プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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J

2017/06/28

Joyce Manor (ジョイス・マナー)  『Cody (コーディ)』

CODYCODY
JOYCE MANOR

EPITA 2016-10-20
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アメリカはロサンゼルス郡南のトーランス出身、エモ・バンドの16年に発表された4作目。彼らの特徴といえば、イギリスのネオ・アコースティックを、荒くがなり立てるサウンドだった。いうならネオアコのような都会的に洗練されたスタイリッシュな洒脱さを排除して、激しくエモーショナルにかき鳴らす。それが彼らの特徴だった。

出世作となった前作『Never Hungover Again (ネバー・ハングオーバー・アゲイン)』は、ネオアコにアメリカのメロディック・パンクなど、いろいろな要素を取りこみ、バラエティー豊かなサウンドに仕上がっていた。タイトルを直訳すると、二日酔いを二度と繰り返さない。おそらく“後味の悪い経験を二度と繰り返さない”という意味なのだろう。その意味が示すとおり、歌われている内容は、青春時代の初体験の苦い思い出。現実と理想とのギャップで戸惑い落ち込み、初恋が後味の悪い思い出として残るような、青春の一コマがテーマだった。

青春さながらに熱くエモーショナルに勢いと初期衝動を重視していた前作。今作ではエモーショナルな勢いや粗削りさがなくなり滑らかな仕上がりに、落ち着いたサウンドに変化した。いままでアコースティック中心のサウンドであったが、今作では青空のように明るいギターが特徴のミドルテンポのポップソングから静謐感漂う牧歌的なバラードなど、ポップロックを追求し、バラエティー豊かなサウンドに変化した。曲ごとに喜怒哀楽の表現を変え、いろいろな感情表現ができる大人のバンドになったのだ。

今作も青春の一ページを切り取った歌詞は健在。テーマは前作同様、憧れや理想だったものへの失望をここでも語っている。やりたい何かが見つからない将来に対する不安と苛立ちや、好きだった彼女への失望など、18歳前後の大半の若者が経験し、考え感じるような内容がテーマだ。初体験が後味の悪い経験と感じる若者がより限定された人だったのに対し、今作では大多数の気持ちを代弁したより広い視野に立っている。極上にポップに仕上がった楽曲といい、歌詞も大多数に共感され理解できるような広い視座でこの作品は作られているのだ。

個人的には前作の粗削りな勢いと衝動を重視したサウンドのほうが好きだったが、大人しくなった今作は前作以上に完成度が高い作品であることに間違いはない。

2016/02/15

Julia(ジュリア)


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 サンディエゴ出身のエモーショナル・ハードコア・バンドの94年に唯一発表された8曲入りのEP。このバンドもまた、アップルシード・キャストのメンバーが影響を受けたバンドとひとつとしてあげ、エモの先駆者のひとつとして語られるバンドだ。日本ではあまり評価されることのなかったバンドだ。

 そのサウンドは、ライツ・オブ・スプリングとテキサス・オブ・リーズンの中間に位置する。ジャンル的にはライツ・オブ・スプリングから進化したエモーショナル・ハードコアだ。ライツ・オブ・スプリングとの違いは、部分的にメロディーパートを導入した部分。あとにテキサス・オブ・リーズンによって、静がよりクローズアップされ、静と動のアップダウンこそがエモーショナル・ハードコアのサウンドの特徴として語られていくことになる。

 サウンドの8割をしめる荒々しく力強いギターと全力を出し切るエモーショナルな歌声のサウンドは、ライツ・オブ・スプリングからの影響が強く、残り2割のメロディーパートと、エクスペリメンタルなサウンドには、彼らならではのオリジナルティーを感じる。透明で繊細で冷たく美しいメロディー・パートを取り入れた部分は、のちにテキサス・オブ・リーズンやミネラルによって、さらにメロディーがデフォルメされ、エモーショナル・ハードコア=不良になりきれないうじうじした奴がやる音楽という代名詞になっていく。そしていびつな音の不協和音ギターやピアノが反復するプログレのように長いパートなどの雑音を取り入れた実験性には、あとにアップルシード・キャストによってこの路線がさらに極められ、ポストロックやプログレを取り入れたエモという新しい形を提示していくことになる。

