちらから無料ダウンロードできます。

2012/09/21

ホット・ウォーター・ミュージック  『エクシャター』

ExisterExister
Hot Water Music

Rise Records 2012-05-15
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 じつに8年ぶりとなる12年発表の8作目。解散から現在にいたるまで、ラガンはリヴァイバル・ツアーやソロなどの活動をしていた。その影響が大きかったのだろう。今作ではR&Bをベースにしたシンプルなパンク・ロックを展開している。基本的には前作の延長上にあるブルースを中心としたサウンド。だが前作とは違い70年代ロックやパンクなどを取り入れ、現代のパンクとうまく融合させている。粗く雑味の効いたメロディーに、ブルース・スプリングティーンのようなしゃがれた歌声。終始がなりっぱなしでダミ声をあえて作っていた前作までと比べると、シンプルに歌っている。制御するところは制御し、熱い部分は熱くなる。あらゆるを力を振り絞って全身全霊を傾けるボーカルの歌声がいい。その感情の抑揚にあわせ、ギターも静かなセンチメンタルを紡ぎ、感情の抑揚とともにドライブしていく。

 その姿勢は歌詞にも顕著に表れている。たとえば、“ドラウン・イン・イット”では、<私たちはそのなかで溺死する/でもまだほんの少し希望がある>と歌い、“ドラッグ・マイ・ボディー”では、<私がいつ危険を冒したかについて、理解していなければいけなかった/自分自身をグシャグシャにして、壊れるか賭けをする/精神的なちょっとした振え、言葉の喪失、私は、もう人間的であるとほとんど感じていません>と壮絶なドラッグ体験について歌っている。暗喩と示唆に満ちた内容が多いが、そこには絶望にふちに立たされていながらも、必ず這い上がるといった強い意志を感じることができる。30を超え大人になった現在、彼らは過酷さを経験しているし、それを乗り越える術も知っている。

 サウンドにも歌詞にも、冷徹に現実を見極めそれでも立ち上がっていく意志の強さと、円熟した大人の怒りと叫びがある。それがこのアルバムの魅力なのだ。アルバムは終始ハイスピードと天象の高さでグイグイと押していく。そしてあっという間に終わる展開。全盛期のころの向こう見ずな攻撃性はないが、一点集中的なエナジーに満ち溢れている。これはまさに大人が聴くハード・コアだ。


2012/09/20

ホット・ウォーター・ミュージック  『ティル・ザ・ホイール・フォール・オフ』

Till the Wheels Fall OffTill the Wheels Fall Off
Hot Water Music

No Idea Records 2008-02-12
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 08年に発表された2枚目のコンピレーションアルバム。06年に解散したホット・ウォーターミュージックだが、ここでは解散前の過去の作品が収録されている。年代順に表記すると、99年発表の14枚目のEP『ムーンパイズ・フォー・ミスフィッツ』から3曲、コンピレーションアルバム『Twelve Ounces of Courage』からガーランド・ジェフリーズのカヴァーと、『Return of the Read Menace』から新曲、計2曲を収録、クラッシュのトリビュート『City Rockers: A Tribute to The Clash』から1曲、レザーフェイスとのスプリット『BYO Split Series Volume I』から3曲。00年発表のノー・アイディア・レコーズのオムニバス『No Idea 100: Redefiling Music』からブルース・スプリングティーンのカヴァーを1曲。01年発表のホープレス・レコーズのオムニバス『テイク・アクション』からミッドナイト・オイルのカヴァーを1曲、オムニバス『アルファ•マザーファッカー』からノルウェーのパンクバンド、Turbonegroのカヴァーを収録、副腎の持病を患った11歳の少年、ロレンツォ・オイルへの寄付が目的で発売されたチャリティーアルバム『Living Tomorrow Today: A Benefit for Ty Cambra』からワシントンDCのハードコアバンド、カバメント・リイシューのカヴァーを収録、『ア・ファイト・アンド・ア・クラッシュ』のヴァイナル盤のボーナストラックから1曲。02年発表のエピタフ・レコーズのオムニバス『パンク・オー・ラマ7』から1曲、アルカライン・トリオとのスプリットから4曲。04年発表のオムニバス『パンク・オー・ラマ9』から1曲、ブッシュ政権の転覆が目的で発売されたファット・レックコーズのオムニバス『ロック・アゲインスト・ブッシュVol.2』から1曲。05年発表の『パンク・オー・ラマ10』から1曲。そこに未発表曲が1曲加わり、計23曲が収録されている。

