プロフィール

  •    宮本 一高         (みやもと かずたか)
                                        音楽ライターを目指しているものです。EAT MAGAZINEやDOLLなどで執筆をしておりました。おもにエモ、ハードコア、スクリーモ、メロディックパンクを中心に取り上げております。自分が感動した音楽を、積極的に紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。 

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2018/07/14

THE GET UP KIDS(ザ・ゲット・アップ・キッズ)  『Kicker(キッカー)』

キッカーキッカー
ゲット・アップ・キッズ

Tugboat Records 2018-06-06
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じつに7年ぶりとなるEP。THE GET UP KIDS(ゲット・アップ・キッズ)といえば、JIMMY EAT WORLD(ジミー・イート・ワールド)とならび、ポップエモの代表的なバンドとして知られている。だがそのサウンドは実験的で、アルバムを発表するたび、ローファイなギターロックなど、色々なジャンルの音楽を取り入れていた。

とくに再結成後の11年に発表されたアルバム『There Are Rules(ゼア・アー・ルール)』では、Bauhaus (バグハウス)などのゴズにガレージを合わせたようなサウンドで、アグレッシヴで暗くノイジーで憂鬱な世界観を追求していた。実験的に次々と新しいことに挑むチャレンジ精神こそ感じられたが、そこには本来ゲット・アップ・キッズの魅力であった、失恋や次のステップに踏み出すことのできない未練や尻込みした感情を歌っていた姿はなかった。ダークでどす黒いアルバムを発表することによって、ゲット・アップ・キッズ像を過度に求めるファンへのイメージを打ち壊す、辟易とした態度がうかがわれた。

そして今作ではJAWBREAKER (ジョーブレイカー)などの初期エモを彷彿とさせる作品に仕上がっている。感極まったボーカル、パワフルで中部の放牧とした広大で乾燥した大地をイメージさせるノイズギター、キャッチ―なキーボードのメロディー、そこにはエモーショナル・ハードコアと呼ばれていたころの古い世代のエモを感じさせる。90年代のレコーディング機材がまだ発達していなかったころの、クリアーでないノイズまみれの音の悪さのなかに、パワフルな熱意が詰まった、人間味にあふれた味わい深さが魅力だったサウンドだ。

エモ全体の原理までさかのぼったサウンドには、現在では失われてしまった、むかしの古きよきものを取り戻そうとする姿勢がうかがえる。とくに彼らが否定していたエモと呼ばれることへの辟易とした感情が、誇りへと心境が変わってきている。NMEのインタビューで『エモという言葉にはプッシー(弱虫)な意味が強く、エモと呼ばれることに侮辱を感じていた。だが現在では、Modern Baseball(モダン・ベースボール)やThe Front Bottoms(ザ・フロント・ボトムズ)などの第四の波と呼ばれるエモ・バンドが出てきて、ゲット・アップ・キッズから影響を受け進化してきたと公言している。ゲット・アップ・キッズがエモのレガシーとして語られていることに誇りを感じる。』と語っていた。

さすがに歌詞は20代の恋愛経験ような、感傷的でデリケートな心情は歌っていない。“Sorry”ではジムの奥さんと子供についてなど、中年男性のごく平凡な日常を歌っている。そこには小さな幸せやささいな至福感が漂っている。

格別ファンの期待を応えようとする姿勢もなければ、裏切るよな仕草もない。あるのはエモの歴史を体系的に知ってもらおうとする姿勢と、中年の男性がただ純粋に自分の好きな音楽を楽しんでいる姿なのだ。楽しさや至福感が伝わっているいい作品だ。

2018/05/30

The Lion's Cage(ザ・ライオンズ・ケージ)  『Raw 2017(ロウ2017)』

Thelionscageraw2017cover


ニューヨークはブルックリン出身のハードコア・バンドのデビュー作。日本語でライオンの監獄と名付けられたバンド名からは、実際のところは分からないが、なにやらスラム街の閉ざされた監獄という隠語のように感じる。

彼らのアティテュードとは、MADBALL(マッド・ボール)やSheer terror(シアー・テイラー)やMERAUDER (メラウダー)などの流れをくむギャングの要素が強いハードコア。歌詞には“綱渡り”や、“運の悪さ”、“プレッシャー”など、ギャングの世界を彷彿とさせる死と隣り合わせな緊迫感に満ちた言葉が並ぶ。