 ともあれエモの静の部分を最初に導入したバンドであり、実験性なども大胆に取り入れ、構成のバンドに多大な爪あとを残した。エモを語る上で重要な作品だ。


2013/07/29

JIMMY EAT WORLD 『DAMAGE』

ダメージダメージ
ジミー・イート・ワールド

SMJ 2013-06-25
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 13年発表の8作目。この作品でも似たようなサウンドの作品は作らないという意志が貫かれている。ただ今作では、色々と迷いが生じたようだ。だから前2作までのセルフプロデュースから一転し、今作はプロデューサーにアラン・ヨハネスを起用。その理由は、客観的に意見を言ってくれる人がほしかったから。つまり作った曲がいい曲なのか、悪い曲なのか、自分たちで客観的な判別がつかなくなっていたという。だから外部に判断を委ねたのだ。

 そんなプロセスを経て完成した今作では、アコースティックギターを中心とした穏やかでやさしく柔らかいサウンドを展開。サウンドアプローチこそ、ダッシュボード・コンフェッショナルのアコースティック・エモに似ているが、そこにはバーズやスミスからの影響を感じ、アメリカの古きよきサウンドを取り入れている。ジムの歌い方もエモーショナルな叫びから抑揚を抑えた歌い方に変わった。そしてなによりひさびさにジミー・イート・ワールドの個性である、キラキラ・メロディーのギターが復活した。その柔らかなアコースティック・ギターの“”からは、川のせせらぎのような清冽な穏やかさを感じ、星空のようなキラキラメロディーが魅力のバラードである“プリーズ・セイ・ノー”からは慈しみを感じる。感情が高揚していく典型的なエモな曲である“バイバイラヴ”では、辛い気持ちを叫ぶように恋の終わりを歌っている。そして雑音が入り混じったアナログ録音で、素朴なアコースティックの“ユー・ワー・グッド”では、終わった恋の後に残された孤独な気持ちを歌っている。そこには息が詰まるような寂寥や、悔しさ、穏やかな悲しみ、といった感情を感じる事ができる。

 その理由は今作のテーマにある。そのテーマとは、大人の失恋。大人の人間関係よる葛藤や、破綻を扱っている。“ダメージ”では、<ぼくたちの仲はもはや繋がる可能性もないほど壊れてしまったのか?>と歌い、“ブック・オブ・ラヴ”では、<小さなことなんて心配していなかった。それが意味していたことも知ろうとしなかった>と歌っている。彼らの言う大人の失恋とは、長い恋愛の末の別れ。時間を積み重ねによって生じる誤解やすれ違い。お互いに気持ちを理解し、本音を知ることへの恐れ、最期は孤独という悲惨な結末などだ。

 ジミー・イート・ワールドというバンドは、『ブリート・アメリカン』という例外を除けば、一貫して、悲しみや切なさといった感情を表現している。そのなかでも代表作である『クラリティー』では、失恋を初めての経験する子供のようなヒステリックな悲しみや、混乱、心に受けた傷口などの、思春期特有のナイーブで傷つきやすいデリケートな内面を歌っていた。そのころと比べると、相手の気持ちも理解できるようになったし、傷つきあう事をなるべく避け、心が混乱する事もなくなった。いろいろな人生経験をつんで、大人になったのが理解できる。

 サウンドも悲しみという同じベクトルでも、清廉で神経質な音だった『クラリティー』と比べると、感情の抑揚のある温かみのある音で、表現の幅が確実に広がっている。そこに大人の余裕を感じる事ができる。『クラリティー』という作品が若気の至りとするなら、大人になって理解できたという回答がこの作品といえるだろう。