 曲の3分の2にあたる部分は、99年から01年にかけて制作されている。この時期彼らが発表したアルバムは、『ノー・ディヴィジョン』と『ア・ファイト・アンド・ア・クラッシュ』の2枚。彼らにとって全盛期に作られた曲たちなのだ。分厚いコードギターとメロディーギターが相克し、火花を散らす武骨で男くさく熱いサウンドを展開している。ただこの時期は、アルバム制作に全精力を注いでいたのだろう。彼らの魅力のひとつに複雑なメロディー・フレーズという個性があるが、ここではそんなに練られていない。シンプルで力強いパンク・ナンバーが目立つ。おそらくアルバムの選考からもれた、アウト・テイク的な曲を発表したのだろう。だがカヴァー曲を聴くと、パンク・ハードコアに対する一途な思いを持っていることが理解できる。スノッブでおちゃらけた大衆ポップスにまったく興味がないのだろう。アンダーグランド・ミュージックをこよなく愛している。そういった意味では、まじめに反社会的なことを考えている、まじめなバンドなのだろう。そのルーツにも共感が持てるし、ホット・ウォーター・ミュージックが好きな人には必須の作品だ。

 なお、このコンピレーションの制作で再びメンバーが顔を合わせたのがよかったのかもしれない。この作品の発売をきっかけに再結成をし、1月と2月にツアーを行った。以前のように1年に1枚を発表するほど、タイトな日程で活動はしていないが、緩やかな活動を開始した。

2012/09/19

HOT WATER MUSIC  『THE NEW WHAT NEXT』

ザ・ニュー・ホワット・ネクストザ・ニュー・ホワット・ネクスト
ホット・ウォーター・ミュージック

ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル 2005-01-07
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 04年発表の7作目。前作のスピーディーでテクニカルなメロデックパンクから、R&Bをベースにしたシンプルなパンクに変化した。もはや彼らの個性である複雑なメロディーはない。シンガロングで掛け合うボーカルもなくなった。男臭いボーカルこそ健在だが、どこか落ち着いてしまった印象を受ける。そこには後ろ姿が寂しげな哀愁が漂っている。

 この変化の理由のひとつは、音楽趣向の変化にある。インタビューでジェイソンは、アルバム収録前、ジミー・クリフの『ザ・ヘッダー・ゼイ・カム』をよく聴いていたと、発言した。ジミー・クリフ自体、レゲエ・アーティストで、サウンドに直接の影響は感じられないが、メンバーの黒人音楽への傾斜が、バンドに対する情熱が薄れ始めている証ではないか。もはやエネルギッシュなパンクより、味わい深い枯れた円熟味のほうが好きなのだ。

 といってもそんなに悪いアルバムでもない。ギターはテクニックよも、ヴァラエティー豊かな音にこだわっており、ヴィヴィットで、感情移入しやすい。そこには、苦悩の叫びや、切なさや、諦観に彩られてた制御のきいた歌声の曲がある。表情豊かな作品なのだ。攻撃的な男臭い感情だけで押し通すのではなく、諦念や弱さやなど人間臭い表情を初めてみせた。感情的にグッとくるし、そういった意味ではいい作品だ。

 なおこの1年後には、チャック・ラガンが、アゲインスト・ミーのトム・ガベル、ルセロのベン・ニコルズ、妻のジル・ラガンらと、パンクバンドによる、アメリカルーツ音楽の精神に立ち返るフェスティバル、“リバイバル・ツアー”立ち上げた。そのプロジェクトと、ソロ活動に専念するため脱退を決意する。そして1年後の06年5月にホット・ウォーター・ミュージックは、解散を発表した。


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