緊迫感に満ちた静けさから濁流のような激しさに変わる展開からはマッドボールの影響を色濃く感じ、そこに狂ったような激しスピードと、躁病的なテンションのボーカルを加えた。

レコーディング状態が悪いためか、若干音の悪さを感じる部分が残念ではあるが、だがメタルからの影響を感じない攻撃的なハードコア・スピリットだけで突き抜けていく初期衝動には、アグレッシヴさがあるし、不良の匂いがする。まさにやさぐれたハードコアなのだ。今後が期待できる作品だ。

 こちらからダウンロード可能

2018/05/19

The Fight (ザ・ファイト) 『U.H.T.R.N.H.T.B! Promo』

Cover

ニューヨークはロングアイランド出身のハードコア・バンドの2作目となるEP。最近のニューヨークでは珍しいスタイルのバンドで、ギャングのような不良性が多いニューヨーク・ハードコアのなか、知的でユニークで異端な存在感を放っている。

そのサウンド、80年代のUKハードコアから影響に、SHEER TERROR(シアー・テラー)のニューヨークの伝統を合わせたサウンドを展開。ノイジーなギターからは、Chaos UK (カオスUK)やDischarge (ディスチャージ)からの影響を感じ、2コードでハイスピードにゴリゴリ押していくサウンドと地獄の怨霊のようなボーカルからはシアー・テラーの影響を色濃く感じる。

ぼくがユニークに感じる理由は、そのアティテュードにある。前作ではトランプ政権への批判や反キリスト、反体制的な内容が占められていた。まさにREAGAN YOUTH(レーガン・ユース)以来の皮肉と怒りに満ちたアナーコパンクだった。

今作では環境汚染と健康被害にスポットを当てている。スモッグなどの大気汚染が病を侵し、入院すれば高額医療費を取る。まさにジョージ・オーウェルの小説のような、金持ちや支配者層のためだけに、庶民が飼いならされ、搾取されことへの怒りがそこにはある。UK初期ハードコアのようにシンプルでなつかしさが際立つ作品だ。

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2018/05/11

Trail of Lies(トレイル・オブ・ライズ) 『WAR(ウォー)』

W.A.RW.A.R
TRAIL OF LIES

RETRIBUTE RECORDS 2018-03-22
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ニューヨークはシラキューズ出身のニュースクール・ハードコアの1stアルバム。シラキューズといえばEarth Crisis(アース・クライシス)やAnother Victim (アナザー・ヴィクティム)などのニュースクール系ヴィーガン・ハードコア・バンドを輩出した土地として有名だ。彼らもその伝統を受け継ぎ、ストレートエッジにして、巨大なハンマーを振り下ろすような金属質で重厚なギターのリフを中心としたスローでグルーヴィーなサウンドを踏襲している。サウンド的にもアティテュードもシラキューズの伝統を受け継ぎ、自分たち流にアレンジしたバンドなのだ。

とくにストレートエッジ思想をさらにストイックな求道者のように突き詰めている。この作品で語られているのは、力不足の克服や、欲望に打ち勝つ自分との闘い、困難を乗り越えた勝利のための戦いなどについて。

心の奥底からにじみ出る気合の入ったボーカルの怒声からは、精神統一し、戦いに挑む空手家のような、落ち着きと闘争心を感じ取ることができる。変化の力を促す自己啓発や、高い目標設定をしあえて困難な状況を作り乗り越えようとする高い意識。アルバムタイトルの『WAR』とは自分の権利を獲得する戦いだけでなく、弱い自分の内面との闘いでもあるのだ。

2018/04/29

T.O.S 『DEMO』

Cover


ニューヨークはロングアイランド出身のハードコアバンドの4曲入りのデビューデモ作品。近年ハードコア界では、FORCEDORDER(フォースオーダー)やPOWERTRIP(パワートリップ)などのバンドに代表されるように、スラッシュメタルとオールドスクールなハードコアをクロスオーバーさせたサウンドが、一部トレンドになっている。