2013/03/12

ジョーブレイカー 『チェスターフィールド・キング EP』

Chesterfield King [Analog]Chesterfield King [Analog]
Jawbreaker

Blackball Records 2012-12-11
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 92年に発表された5曲入りEPのリマスター盤。12年に発売から20年を記念してヴァイナル限定で発売。あとに発売された2作目の『ビバーク』のCD盤にすべての曲が収録された。この作品を聴くと『ビバーク』は、曲順が悪く、それが全体のバランスを崩していたことが理解できる。その理由は、『ビバーク』は、全体的に長くダラダラとした印象があるからだ。この作品を聴くと、ジョーブレイカーとは、ノイジーだが、簡潔でスカッとした爽快感があるバンド、というのが似合っているのが理解できる。典型的な短期集中型のバンドなのだ。この作品からノイジーなギターを前面に出すようになったわけだが、悪い印象はない。ミドルテンポのナンバーで構成されたこの作品は、ドロドロと重苦しく聴こえた『ビバーク』と比べると、ずいぶんと気楽な感じに聴こえる。その違いは、 『ビバーク』では、エモよりの内省的でゆっくりした曲も収録されているが、『チェスターフィールド・キング 』EPでは、パンクナンバーだけを集めている。だから曲の印象が違うように感じるのだ。いま思えば、この作品と『ビバーク』は、分けるべきだったのではないか。それほどこの作品には彼らの魅力が詰まっている。

なおヴァイナル盤には、レーベルのホームページににアクセスすると、本曲がダウンロードできるパスワード付き。

2013/03/11

ジョーブレイカー 『ビバーク』

BivouacBivouac
Jawbreaker

Blackball Records 2012-12-11
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 92年に発表された2作目のリマスター盤。12年に『チェスターフィールド・キング 12』のオリジナル・スタジオ・セッションから2曲のボーナス・トラックが加えられ発売された。前作と比べると、劇的な変化を遂げている。もはやメロディック・パンクの面影はなく、分厚いギターノイズを中心としたエモーショナル・ハードコアに変貌を遂げた。カラッとした明るさと爽快なスピード感もなくなり、終始重苦しい空気が支配している。ボーカルも、エモーショナル・ハードコア・バンドに多いがなり声スタイルに変わった。

 ジョーブレイカーの活動とは、大まかにメロディックパンク期とエモーショナル・ハードコア期の2期に分かれる。この作品は、メロディック・パンクからエモーショナル・ハードコア期に移行する過渡期に発表された作品だ。メンバーも、ニューヨークの大学を卒業して、カルフォルニアに戻ってきた時期だった。いうなら子供から大人への階段を登る時期であり、初めて経験すること、成長の過程で生じる障害、将来への不安や希望などの、初体験のトラブルやチャレンジに対するプレッシャーなど、いろんな感情を抱えていた時期でもあったのだ。その混沌とした思いがサウンド面、精神面、歌詞面の、すべてに反映されている。

 今作ではそんな精神状態が色濃く反映されている。たとえば“チェスターフィールド・キング”では、初デートや初体験のときに感じる想いを赤裸々に書き、また“P.S ニュー・ヨーク・イズ・バーニング”“ビバーク”では、当時ニューヨークに住んでいたときの孤独でうつ病気味な心境を赤裸々に語っている。不安や孤独、憂鬱さに苛まれながら大人になっていく過程を描いている。学生時代の辛かった心境が理解できる。

 そしてサウンド面でも、その重苦しさは反映されている。前作のようなメロディック・パンクな曲も何曲かあるが、分厚いノイズギターによって、ドロドロした内面世界のような暗さを感じる。からっと爽やかな本来のよさが失われた。新しい試みが多いため、纏まっていない印象を受ける。とくにボーカルのがなり声には苦しみを感じることが出来る。どうやら意図的にボーカル・スタイルを変えたのではなく、当時、喉にポリープがあり、それが原因でがなり声になったそうだ。

 サウンドを暗く重苦しいものにしている原因は、彼らの精神状態にあった。彼らにとって青春時代とは、暗く苦しいものだったのだ。そんな瞬間を、見事にアルバムで封じ込めている。その重苦しさと、アレンジ面でのオリジナルティーの希薄さがこのアルバムを評価の低いものにしているが、彼らの気持ちも痛いほど理解できる。ぼくの青春時代は、クリスマスに豪華なホテルを予約して彼女と一晩を過ごすというのが、テレビが伝えた定番だった。当時、彼女もお金もなく、友達の少ないぼくは、華やかさとは無縁の生活を送っていた。呪詛の思いでテレビを見ていたことをいまでも思い出す。この作品を聴くと当時の心境を思い出す。今作の欠点を修正し、スコーンと突き抜けた次作のほうが確かにいい作品だが、このほろ苦さは、好感が持てる。重苦しい苦労を過程を感じるいい作品だ。