彼らもそのシーンの一翼を担うバンドだが、ほかのクロスオーバーバンドとの決定的な違いは、S.O.Bなどの日本のハードコアに色濃い影響と、ロングアイランド特有の雰囲気を保有した部分にある。骨太でメタルのようなメロディーラインのあるギターサウンド。叫びとハイトーンの中間にある咆哮ボーカル。

そのロングアイランド特有の雰囲気とは、“自分に屈する”や“殺すために行く”、“あなたは何も感じない”“魂を取る”など、シンプルな単語で簡潔な歌詞に代表される、パラノイアックな世界のことだろう。偏執的でムンクのような芸術性。それがこのバンドの個性といえるだろう。ちなみにバンド名であるT.O.SとはTaking Of Soul(魂を取る)という意味だ。

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2018/03/26

TONNY RETTMAN(トニーレットマン著) 『STRAIGHT EDGE (ストレートエッジ)』

Straight Edge: A Clear-headed Hardcore Punk HistoryStraight Edge: A Clear-headed Hardcore Punk History
Tony Rettman

Bazillion Points 2017-11-14
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ニューヨーク・ハードコアやデトロイト・ハードコア『Why Be Something That Youre Not』の著者として知られるトニーレットマンが、17年に発表したストレート・エッジ・シーン全般を紹介した本。

アメリカン・ハードコアの細分化されたジャンルのひとつとして知られるストレート・エッジ。この本では37年に渡るストレートエッジの歴史を、当事者の発言を引用する形式で執筆している。当時のシーンの裏側や、知られることのなかったエピソードや、実際の話とは異なる事実など、くまなく紹介している。

まずストレート・エッジとは、「喫煙をしない」「麻薬をやらない」「アルコールを飲まない」「快楽目的のセックスをしない」という基本理念を柱に掲げたパンク・ハードコアの思想だ。その始まりはティーンアイドル、マイナースレットのボーカルであったイアン・マッケイの発言から始まる。

この本でチャプター分けされ紹介されている内容を説明していくと、

WASTED YOUTH…ヒッピー・カルチャーやTHE BEATLES(ビートルズ)やTHE DOORS (ドアーズ)、THE ROLLING STONES (ローリング・ストーンズ)などの、60年代のロックバンドを象徴する「セックス、ドラッグ、ロックンロール」の価値観を否定するためのアンチ・テーゼとして、ストレート・エッジ思想が生まれた。

D.C.: SNEAKERS…当時10代であったIan MacKaye(イアン・マッケイ)が結成したバンド、THE TEEN IDLES(ザ・ティーン・アイドルズ)が、未成年でもライヴハウスに入る方法として未成年の手の甲にマジックでバツ印(×)印を付けることを提案。以来、手の甲のバツ印は、反アルコールと反ドラッグのシンボルとなった。

MINOR THREAT : STRAIGHT EDGE…MINOR THREAT(マイナー・スレット)が81年に発表したEP。『MINOR THREAT』のなかの“Straight Edge (ストレート・エッジ)”と、同年発表のEP『In My Eyes』のなかの“Out Of Step (アウト・オブ・ステップ)”との2曲から、ストレートエッジに対する思想やアティテュードが生まれた。歌詞の内容を説明すると、“ Straight Edge”ではと歌い、“ Out of step”ではと歌った。この歌詞によって、ストレート・エッジ思想が確立された。

BOSTON : THE KIDS WILL HAVE SAY…ボストン・ストレートエッジ・シーンについて。イアン・マッケイが単独で歌っていた内容を、ボストンでSSDやDYSなど複数のバンドが共鳴し、シーンとして確立した。ボストンではDCと違い、酒やクスリをやっているバンドを、暴力で強制的に排除するなど武闘派も多く、激しく体を動かす体育会系のようなシーンだった。

7 SECONDS : COMMITTED FOR LIFE…初期ストレートエッジからユースクルー・シーンへの橋渡しをした7 SECONDS(7セコンズ)。
OUTHERN CALIFORNIA : IN CONTROL…西海岸のストレートエッジの創始者として知られるUNIFORM CHOICE (ユニフォーム・チョイス)。

YOUTH OF TODAY : TAKE A STAND! …ストレートエッジをアメリカ全土に広めるきっかけとなったYOUTH OF TODAY(ユース・オブ・トゥディ)。7セコンズやユニフォームチョイスなど、各地で細々と活動していたストレートエッジ・バンドに連帯感を促し、ユース・クルーと呼ばれることになるシーンでまとめ上げた。ポジティヴで健全なストレートエッジとして、新しいライフスタイルを提示した。

SLAPSHOT : BACK ON THE MAP…メタル化したボストン・ハードコアに、もう一度昔のストレートエッジ・ハードコアの活気を取り戻すため、元NEGATIVE FX(ネガティヴFX)のメンバーによって結成されたSLAPSHOT(スラップショット)。

BOLD : JOIN THE FIGHT…JOGCORE(運動部コア)といわれたBOLD(ボールド)。友情、団結をテーマに、弱い自分をみつめ、勇気を振り絞り行動していくスタイルを提示。

YOUTH CREW STYLE : MORE THAN FASHION…ユース・クルーのファッションについて。

ORANGE COUNTY : WE’LL MAKE THE DIFFRENCE…オレンジカウンティ周辺の、ドギースタイルと呼ばれたストレートエッジのバンドたち。INSTEAD(インステッド)を筆頭に、ベジタリアンだったRAGE AGAINST THE MACHINE (レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)のZack de la Rocha (ザック・デ・ロチャ)が在籍していたバンドINSIDEOUT(インサイド・アウト)。なかでもCHAIN OF STRENGTH(チェイン・オブ・ストレングス)は、カリスマ性に富み、ストレートエッジ・アンセムのひとつとして数えられている“Ture Till Death(死ぬまで事実)”という曲を発表。

JUDGE : FED UP!…ドラッグによって崩壊した家庭に育ったJUDGE(ジャッジ)。心からドラッグを憎み、闘争的なアティテュードを持っていた。ポジティヴで健全だったストレートエッジ・シーンを暴力化し、全体主義化していった。

VEGETARIANISM : NO MORE…ユース・オブ・トゥディのRay Cappo (レイ・キャポ)がクリシュリナ教に改宗したことや、イアン・マッケイがベジタリアンであったこともあって、ストレート・エッジに菜食主義的な考えが加わった。ベジタリアンに辟易してストレート・エッジを辞めていく人もいた。

NO ONE CAN BE THAT DUMB : THE U.K.&EUROPE…オランダ出身でヨーロッパ初のストレート・エッジ・バンド、Larmについて。

HARDLINE : THE WAY IT IS…HARDLINE(ハードライン)というコミュニティーを作り、ストレートエッジをヴィーガン・ストレート・エッジにストイックに推し進めたVEGAN REICH(ヴィーガン・リッチ)とRAID(レイド)。

DESPERATE STATE : UMEA STRAIGHT EDGE…REFUSED(リフューズド)を中心としたスウェーデンのストレート・エッジ・シーン。

EARTH CRISIS : A FIRESTORM TO PURIFY…ヴィーガン・ストレートエッジ思想を全世界に普及させたEARTH CRISIS(アースクライシス)。メタルエッジのサウンドに、ヴィーガン・ストレートエッジ思想を載せたサウンドは画期的だった。アニマルライツ(動物権利)の歌詞と、コンピレーションの売り上げをシーシェパードなどに支援するなど、具体的に行動に出るバンドでも有名だった。

SALT LAKE CITY:IDENTITY CRISIS…97年にユタ州ソルトレークシティーでストレート・エッジを名乗る集団が酒屋やドラッグストアなどを襲撃した事件。日本で例えるならチーマーのような暴力行為を行う存在として、ストレートエッジがアメリカ全土に認識された。

YOUTH CREW REVIVAL : DO YOU REMEMBER HARDCORE ? …IN MY EYES(イン・マイ・アイズ)やBANE(ベイン)、TEN YARD FIGHT(テン・ヤード・ファイト)などのボストンのバンドたちによるユースクルー・リバイバル。80年代のユースクルー・サウンドをベースに90年代風にブラッシュアップさせたサウンドを提示。