2013/03/03

ジョーブレイカー 『アンファン』

UnfunUnfun
Jawbreaker

Blackball Records 2010-03-30
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 90年発表されたデビュー作の、10年に発売されたリマスター盤。ジョーブレイカーとは、エモという言葉が定着していない時期にデビューしたバンドで、フガジやライツ・オブ・スプリングなどのバンドと同様に、エモの創世記のバンドのひとつとして活躍したバンドだ。メンバーの出身が、ボーカル兼ギターのブレイクシュワルツェンバッハとベースのアダムが幼馴染でサンタモニカ育ち。お互いニューヨークの大学に進み、そこでバンドを結成。のにちにロサンゼルスに帰ってくる。そんな彼らの個性とは、西海岸のカラッとした明るさの裏側にある暗く陰鬱な一面。カラッと爽快な小気味よいビートにあるちょっと暗い一面。明るさと陰の部分が魅力なバンドだ。

 デビュー作である今作では、ディッセンデンスを発展させたメロディック・パンク。テクニカルで高みに向かって感情を高揚させていくギターや、ハードコアのギタースタイルをポップに変更させた音楽センスや、「アイ・アイ・アー」と歌うのどかなコーラスには、彼らにしかありえない独特なセンスを感じる。エモーショナルなサウンドだが、けっして汗臭くない。カラッとした爽快感が、そこにはある。しかも西海岸独特の、明るさを消し去っている理由は、歌詞にある。“Seethruskin”では反人種差別について歌い、“ソフトコア”では反ポルノについて歌っている。健全な道徳観を持ったパンクだ。だが、そこにやや自己嫌悪気味に人間不信な一面もある。たとえば日本語で不完全という意味である“インコンプリート”では、自分が好きなものが周りから嫌われていることについて歌い、日本語で根性なしといういみの“ガットレス”では、おびえた気持ちに支配されている自分への自己嫌悪を歌っている。いくぶん自傷的でシニカルな傾向にあるが、自分の弱さをさらけ出している。人間味あふれるが魅力なバンドといえるだろう。

 当時のパンク・ハードコア・シーンはマッチョでバイオレンスのバンドが主流で、同時期のグランジやオルタナティヴバンドは、内向的な方向に進んでいた。そんな彼らの、<けんかの弱いごく普通の若者によるパンク>というのは、けっして世間受けしなかったし、異質だった。アティチュードの部分でエモの先駆者といえるバンドだし、いま聴いても古びていない作品だ。

 なおリマスター盤には、ノイズを消したクリアーな仕上がりで、89年に発表されたEP『ウワック&ブライト』から3曲と“ビジー”のリマスターヴァージョンが追加している。


2011/12/13

JIMMY EAT WORLD 『INVENTED』

インヴェンテッドインヴェンテッド
ジミー・イート・ワールド

ユニバーサル インターナショナル 2010-10-06
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 10年発表の7作目。ここでは前作よりもさらに実験的なサウンドを展開している。フラメンコ調のフォークで始まったときは正直戸惑ったが、じっくり聞き込むと、そんなに悪い作品ではない。過去の彼らのイメージに囚われなければ、楽しめる。

 今作ではデジタルを全面に出したサウンドを展開。ディスコ・エモから、デュラン・デュランぽい曲、後期ソニックユース系のポストロック、牧歌的なフォーク、ピーター・マーフィのような薄暗い曲、ヴァーヴのような至福感あふれた曲など、いろいろなジャンルを取り入れている。穿った見方をすれば、ジミー・イート・ワールドらしくない曲がつづき、何に影響をうけたのかわかりやすい。これだけだと正直オリジナルティーが希薄だと思った。だがじっくり聞き込むとそれらの要素に『クラリティー』を融合させた作品だと気付く。とくに5曲目の“ムービー・ライク”以降の後半の流れ。朝日のような清々しいビューティフル・サウンドで、聴くものを安堵なやすらぎに導いてくれる。

 今回はシンディ・シャーマンやハナ・スターキーと写真家の写真を見て、そこから想起するイメージをサウンドに置き換え表現したそうだ。だから自分たちの経験や体験から感じた、切なさや哀しみ、楽しさやといった感情は表現していない。彼らが写真や人物を通じて感じたことを曲にしている。その写真からイメージされるな世界観とは、ヨーロッパのカフェテラスでな話しているような洒脱でクールな世界観。ドラマチックなラブシーンのように囁くように歌う“インヴェンテッド”や、遠い未来について二人で語り合っているような“エヴィデンス”など、まるで映画のワンシーンのような情景が浮かんでくる。