EAST COAST 2000 : THE UNBREAKABLE… THE FIRST STEP(ザ・ファースト・ステップ)やDOWN TO NOTHING(ダウン・トゥ・ナッシング)、HAVE HEART(ハヴ・ハード)など、新世代のバンドたちによるユース・クルー・リバイバル。前者とは違い、メロディックな要素を加え、家族のきずなや友情を歌った健やかで健全なストレートエッジ。メジャーリーガーのピッチャーであるChristopher John Wilson(CJウィルソン)が、ストレートエッジであることを表明。プロレスラーのCMパンクもストレートエッジ・ソサエティーを作った。アンダーグランドなものであったストレートエッジが、一躍メインストリーム化した。

THE VALUE’S HERE : ASIA AND THE WORLD’S EDGE…日本と韓国のストレートエッジ・バンドについて。

BACK TO DC : BUILDING TOMORROW…約30年ぶりにワシントンDCで誕生したストレートエッジ・バンド、MINDSET(マインドセット)について。D.I.Yでベジタリアン。自分たちでツアーをブッキングし、Tシャツを作り、フェアトレードを無視し、庶民から搾取する大企業の靴は履かないという姿勢を貫いている。

と、以上のようにストレート・エッジ史の重大な出来事は、ほとんどすべて網羅している。イアン・マッケイの何気ない一言で始まったストレートエッジも、ベジタリアンから、アニマルライツ、天然由来の穀物しか食べないヴィーガンまでと、30年という時間を経るなかで、時には過激に、拡大解釈が進んだ。とくにソルトレークシティーでの事件は、正しいと信じて行動したものが、社会的な悪へと転換する格好の事例だったし、シーシェパードのような拳銃で発砲し船を沈没させる行為は、もはやテロとかわらないだろう。何にしても行き過ぎはよくないのだ。

いままで個人的にストレートエッジを遵守するひとは、長生きをするための健康志向なのか、それとも不良のすることを嫌う真面目な人間という捉えかたをしていた。だがこの本で酒やドラッグのせいで家族が崩壊し、心の底から酒とドラッグを憎んでいるストレート・エッジバンドもいる事実を知り、あらためて日本とは違うアメリカ社会の闇を考えさせられた。ユースクルーという一過性のムーブメントが過ぎ去り、ストレートエッジを辞めていくバンドが意外にも多いことや、酒やクスリまで手を出すニセ・エッジ・バンドもいることにびっくりさせられた。定義がはっきりしている思想だけに、その考えを10年、20年のその遵守するのは困難だといえるだろう。それほど人は弱い生き物なのだ。

個人的にこの本で一番面白かった部分は、日本であまり知られていないバンドでも、それぞれに異なるバックボーンや物語を持っているということ。その背景やバンドでなにを伝えたいのか、どんなサウンドを表現したいのかなどの細かいディティールを知ることによって、いままでとは違った音楽のように聴こえる。そのへんが○○に影響を受けてバンドを始め、二番煎じ、フォロアー的な意味合いが多かったメロディック・パンクやエモなどのシーンとの違いなのだ。

ストレート・エッジとは精神性を主とする考えなので、サウンド的な特徴が捉えづらいシーンでもある。だが映画『ザ・コープ』やシーシェパード、ベジタリアンなど、日本人に対して間接的ではあるが、広く知られている思想も珍しいといえるだろう。個人的にはEbullition Records(エボリューション・レコーズ)について、もっと紹介して欲しかったことが不満だが、ストレートエッジのいろいろな部分が知れ、個人的に楽しめた。ものすごく価値のある本なのだ。

2017/11/02

The Kominas (ザ・コミナス) 『Stereotype (ステレオタイプ)』

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マサチューセッツ州出身のパキスタン系アメリカ人のよるパンクバンドの15年に発表された4作目。彼らはマイケルムハンマドの小説、『Taqwacores(タクワコア)』によって、その存在を世間に知られるようになったバンドだ。

彼らは政治的な問題を歌うよりも、イスラム教徒の世間的な話題に重点を置いているという。そのためそんなにシリアスなアティテュードを持っていないようだ。あくまでも音楽に重点を置いた活動をしているという。

その音楽性は、トルコやイランなどの中近東の音楽やパンジャブ民族音楽、サーフロック、レゲェやダブと、パンクとの融合。1作目の『Wild Nights in Guantanamo Bay(ワイルド・ナイツ・イン・グアンタナモ・ベイ)』で中近東音楽とパンクとの融合を目指し、2作目の『Escape to Blackout Beach(エスケープ・トゥ・ブラックアウト・ビーチ)』でアジアンなメロディーに、スカやレゲェを融合した。3作目の『Kominas(コミナス)』ではスカやレゲェを突き詰めた。そして4作目となる今作でも、前作のレゲェとパンク路線を踏襲している。

とくに変化したのはリズムで、スローテンポな曲が増えている。“Again & Again”は低音グルーヴのレゲェな曲で、“See Something, Say Something”は空間を切り裂くダブな曲。全体的にパンクな曲は少なくなったが、バラエティーに富んだレゲェの曲が増えた。そこには南の島をイメージさせるトロピカルで美しいメロディーがあり、ゆったりとした脱力ムードが漂っている。そこには民族問題や社会問題をシリアスに捉えず、社会風刺としてとらえているような穏やかさがある。

ひとつの音楽性にとどまることを嫌うバンドなのだろう。この作品でもいろいろなことにチャレンジしている。意欲的な作品だ。

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2017/07/05

Trash talk (トラッシュ・トーク) 『Tangle(タングル)』

Cover

16年にホームページ上で発表された5曲入りのEP。約2年ぶりとなる作品。彼らの特徴である怒りまくった怒声のボーカルや、音の厚みを重視したノイジーなハードコアに変わりはない。全作品を通してサウンドにブレはないが、微妙な特徴を挙げるのなら、前作はベースの低音にまでブイブイうねるほどノイジーなベースが印象的でスローテンポな曲が多かった。

今作ではスローテンポ路線を踏襲しつつも、ノイズサウンドよりギターフレーズがしっかりとわかる展開。とはいってもノイジーなサウンドであることに変わりはないが、前作と比べると、若干ノイズさが薄れている。NEGATIVE APPROACH(ネガティヴ・アプローチ)のような怒声にBLACK FLAG (ブラッグ・フラッグ)の“My War”(マイウォー)のような気合と闘争心。特に印象的なのは5曲目の“Soothe Sayer”(スーズ・セイヤー)。反復する2コードのギターフレーズが、まるで暴走族のバイクが煽りまくるような過激さを感じる。若干新しいことにチャレンジしているからといって、相変わらず怒り狂っているし、鬱さの微塵のかけらもない。聴くだけでテンションが高くなる素晴らしい作品。

2017/06/14

TERROR(テラー) 『The Walls Will Fall(ザ・ウォールズ・ウィル・フォール)』


The Walls Will FallThe Walls Will Fall
TERROR

Alliance Trax 2017-04-27
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西海岸はロサンゼルス出身のハードコア・バンドの17年に発表された(アルバムを合わせ計11枚目となる)5曲入りのEP。西海岸のバンドだが、フロントマンであるボーカルのスコット・ボーゲルがニューヨーク州バッファロー出身で、そのため彼らのサウンド的な特徴は、ニューヨーク・ハードコアの伝統的なスタイルを受け継いでいる。シック・オブ・イット・オールのOiコーラスを交えた男臭く硬質なサウンドから、アースクライシスのスローパートやノイジーなギターなど、ユースクルーとニュースクールのニューヨーク・スタイルを集約したバンドといえるだろう。

全作品を通してニューヨークのストイックで硬質なハードコアサウンドに変わりはない。だが、アルバムを発表するたびに、メタルサウンドをふんだんに取り入れたアルバムや、oiコーラスとシャウトにこだわったアルバム、ノイジーでよりアグレッシブになったアルバム、ブラストビート、メタルのギターフレーズ、ドラムのテンポの変化など、色々な要素を取り込み、バラエティー豊かに深化してきた。

そして今EPでは前作『The 25th Hour』の延長上にある、スローから急激にスピードが上がるストップ&ゴーの重く重厚なリフが特徴的なサウンドを展開している。そして注目すべきは、5曲目に収録されている“Step To You”。この曲はMADBALL(マッドボール)のカバー曲で、ゲストヴォーカルにはマッドボールのヴォーカル、Freddy Cricien(フレディー・)と、AGNOSTIC FRONT(アグノステッィク・フロント)のヴォーカル、Roger Miret(ロジャー・ミレット)が参加。ニューヨークのオールドスクール・ハードコアと、ニュースクール・ハードコアを代表する新旧世代のレジェンドによる夢の競演をはたしている。