 このアルバムで表現されているのは三人称の世界観だ。わたしとあなたという二人の世界を、カメラのレンズを通して見るように、俯瞰してとらえている。だからどんな愛の囁きを歌ったも、静かで淡々と聴こえる。エモーショナルさはないし、ダイレクトな感情が伝わってこない。だがその分、気だるく薄暗くムーディーで洒脱な大人の世界観を獲得している。

 サウンドやエモーショナルといった部分すべてで、過去とは異なる作品だ。だが、彼らは1stのころから、サウンドも感情も同じ作品は一枚も作っていないし、つねに変化してきた。それに変化の兆しは大人になった前作からあった。不惑の40代に突入し、彼らはもう迷うことはないのだろう。彼らの年齢からくる表現方法としては、それが正直なやりかたではないか。身の丈にあった変化なのだ。少し淋しい気もするが、これはこれで納得のいく作品だ。


2011/12/09

ジミー・イート・ワールド 『クラリティーライヴ』

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 『クラリティー』発売から10周年を記念して発表されたライヴ盤。09年に自身のウェブサイトから配信発売。09年7月に地元アリゾナのタンパペイで行われたライヴで、1曲を除いて全曲『クラリティー』から選曲。全曲、99年に発表された曲で、アルバムの曲順通りの演奏。99年当時を、忠実に再現している。

  『クラリティー』とは、オリジナルティーを確立したアルバムであり、特別な想いのある彼らの原点なのだ。実際『クラリティー』とそれ以降では、ライヴパフォーマンスがあまりにも違う。『ブリート・アメリカン』以降の彼らは、激しく楽しい爽快感あふれるパンクなライヴを展開している。『クラリティー』では、静謐で穏やかな世界観を追求していた。モッシュなんて起こることもなかったし、ジムがピアノにゆっくりと座り演奏する場面も見受けられた。スポットライトの薄明かりのなか、トライアルアングルの音だけが静かにこだまし、静寂に満ち、観るもの内面世界に引き付ける――じっくり聴かせるライブだったのだ。

 それが人気が出たことによって、ライヴパフォーマンスが180度変わった。その理由はおそらく、『ブリート・アメリカン』での成功と、グリーン・ディやブリンク182らと一緒にツアーをまわった経験が関係しているのだろう。パンクの楽しいライヴを展開している彼らと一緒にツアーすることによって、ライヴとはどうあるべきものなのか考えさせられたのかもしれない。もしくは彼らのファンが求めているものは、『ブリート・アメリカン』のスカっとするほど爽快で、楽しく激しいライヴだという事実に気づかされたのかもしれない。自分たちの理想とするライブの型が見つかったのか、それともファンの期待に応えようとする気持ちが強かったのか、理由は解らないが、当時いまのままではいけないと思い、変更を余儀なくされたのだろう。

 肝心のライヴだが、音源作品なので正確なことはわからないが、おそらく97年ごろと同じ雰囲気を再現したライヴだ。終始、神聖で透明感があふれる穏やかなライヴを展開している。彼らの代表曲である“ラッキー・デンヴァー・ミント”では、歌詞を変え、新たな感情が息吹きこまれている。“ア・サンディ”や“12 23 95”などいったバラードも、丁寧にやさしく穏やかに演奏され、アレンジの変更はなく、『クラリティー』の世界観を壊すことなく再現している。まるで過去のサウンドに閉じ込めた痛みや濁りのない気持ちを、ゆっくりと解凍し、深い内省に潜りながら過去の気持ちを呼び覚ましているような演奏だ。当時の記憶を蘇らせながら、穏やかでやさしく透明で濁りのない気持ちを思い起こし、失われた純粋さを取り戻しているように思えた。

 このライヴは典型的な過去の振り返りだ。だが何もかもが変わりすぎてしまった現在、過去の気持ちを取り戻す必要が彼らにあったのだろう。エモに影響を受けたインディーサウンドから、力強いアメリカンロック、フォークロック的なサウンドと変遷を重ねてきた彼らにとって、核にあったものはなんなのか、見失ってしまったいたのかもしれない。現在自分たちを個性からも離れすぎてしまっているサウンドを展開している。だから過去を振り返る必要に迫られたのだ。そうこの作品は、未来へ向けての原点回帰なのだ。

     オフィシャルサイト


2011/12/07

JIMMY EAT WORLD 『CHASE THE LIGHT』

チェイス・ディス・ライトチェイス・ディス・ライト
ジミー・イート・ワールド

ユニバーサル インターナショナル 2007-11-07
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 07年発表の6作目。かなり実験的な作品。彼らの特徴であった純粋な透明性もなくなり大人な仕上がりに。前々作、前作と、ポップで野太いギターロックな作品が続いたが、今作では軽やかなサウンドに劇的に変化した。

 『チェス・ザ・ライト』(明かりを追いかける)と名付けられた今作は、新しい発見やチャレンジしていくことが、テーマになっている。とくに変わったのはギター。野太く力強いギターコードが、冷たく細やかなメロディーギターとアコースティックに代わり、多彩になった。それだけでなく、光の粒のようなデジタル音、指をならした音、バイオリンなど、いろいろな音を取り入れている。曲調も変わり、カントリーロックやポップスなどの要素を取り入れ、ヴァラエティーが豊富になった。とくに顕著なのは、80年代のファンクのような“ヒア・イット・ゴーズ”と、アコースティックギターとバイオリンと不吉な効果音の絡みが耽美でミステリアスな雰囲気を醸しだしている“ガッタ・ビー・サムバディズ・ブルーズ”。そこには前作までのよさを捨て、自分たちがやりたかった新しいことにチャレンジしていこうとする姿が窺える。

 いろいろな楽器を使い、作りこまれ、劇的に変化した。ここまで多彩になると彼らの特徴であった純粋性は感じられないし、保守的なファンからは戸惑いを受けるかもしれない。だがぼくはこの作品が好きだ。なぜなら、そこに込められた感情が前向きだから。とくに好きなのは、“オール・ウェズ・ビー”から“キャリー・ユー”への流れ。そこには期待にそむいているのを理解しながらも、自分たちを信じて前へ進んでいく力強い衝動がある。ジミー・イート・ワールドはいままで人を励ますようなファイトソングは歌っていなかったし、エモと呼ばれている割にはエモーショナルな衝動が希薄だった。それがここにきて初めてエモーショナルな熱さを見せている。これだけ力強く変化した理由には、ジムに子供が産まれたからだ。自分の子供がいるということは、育てていく責任感も生じるだろうし、家庭を守っていく以上、悩みクヨクヨしているわけにはいかない。一家の大黒柱として、力強く生きていかなくてはいけないのだ。

 もはや若かりしころのような透明なメロディーや、純粋さや繊細さ、ナイーブさはここにはない。だがその代償に、雑草のように踏み潰されてもはい上がっていく力強さを手に入れた。この作品は、聴くひとに勇気とエネルギッシュな活力をあたえてくれるファイトソングだ。ウジウジしているひ弱なぼくの心を励まし癒してくれる。それが魅力だ。


2011/12/01

ジミー・イート・ワールド 『ステイ・オン・マイ・サイド・トゥナイト』

Stay on My Side Tonight (Dig)Stay on My Side Tonight (Dig)
Jimmy Eat World

Interscope Records 2005-10-04
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05年に発表された5曲入りのEP。前作『フューチャーズ』のレコーディングのとき完成した曲で、アルバムの雰囲気に合わなかったため、今回シングルで発表された曲だという。

総じていえば、『スタティック・プリヴェイルズ』のように、かなり実験的な曲が目立つ。とくにギター。ここでは力強いギターロックな曲はない。あるのはアコースティックギターを中心としたスローな曲。バーズを現代版に進化させたカントリーロックに、オルタナロックを加えたような曲が並ぶ。

終始、気だるい歌声で、郷愁の念や、古き良き過去を懐かしむといった感情を歌う。取り巻く雰囲気も、過去を静かに振り返っているような、枯れや円熟味がある。

ここにはポップでエモーショナルな曲が一曲もなく、『ブリート・アメリカン』で好きになった人からすれば、敬遠される作品かもしれない。だが、彼らはこのEPで、あえて実験的なことやった。その理由はミュージシャンとしてのモチベーションを保つためだろう。新境地を開いた作品だ。そういった意味では、評価できる。

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