肝心の曲だが、原曲のアレンジを変えず、忠実にカヴァー。違いがある部分といえば、ギターサウンド。全体に拡散するノイジーだったマッドボールのギターと比べると、音を絞った硬質なギターが持ち味のterror(テラー)の個性が発揮されている。ここには自分たちが好きだったマッドボールやアグノステッィク・フロント、それをひっくるめたニューヨーク・ハードコアへの限りない愛情と、伝統に対する誇らしい気持ちがひしひしと伝わってくるのだ。彼らの気合や、音楽への情熱、高いモチベーションになにも変わりはない。好作品だ。


2017/05/09

This Is Boston, Not L.A. (ディス・イズ・ボストン,ノット・L.A)

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This Is Boston Not L.a.This Is Boston Not L.a.
Various Artists

Wicked Disc 1995-10-10
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82年に発表されたボストン・ハードコア・バンドを集めたコンピレーション。この作品を聴けばボストン・ハードコアがどんなシーンなのか、サウンド的な意味でも、アティーテュードの特徴も、おおよそ理解できる。ボストン・ハードコア・シーンを知るうえで外せない重要な作品だ。

当時このコンピレーション・アルバムを制作した理由は、ボストン・ハードコア・シーンのアイデンティティを全国に広めるためと、退廃的なイメージが強かったロサンゼルス・シーンと差別化を図るためだった。そのため『This is Boston NOT L.A.』(これぞボストン。ロザンゼルスではない)という過激なタイトルがつけられた。だがこのタイトルの意味はロサンゼルスのバンドたちにとっては侮辱して捉えられ、あとにストレートエッヂ思想やNegative FX(ネガティヴ・FX)などのボストンバードコアシーンを全否定したNOFXを生み出すほど、西海岸のバンドたちには評判の悪い作品となった。この作品を発表した結果、ボストンのハードコア・シーンのバンドたちは、ほかの地域のバントたちを受け入れない排他性を確立し、ガラパゴス的な進化を遂げていった。

ほかのシーンにはなにかと評判の悪い作品だが、サウンド的には優れている。アメリカン・ハードコアのなかでも5本の指に入る名作だ。ここに収録されているバンドは、JERRY’S KIDS(ジェリー・キッズ)、THE PROLETARIAT(ザ・プロレティアート)、 GROINOIDS(グロイノイドズ)、 THE F.U.’S(ザ・フューズ)、 GANG GRREEN(ギャング・グリーン)、 DECADENCE(デカダンス)、 THE FREEZE(ザ・フリーズ)など、すべてボストンのバンドたちだ。ボストンでも有名だったSSDecontrol(ソサエティー・システム・デコントロール)やDYS、Negative FX(ネガティヴ・FX)などのバンドたちは参加していない。とくにボストンシーンの中心的存在であったSSDecontrolは、参加のオファーがあったが、レーベルへの不信感があり、参加を見送ったそうだ。

全体を通して聴いてみると、メロディックギターを導入した初期パンクに影響を受けたサウンドのバンドと、性急で電源がショートしたような歪んだギターのノイジーなハードコア・サウンドを展開しているバンドの2タイプに分かれる。だがどのバンドも声量の限りを出し尽し早口でまくし立てるボーカルと、苛立ちと焦燥感に満ちた音楽衝動の部分では共通している。それがボストン・ハードコアの特徴なのだ。この一枚を聴くだけで、ボストン・ハードコア・シーンのサウンドの特徴が分かり、しかも退廃的でメロディーパートがあるLAハードコアシーンや、スピーディーでノイジーなサウンドのバンドが多かったワシントンDCシーンなど、地域ごとの音の違いも理解できるのだ。なおCD盤には、ボストンの上記6バンドが参加し、82年に発表されたEP『Unsafe at Any Speed EP (センセーフ・アット・エニィ・スピード・EP)』がボーナストラックとして収録されている。

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